16 魔獣 刈谷かなえ視点 - 2
「じゃあ、聴くけどさー。あたしも偽者?」
美月がのんきな表情をしながら、天井に立っていた。
この頑丈な結界の中、どこから入って来たの?
栗原美月……まるで、ゴキブリのようね。
今は、そんなことどうでもいい。私はほづみが恋しくてたまらない。
「牛さんったら、水臭いなー。教えてくれてもいいじゃない。あたし、自分が偽者だなんて気づかなかったよ」
「…………」
栗原美月が頭をかいている。
「元の世界のあたし達って、元気にしてる?」
「今、ここにいる」
「はへ?」
どういうこと? 栗原美月は本物だというの?
「栗原美月とここの家に来ている面々は、葉山ほづみを除いて、ルナークに願いを込めて、身体ごと刈谷かなえの『夢の世界』に進入した。代償として、当人にその記憶はない」
「えっと、その、どういう?」
「質問には事実をもって答える」
「じゃあ、ほづみんは?」
「葉山ほづみの存在は、刈谷かなえの願いにより、魂や意識とでもいうべきものをこの世界に閉じ込め、肉体を与えて生かしている。その代償は、本人以外に話すことはできない」「じゃあさ、元の世界のかなえちゃんって、どうなってんの?」
「病床に着いて植物状態になっている。しかし、それは刈谷かなえの願いの辻褄を合わせるために用意された仮の肉体である。決して目覚めることはなく、決して老いることも、朽ちることもない『人形』である」
「どうやったら元の世界に帰れるの?」
「刈谷かなえが願えば、『元の世界』に帰ることができる」
栗原美月が興奮して何事か呟いているが、よく聞こえない。
聞きたくない。
どうして、よりにもよって、ほづみだけが例外なの?
酷すぎる。こんな現実、あんまりよ……。
「ほづみんは連れて帰れない?」
ルナークは、盛大に鼻を鳴らした後、忽然と消えた。
「ちょっと! まだ質問は終わってないよ! あ、かなえちゃん、すぐ戻る!」
栗原美月は、私に何か言い残して、ベランダから飛び出した。
一人になった部屋では、私の小さな嗚咽だけが響いた。