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18 第二部 プロローグ 夢現 栗原美月視点 - 4

 かなえは、ほづみと、ほづみの両親を殺した? だとしたら、どうして、かなえはほづみを蘇らせたのだろうか。また、どうして、蘇ったほづみは、当初、かなえを恨んでいたにもかかわらず、いまはまったく正反対なのだろうか。

 後者はなんとなくだが想像できる。他人を永遠に恨み続けることなどできやしない。それができるなら、この世界は犯罪大国になっているだろう。むしろ、ほづみはかなえを傷つけ続けて、それでもほづみに愛情を注ぐかなえに、こころを開きはじめたのではないだろうか。それにしても、あそこまでべったりというのは納得がいかない。あたしにもほづみ成分を分けてほしい。かなえよりもあたしのほうが、ほづみとは昔からの友達だったはずなのに。

 もともとほづみは人見知りだったから、あたし以外の人には強く当たるはず。けれど、ほづみは、いまのかなえちゃんに対して優しすぎる。あたしが嫉妬するくらい。ルナークにこんな愚痴を言っても、時間の無駄だろう。ルナークに人間の機微まで理解できるとは思えないから。……できるのかな? まあいいか。

 問題は、前者だ。どうして、かなえはほづみを蘇らせたのか。もしかしたら、かなえはほづみを蘇らせることを願ったのではない? いや、そんなはずはないのだけれど、そんな気がしないでもない。例えば、ほづみとずっと一緒にいたい、というのはどうだろう。一方的に一目ぼれしていて、っていうのもおかしいか。かなえとほづみが絡む前の話だけに、動機が思いつかない。ほづみを殺してから願ったというなら、かなえは正気を失っていたのだろうか、あるいは、罪悪感から蘇らせたのだろうか。悪魔になってから殺して、蘇らせた、というなら、どうしてかなえは悪魔になったのだろうかという疑問が生じる。

「かなえちゃんは、ほづみんのために悪魔になっちゃったの?」

「まあ、そういうことになるな」

「かなえちゃんの願いは?」

「常に、葉山ほづみの傍にいることである」

「うーん……? どうして、かなえちゃんは、ほづみんを蘇らせようと思ったんだろう。やっぱり、よくわかんないなあ。本当に、かなえちゃんがほづみんを殺したのかな」

「まず、刈谷かなえは葉山ほづみを助けるために、葉山ほづみを殺す寸前まで虐待していた葉山ほづみの両親を警察に通報するが、証拠がないからと、とりあわない。人権センターに相談しても、本人の同意がなければどうしようもないという。そこで、刈谷かなえは、常に葉山ほづみの傍にいることを望んだ……と思われる」

 あいまいな言い方だなあ。

「……刈谷かなえは人のこころをほとんど失い、まずは葉山ほづみの両親の精神を狂わせ、間接的に殺した。その後、葉山ほづみは、両親を殺した刈谷かなえに恨みを抱く。葉山ほづみは校舎の屋上で、悪意ある何者かに刺殺される。だが、葉山ほづみは刈谷かなえの願いによって蘇った」

 その目撃者の中には、あたしとかなえちゃんもいた。

 大勢の生徒が騒いでいるところを、先生達が冷静に注意している。

 何がなんだかわからなかった。

 あの事件の起きた日、あたしは事情聴取を受けてから、ショックで自宅に引きこもっていた。

「葉山ほづみは死ねない自分に苛立ちながらも、死の痛みを体験したことで、死ぬことに恐怖を抱いてもいた。葉山ほづみは刈谷かなえに復讐すべく、刈谷かなえを永遠の不幸に陥らせることを望んだ。その結果、刈谷かなえは何度もほづみを間接的または直接的に殺し続け、魔物を召喚してほづみを襲い続けた。しかし、時間とともに、過去の記憶と呪いが薄れていった刈谷かなえは、ふと、自分の行いに気づく。葉山ほづみも、死に慣れていき、刈谷かなえを恨むこころも薄れた……のだと思われる。人間観察を繰り返してきたルナークにできる事実に基づく予想と予測は、これでおおむねすべてである」

「うええ……最後まで、えげつないなあ。でも、その考えだと、ほとんどすべての辻褄が合うんだよね」

 まあ、ルナークが嘘を吐いているかもしれないから、何ともいえないけれど。

 あたしはあたしで、別の考えがある。ルナークの意見は参考にするだけ。

 あたしは、近くの木にもたれた。用が済んだので、あたしは軽く念じて、ルナークに巻きつけた光の縄を解いた。

 ルナークはおもむろに立ち上がろうとするが、座り込む。あたしのつけた傷で身体中ぼろぼろのルナークは、そのまま白い帽子になってしまった。

「しょうがないなあ。あたしが牛さんを預かっておいてあげるよ。まあ、元はといえば、あたしのせいなんだけどね。あ、でも、こんな混沌とした世界にしてしまった原因は、牛さんにもあるような気がするんだよね」

 白い帽子は何も語らない。

 帽子は穴が開いて擦り切れ、全体的にくすんでいる。


 ルナークの言説によれば、夢の世界からかなえちゃんを戻すと、ほづみの肉体が失われてしまう。けれど、かなえちゃんを自分の両親に会えないまま放っておくわけにもいかない。自分は、なんのためにここに来たのか。世界の秩序を守り、正義を貫き通すためだ。そして、そのためには、他人の不幸を黙って見ているわけにはいかない。お節介だと思われても構わない。それが、あたしの正義なのだから。

 あたしの考えはこうだ。ほづみの肉体が滅んでしまうなら、新しい肉体に魂を移してしまえばいい。魂の概念がよくわらかないけれど、あたしならなんとかできそうな気もする。でも、これは最終手段にしておきたい。それに、かなえちゃんや、かなえちゃんの両親が、あたしのお節介を望んでいないなら、無理に解決する必要もないだろう。むしろ、事実を淡々と伝えたほうが、二人のためになるのかもしれない。逆に、ぎくしゃくするかもしれないけれど……。

 あたしはあたしで、悩むことは多かった。

「かなえちゃん、大丈夫かなー?」

 白い帽子に語りかける。返事はない。

「何か言ってよ」


 あたしは跳躍し、かなえの邸宅へと戻った。

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▼本編▼
ルナークの瞳:かなえのこころ(第一幕)←いまここ
かなえさんのお茶会(番外編)
ルナークの瞳:かなえの涙(第二幕)
かなえさんの休日(番外編)
『ルナークの瞳:かなえのこころ』反省会(※非公開)
ルナークの瞳:美月の笑顔(※非公開・没稿)
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