13 虚無 葉山ほづみ視点 / 14 希望 刈谷かなえ視点 - 1
13 虚無 葉山ほづみ視点
ほづみは公園のベンチに座っていた。
自分一人だけ生き残っているのは、こんなにも辛いことなのか。
かなえが今まで背負ってきたこころの痛みは、これほど苦しいものなのか。
ほづみは、しきりに泣き続けた。
日が暮れるまで泣き続けた。
「お待たせ、ほづみん」
美月はいつもの軽い調子で、ほづみの元に顕現した。
ほづみがそっぽを向くと、美月は「Oh.」とだけ呟いた。
「ごめんよ、ほづみん。機嫌、直しておくれよ」
「もう、美月ちゃんのことも、かなえちゃんのことも、何もかも、信じられないよ……。ひどいよ……。これからひとりで生きていくのが、辛くてたまらないんだよ……。ねえ、美月ちゃん、何か言ってよ。ねえ! どうして……」
美月は、ほづみの気迫に臆することなく、相変わらず、のんきな態度だった。
「まあまあ、ごめんって。それよりさ、これ、見てよ」
14 希望 刈谷かなえ視点
ふわふわとした、まどろみの中にいるようだ。
私は地獄に堕ちたのではなかったのか。
地獄がここまで心地よいものだとは思わなかった。
手に、柔らかい感触を得る。
「かなえちゃん、おはよう」
「…………」
聞き慣れた声がした。
嘘だ。これで終わったはずではなかったのか。
勢いよく身を起こすと、私の家のベッドの上だった。
時計を見ると深夜二時を回っていた。
身体中が痛い。夢の中のできごととは思えないほどに、痛い。
袈裟斬りにされた記憶が、心臓を刃で突き立てられた記憶が、ふと蘇る。
「げほっ、ごほっ」
「かなえちゃん、しっかり!」
私の様子を見て飛び起きたほづみは、私の背中をさすった。
「ほづみ、これはどうなっているの?」
「どうもなにも、美月ちゃんが運んでくれたんだよ」
「栗原美月が?」
「うん。悪は滅びた、って言ってたけど」
自分の身体を確かめてみる。どこも異常はない。
いつの間にかパジャマになっていて、洋装はベッドの上に折りたたまれていた。
「えへっ、お着替えしちゃった」
「ほづみ、見たの?」
「まあ、うん」
「もうっ」
「わっ、やめて、かなえちゃん、くすぐったい!」
私はほづみの脇腹をくすぐった。ほづみはくすぐったそうにもがいた。
魔力も、ある。けれど、あの禍々しい感じはしない。
あの、禍々しい杖に宿っていたような感じや、呪いの感じが、まったくない。
疑問に思っていると、折りたたまれた洋装の隙間から一枚の紙切れが飛び出しているのが見えた。
私は、おそるおそる抜き取って読んで見た。
『拝啓、優しいかなえちゃん。ほづみんと仲良く寝ているかい? ほづみんにフラれたあたしは、ちょっぴり傷心気味です、えへへ』
手紙からバカっぽさが伝わってくる。
でも、美月はこう見えても学内で私の二番目に総合成績は優秀だ。
『ところで、世界の綻びの原因って、何だと思う? 気になったので、朱莉先生に伺いましたよー。なんと、それは呪いそのものなんだそうです。だから、無理にかなえちゃんを懲らしめなくても、呪いだけ浄化できればよかったんです。ああ、でも、あのルナークの杖っていう、ルナークさんの瞳があしらわれたブツにもたっぷり呪いが入っていて、これをどうにかしなきゃいけなかったんですよー。で、かなえさんは、それを、なんと、食べちゃったと。これには、さすがの美月ちゃんもびっくりです!』
「美月ちゃん、楽しそうだね」
ほづみは、私に顔を近づけて、一緒に手紙を読んでいた。
「そうね。いつもはこんな感じなの?」
「いつもより元気そうだよ。絶好調、って感じ」
「ふーん」
私は紙を裏返した。裏面もびっしり書かれている。