14 希望 刈谷かなえ視点 - 2
『あたしの特性って知ってる? あたしの特性は、ずばり、浄化能力! 悪を裁き、闇を断つ、スーパー剣豪美月さまの能力にかかれば、不浄な「呪い」だけを切り捨てることができるってわけなんだよね~。どう、すごい? すごいでしょ。あはは、かなえちゃんは、あたしに頼んで正解だったよ。あたし、肝心なところでバカだからさー、ほづみんの前でボロ出しそうで怖かったー』
終始余裕だった理由がわかったわ。
『え? なんで黙ってたのかって? そりゃあ、全力で戦ってみたいじゃん? だって、史上最強の大魔王、かなえちゃんだよ? あはは! あの格好、とっても似合ってたよ』
「余計なお世話よ」
「かなえちゃん?」
私は、自分の姿を記念撮影していたことを思い出した。
いいじゃない、別に。そういうのが好きな年頃なんだから。
「続けるわよ」
『本当のこと言うとさ、ちゃんと浄化できるか自信なかったんだ。だから、こっそり、ほづみを連れてきた。何のお別れもなく、いきなりさよならは、寂しいだろうし……。あたしもさ、お父さんが何のお別れもなしに亡くなったときは、「さよなら」くらい言ってほしかったな。そんな暗い話は置いといてさ、今度、かなえちゃんの家にあたしも呼んでおくれよ! 朱莉ちゃんも行きたがってたよ、かなえちゃんハウスパーティー! 食材とか飲み物とか持ってくからさ。うん。きっと、この手紙を読んでいるころには到着すると思うから』
「って、今、午後二時じゃない」
「美月ちゃん、かなえちゃんが朝になってから起きると思ってたんじゃないのかな、たぶん……」
そそっかしいやつだ。
四人でパーティーをするには十二分すぎるくらいの家だ。ほづみとの結婚祝いにパーティーをするのも悪くはないだろう。
「かなえちゃん、また変なこと考えてる?」
「そんなことあるわけないじゃない」
私は毛先を弄っていた。
身体が重い。
今日はほづみと一緒に、ぐっすりと眠ろう。
「なあ、ちょっと寝るのは待ってくれよ」
周囲の時が止まる。
見渡すと、坂場朱莉が私の傍に立っていた。
「何の用。私は、ほづみと寝たいのだけれど」
「なあ、このままハッピーエンドでいいのか?」
「どういうこと?」
私が坂場朱莉を睨み付ける。
気が緩んで、結界を貼っていないところの隙を突かれたか。
ここで台無しにされるわけにはいかない。
「なあ。アタシは今回、この無限に続くカタストロフに飽きたから、ちょっとばかり手を加えてやったんだけどさ」
「何を言っているの」
「アタシは単に人間の面白い動きを見るのが楽しみなんだよ」
淡々と語る坂場朱莉は、愉悦の笑みを浮かべている。
不快だ。早く出て行ってもらいたい。
「そう。あなたは人間ではないのね」
「ま、この身体は人間だけどな。ちょっと借りているだけさ」
「興味ないわ。……それで、用が済んだなら帰ってくれる?」
「用も何も、アンタが望んだことだろうが」
「そんなこと、望んでないわ」
私には坂場朱莉が何を言っているのか理解できない。
私がこれ以上、何を望むというの?
富? 金なら、顔も見えない家族から月十五万円と、高校生にしては多額の仕送りがある。それだけではない。警備の仕事や、怪しい政治絡みの仕事もして、ほづみを助けるための軍資金を溜めた。もちろん、ほづみとの約束を守るため、一人たりとも「肉体的に」傷つけてはいない。
不思議なことに、どれほど日が経とうとも、どれほど同じような日々を繰り返そうとも、金がなくなることはなかった。すべてが元通りというわけではないのだろうか。
名声? いいえ、興味ないわ。ほづみがいれば、それでいい。
力? これ以上、力を蓄えてどうするというの。ただでさえ、うまく制御しきれていないというのに。ほづみを守る力さえあれば、これ以上はいらない。
愛? ……愛? ほづみの愛? 愛は、自力で勝ち取ればいい。
後は、何がある?
「なあ、気にならないか。アンタさ、何で魔物になっちまったんだ? 何を願って、どうしてこんなことになっちまったんだ?」
記憶? ほづみとの記憶があれば、もう、何の記憶もいらないのに。
「記憶がなければ、他人を愛することもできない。逆に、記憶があるがゆえに、他人を恨むことだってあるんじゃないのかな、と思ってさ」
「消えなさい。今、すぐに」
この女は、不吉なことを言いそうな予感がする。
私は布団の中で銃を顕現させ、いつでも撃てるよう握り締めた。