1 告白 刈谷かなえ視点
1 告白 刈谷かなえ視点
私、刈谷かなえは、最果ての魔女に反抗した高位の魔物。魔女や悪魔の類だと思ってもらっても構わない。本質的には同じもの、自然界の生物とは異なる、概念の具現化した姿を指す。変なことを言っていると思うのは私も同じ。もし私が普通の人間で、面と向かって「私は高位なる魔物」なんて言われたら、きっと何かの冗談としか思わないだろう。
魔物は、生に執着し、私利私欲にまみれた邪悪なものだ。普通なら、私もそのはずだった。私に課せられた本来の目的は、人の命を刈り取って生き永らえることだ。でも、私にはそんなことはできない。ほづみのような優しい人を傷つけるなんて、考えられない。
ほづみは、私があいつの気まぐれで人殺しを命じられていたにもかかわらず、無視して一緒に遊んだ仲だった。今思えば、なぜ、ほづみに出会ってしまったのだろうかと思うけれど。それ以上昔のことは、よく覚えていない。もしかしたら、残忍にも大量殺戮を繰り返してきた悪魔だったのかもしれない。
ほづみは、人殺しをしなければならない運命にこころを痛めている私に、優しい言葉をかけてくれた。しかも、「わたしのことは殺してもいいけれど、ほかの人は傷つけないで。お願い」と頼まれてしまった。ほかにもいろいろあったけれど、話すと長くなる。
あの魔女のことは気に入らなかったし、もともと人の私は人殺しなんて気分のいいものではなかった。でも、あの魔女に反抗するのが怖かった。
でも、ほづみは殺せなかった。私が渋っていると、あいつが別の魔物を送ってきて、ほづみを殺そうとした。私はとっさに、ほづみを襲う魔物を皆殺しにした。
私は、最果ての魔女に反抗したのだ。あいつはほづみを呪い殺した。
何日か枕を濡らした。私の力をもってしても、あいつにはかなわない。ほづみを生き返らせることもできない。
だが、不思議なことに、ほづみは何事もなかったかのように学校に来ている。
これは、私にもよくわからない。
今のほづみは私のことを忘れているようだけれど、それでも構わない。
私には、ほづみが必要だ。ほづみがいないと生きていけない。
私は、私がこころから愛する葉山ほづみが再び魔物に襲われることのないよう、必死でほづみを拒絶していた。なぜなら、一度、異空間や魔物に関わると、それ以降も魔物に襲われてしまうから。
ほづみを巻き込みたくなかった。
でも、あいつは見逃してくれなかったようね。
こうなったら、ほづみを守り続けるしかない。
絶対に、ほづみの命を渡してたまるものか。
二〇一六年十一月二十二日(木)
私は、学校でほづみに話しかけられた。
「刈谷さん、おはよう」
私の忠告を聞いていなかったのだろうか。
いずれにせよ、もう手遅れだ。挨拶程度ならいいだろう。
「ええ、おはよう、ほづみさん」
「へ?」
ほづみは軽くまばたきした。
しまった。無意識に名前で呼んでしまった。
馴れ馴れしいやつだと思われただろうか。どうしよう。
「えっと。かなえちゃん、おはよう」
ほづみが名前で呼んでくれた。嬉しい。
今日は、ほづみが名前で呼んでくれた記念日にしよう。
何を考えているの。私はほづみと深く関わりすぎてはいけないのに。
とはいえ、今後のためにも、ほづみに危険性を忠告しておかなくてはいけない。