14 希望 刈谷かなえ視点 - 3
「なあ、変だと思わないか。どうしてこの世界では、死人が平気で蘇るんだ? 人外の魔物がうようよいて、人を襲うんだ? 何で、アンタはほづみを必死で守ろうとするんだ? 何で、都合よく、美月が浄化能力を持っているんだ? どうして、ほづみは不思議な杖を持っているんだ? 何で、この世界では、何度も似たような日々を繰り返していたんだ? 何で、アタシらはいつまでも高校生なんだ? 何で、アタシらは美少女ばかりなんだ?」
「最後のは余計よ」
「こんなもの、現実生活では考えられねえ」
「聞いてないわね。それで、この世界が、まっとうな現実世界のイメージとはかけ離れていることの、何が問題だっていうの」
坂場朱莉のような何かは、私に詰め寄ってニヤリと笑ってみせた。
今すぐ撃ちたい。けれど、人間の身体を借りていると言っていた。
ほづみの目の前で、人間の死体を晒すわけにはいかない。
それ以前に、仮にも「人」の身体を傷つけることはできない。
私は目の前の障害を消せないもどかしさから、強く歯噛みした。
「そう、それだよ。この世界は、都合がよすぎるんだよ。誰にとって? 最後の最後にハッピーエンドを勝ち取ったのは、紛れもない、アンタだろ? 物事が、アンタの思い通りに動いている。それに、いままで本当に長い時を繰り返したのか? ほづみを生かし、傍にいることを望んだのか? それまでもが捏造された記憶だって保障はねえんだろ?」
「あなた、さっき、自分で『この無限に続くカタストロフに飽きた』って言ってたじゃない」
「じゃあ、アタシが何の脈絡もなく、都合よく人外が乗り移った身として、アンタに話しかけているのは、どうしてだ? アタシのような人外が『そういうこと』だと主張すれば、何もかも納得のいく説明になるからじゃないのか? アタシがいつ、何も間違えず、絶対に嘘を吐かない人外だと保障されたっていうんだ?」
「あなたが自分で言うことではないわ」
私は、無防備なほづみの頭を撫でた。そっと抱き寄せたい気持ちをこらえる。
「そうかもしれないけれどさ。じゃあ、アンタが見ているこの世界が、全部夢の世界で、何もかもが造り物だったらどうするつもりだ?」
「……これ以上、私に何を抱えて生きていけっていうのよ」
まだ、私に「苦しめ」というの?
少しくらい、楽しい夢を見ることも、許されないの?
やはり、私は、幸せになってはいけないの?
私は涙を堪えた。こんな怪物の詭弁に惑わされてはいけない。
私がどんな思いでこの未来を勝ち取ったのか、この怪物には、きっと理解できないことだろう。私は、流れるようにほづみのあごを撫でて、こころを落ち着ける。
「アナキシマンドロスの主張は、証明のしようがない。たとえ、この世界がすべて夢だったとしても、私は今のほづみを守り続ける」
坂場朱莉のような何かは、肩をすくめた。
「ほう。だとしたら、今まで死んでいったほづみは報われないな」
「傍観者のあなたが言えたことではないわ」
私は怪物を鋭く睨みつけた。
右手は、銃を強く握っている。けれど、左手は、ほづみのあごに夢中だ。
「でも、事実だろう? ほづみは何度も見殺しにされたんだ」