23 花言葉 葉山ほづみ視点
23 花言葉 葉山ほづみ視点
わたしは夜、かなえちゃんが寝ているところを抜け出そうとした。
「……あれ?」
かなえちゃんは、しっかりとわたしの身体を抱き締めていて、抜け出せない。
わたしがかなえちゃんのお腹をつつくと、かなえちゃんの腕が緩んだ。
その隙にわたしはベッドからするりと抜け出す。
かなえちゃんの顔はなんだか苦しそうだった。わたしはかなえちゃんの腕の中に枕を入れておき、こっそりと玄関に足を運んだ。
「やっぱり、まだ残ってる……」
スノードロップ。かつてわたしがかなえちゃんに渡してしまった花。
花言葉は、「あなたの死を望みます」。
スノードロップは、いまでもかなえちゃんの家の玄関に飾ってある。
かなえちゃんのことだから、花言葉の意味を知っていながら、大切にとっておいたのだろう。かなえちゃんの気持ちを考えると、胸が痛んだ。
「こんなの、あんまりだよ……」
わたしはこっそりとそれを回収し、代わりに、密かに買っておいた赤いチューリップを植える。かなえちゃんがびっくりしないように、植木鉢の傍には『かなえちゃんへ、ほづみからの贈り物』と書いたメッセージカードを添えておく。
「これでよし」
わたしはそそくさとかなえちゃんの寝床へと潜り込んだ。まくらに頭突きをするようにして、かなえちゃんの腕の中に戻る。
すると、またしっかりとわたしの身体が抱き締められた。
「あう」
わたしが寝返りを打とうとすると、かなえちゃんは腕を少しだけ緩める。
わたしはかなえちゃんの腕の中でころころと転がる。最後はかなえちゃんのほうを向いて、お互いにがっちりと抱き締める。
「おやすみ、かなえちゃん」
わたしはすうすうと眠りについた。