22 悪夢 刈谷かなえ視点
22 悪夢 刈谷かなえ視点
私がほづみの両親を死に追いやった?
違う、ほづみの両親が死んだのは、魔物に殺されたからよ。
何の罪のないほづみを最初に殺したのは私?
それは、どうだっただろうか……。少なくとも、ほづみに頼まれて、ほづみを殺したことはある。
私は逃げ惑うほづみを追い詰める。
夢の中の私は、黒い羽を翻しながら、ほづみを襲っていた。
嫌! やめて! ほづみにそんなことをしないで!
もう一人の私は、悪魔そのものの笑みをたたえながら、ほづみを虐げていた。
ほづみを凄惨な目に遭わせて、引き裂いて、愉悦に浸っている。
結界で退路を塞ぎ、痛がるほづみの腹を切り刻んで弄ぶ。
……見ていられない。けれど、悪夢はいっこうにおさまらない。
私は映画館の観客、スクリーンの向こう側で起きている映像に干渉することはできない。主人公は私ではない私。被害者はほづみ。
もう一人の私がしていることなのに、まるで私が殺戮を行っているかのような嫌な感触がする。まさか、本当に、私はこんなことをしていたというの?
夢の中で夢を見るとは滑稽なことだ。早く、目を覚ましたい。
生々しい夢だけれど、夢の中というだけあって、あまり鮮明な光景と感触ではないことが唯一の救いだった。
ほづみは涙を流しながら、無抵抗に腕を広げている。
私は、ほづみの言葉を思い出した。
「かなえちゃんは、私だけを殺してくれていれば、それでいいんだよ。そうすれば、周りのみんなには、迷惑かからないし。かなえちゃんも、私の命を何度も吸って、生きていられるから」
死んでいくほづみは、なかなかにしぶとかった。何度も私に殺された経験のあるほづみは、痛みに慣れているのか、気が狂ってしまったのか、私に優しい目を向けて微笑んでいる。どうしてそんな目をするの? 私は、ほづみにこんなにも酷いことをしているのに。……どうしてなの?
ほづみは、小さな悲鳴を上げて、気絶した。
やがて、もう一人の私は、ほづみにそっと口づけして、精気を吸い出す。どれだけ吸っても、なくなる気がしない。ほづみの生命力は無限大に感じられた。
もう一人の私は……いいえ。私は、ほづみを殺した。
「んー、かなえちゃん?」
私が目を覚ますと、横で寝ていたほづみが、私の上に乗っていた。
私はほづみを抱き締めようとして、自分の掌の汗に気づいた。
掌だけではない。身体全体が、嫌な汗でじっとりとしている。
ほづみはお構いなしに、私の胸に顔を埋めてくる。
「ほづみ……ありがとう」
「うん?」
私は頬を緩めて、ほづみをしっかりと抱き締めた。