14 希望 刈谷かなえ視点 - 4
「……そろそろ本気で怒るわよ」
「いや、怒らせに来たわけじゃないんだ。こうやって人のこころが動くのを見ているのが楽しくて仕方ないから、つい煽り文句を喋る癖が抜けないけれど」
「そう。人として最低ね」
今の坂場朱莉の意志は人ではないけれど、いくらなんでも酷い言い草だ。
私がどんな思いでほづみの死を見届けてきたのか、何も見ていないのに、偉そうな口ばかり言う。
でも、今まで死んでいったほづみ達には、どんな顔をすればいいのかわからない。せめて、ほづみ達の大きな墓を家の裏庭に建てて、今のほづみを全力で守ることでしか償えない。
「夢に溺れたいなら、そうすればいい。だけどよ、アンタはこのままじゃ、いつまで経っても何を願ったのか思い出すことはできないだろう。アンタは直接的には、何も願っていない。全部が夢の中の世界での話、全部が捏造された記憶なんだから」
「何も思い出すことができないのは、あなたのせいじゃないの?」
もう我慢ならない。
私は、坂場朱莉の帽子に照準を合わせた。
「ちっ」
坂所朱莉は、苦虫を噛み潰したような表情で、身を翻す。
「逃がさない」
私はショットガンの引き金を素早く絞った。
白い大きめの帽子に、六つの穴を開ける。
帽子は、無残な姿を晒しながら、地面に落ちていった。
同時に、坂場朱莉の意識が途切れ、身体は前のめりになる。
「世話の焼ける子ね」
私は坂場朱莉の身体を支えると、異空間を通じて栗原美月の家に放り込んだ。
「美月さん。ちょっと、この子をお願い」
「ふえっ?」
寝相の悪い美月が、私の気配に気づいて半身を起こした。
私が坂場朱莉をパスすると、美月は成す術もなく押しつぶされた。
「ぐえっ」
「あ、ごめんなさい」
「何? 何がどうしたの? えっ、この子は……えっ?」
「この子、怪物に操られていたのよ」
美月はごしごしと目をこすっている。
「あー、うん。そんなようなことは、言ってたような」
「知っているなら、話が早いわね。いきなり私の家に上がり込んで、さんざん私を煽ってきたの。むかついたから、忌々しい魔力の感じたところを打ち抜いたら、この通りよ」
「うん。それで、どうして、あたしの家に運んできたのかな?」
「ほづみとの一夜に邪魔だったからよ。でも、外に放り出すのも可哀想だし、美月さんの家に預けておけば、万事解決すると思ったの」
「えー……。万事解決してないよ。あたしの意志は?」
美月は愚痴を言いながらも、のんきに坂場朱莉を布団でくるんでいる。
「正義の味方、美月さんなら、多少、強引に預けてもいいかと思って」
「もしかして、手紙のこと、怒ってる?」
「ほづみにフラれて傷心気味の美月さんに、悪魔で大魔王な私からの計らいよ。ありがたく受け取りなさい」
「あー、やっぱり怒ってる? ごめんね?」
「おやすみなさい」
私は異空間の扉を閉めた。
ベッドに戻ると、寝ぼけたほづみの手が、心配そうに私のことを捜してくる。
「ほづみ。私はここよ」
「かなえちゃん……」
私がほづみの手を両手で握ると、ほづみは微かな笑みを浮かべた。