20 陰謀 坂場朱莉視点 - 2
まあ、今後行動する際に、こういう勘のよさそうなヤツから無駄に警戒されても困るから、アタシのことを少しだけ、いや、ほとんど全部話しておくか。
「アンタのマスターが考えていることは、大体合っている。この世界は、夢であり、夢ではない。アタシはその事実を知ることができる。なぜなら、アタシはもとより概念だからだ」
私の本質は銀の二丁拳銃であり、彼岸の人々にとって恐怖の対象である。
「……続けて下さい」
ほっ。滝沢小百合が、ある程度、この世界の事情を知っているせいだろう、怪しまれずに済んだみたいだ。……怪しまれてないよな?
「アタシは銀の二丁拳銃、ショット=ガンとでも読んでくれ。ほら、二つ名って格好いいだろ」
「はあ」
「いや、ごめん。アタシの名前なんかどうでもいいんだ。アタシは、坂場朱莉の身体を借り、今も借り続けている。返したくても返せない、といったほうがいいんだけどな。そうして、この世界をルナークとともに観察している」
もともとの〈坂場朱莉〉は身体が弱く、助けてほしいとルナークに願った。そこで、アタシはたまたまルナークに利用され、具現化した概念となる。〈坂場朱莉〉の身体を借りて、治癒してやった。だけど、それきり、もとの〈坂場朱莉〉が戻ることはなかった。
ルナークによれば、この身体はアタシへの報酬だという。それならもとの〈坂場朱莉〉はどうなるのか問いただしたら、〈坂場朱莉〉自身がもつ肉体の命を救う代償として、〈坂場朱莉〉の魂は消失したと言いやがる。アタシは自分の身体を持って、こころを得たのはいいけれど、なんだか納得いかねえ。
それからは、概念としての存在力を保つために、世界の歪で無尽蔵に湧き出す魔物を破壊し続けていた。アタシと魔物は、お互いに食物連鎖の捕食相手としてしか思っていなかった。
そんな折、刈谷かなえがルナークの犠牲となり、魔物になる。こいつは興味深いと思い、ルナークと一緒に観察をはじめた。酷いありさまだった。さすがのアタシも、黙って見ているのが辛くなってくるほどだった。けれど、ルナークは狂った科学者のように、淡々とその様子を分析するばかりである。
「で、だ。ルナークは好き勝手に人様の願いを叶えて、あちこちに不都合な矛盾を引き起こしちまった。その一例が、今の状況。この世界は刈谷かなえの願いにより、刈谷かなえが望む通りに成り立つけれど、葉山ほづみや栗原美月の願いと競合して、そうもいかなくなった」
こうして、アタシは、ありとあらゆる情報を目の前の使用人に話した。何と思われようと気にしない。ルナークが文句を言おうとも、ゴメンの一言で済ませるつもりだ。唯一、かなえが魔物になってほづみを殺し続けていたことだけをぼかしておく。
「こうして、葉山ほづみは、刈谷かなえに精神的に追い詰められて亡くなった両親の仇を討つため……というより、刈谷かなえに人のこころを取り戻してほしいと思って、刈谷かなえを永遠に苦しめる願いを叶えたってオチ」
「そんな、残酷です! なぜ、かなえお嬢様がそんな目に!」
滝沢小百合はアタシに激昂した。アタシに言われても困る。
うーん、やっぱり、かなえがその後、何をしでかしたかも言ったほうがよかったかな。でも、あの事実は常人にはきつすぎると思うなあ。
「しかし、かなえお嬢様や私達の記憶が抜け落ちている理由がこれではっきりしました。つまるところ、かなえお嬢様が満足できるよう取り計らうことが、今の私の使命ということですね」
「まあ、そうなるのかな」
話が一段落ついたので、アタシはビンゴカードを小百合に見せた。
「じゃあ、これ。プレゼント交換会の余興にはちょうどいいだろうと思って」
「はあ、ビンゴですか」
「ちょっぴり司会の協力をしてほしいんだけど、いいか?」
「はい、私でよろしければ」