12 正義 刈谷かなえ視点 - 2
「じゃあ、悪いけど、さくっとやられてくれないかな」
栗原美月は、私のことを射抜くような眼差しで睥睨する。
「ちょっと待って」
「えっ」
私はブレザーを脱いで折りたたみ、地面に置いた。
「ちょっと後ろ向いてて」
「いいけど……」
私は制服をシワにならないよう丁寧に畳む。
自宅の収納棚を転移させて、ほづみにも着せようと思っていた洋装を身にまとう。ただ、着るのが結構面倒臭い。魔法でさっさと着られればいいのだが、私の転移魔法は、それができるほど精度が高くない。
「まだかい?」
「いいわよ」
収納棚に制服を仕舞い、自宅に転送する。
私は華麗にポーズを決めて見せた。
「どう?」
「どう、って……。うん。まあ、似合ってるんじゃない?」
栗原美月は目を泳がせている。
そこまで露出の激しい服でもないし、動きやすいように改良もしたから、いいと思うのだけれど。何がそんなにおかしいのだろうか。
「えー……じゃあ、悪いけど、さくっとやられてくれないかな」
のんきな栗原美月は、私のことを睥睨する。
「さくっとやられるくらいなら、今頃、心中しているわよ」
私は自我を保ちながら、最期に好きなだけ暴れることにした。
「手加減するつもりはないわ。全力でかかってきなさい」
私は翼を広げて腕を掲げ、悪役っぽく笑ってみせた。
でも、寂しさで、ちょっぴり泣いているのは秘密。
「へへーん、後悔しても知らないよ!」
結界の中は、白いノートのような壁で覆われていた。
壁や床にはドイツ語が刻まれている。
栗原美月が文字を踏みつけると、文字が浮かび上がった。
私が大量の赤目玉の使い魔を放つ。
栗原美月は手持ちの刀で次々と切り伏せていった。
私は地面を引き剥がして栗原美月に放り投げ、垂直に飛翔する。
「ひょいっと」
栗原美月は横飛びで、向かって右に避けた。
空中で黒い羽を撒き散らし、結晶に変えて栗原美月に降り注がせる。
栗原美月は、初弾を剣で弾き飛ばし、残りは前転でかわした。
「おお、怖い、怖い」
まだ表情に余裕のある栗原美月に、不意打ちで銃撃を喰らわせる。
銃弾は栗原美月を貫いたが、ガラスのように砕けて消えた。
「お命、頂戴!」
背後から切りかかる栗原美月を、私は、ただ見ていた。
そのまま袈裟斬りにされた私は、地面に叩き付けられる。
「ふぇっ、当たった? 今ので?」
不思議そうな様子で空中から見下ろしてくる栗原美月に、私は指図した。
「動きが単調すぎるのよ、あなた。はやく止めを刺しなさい」
「ちぇっ、手加減無しじゃなかったのかよ」
もちろん、手加減するつもりなど毛頭ない。
けれども、ほづみのことが頭から離れず、戦闘に集中できないでいた。
それと、栗原美月、思った以上に強い。
栗原美月は、くるりと一回転して靴を鳴らした。
異世界の床から、文字がふわりと浮かぶ。
私が文字の使い魔を操り、栗原美月の足元に突撃させる。
栗原美月は使い魔を切り伏せながら、壁を伝って私の近くまで駆け寄った。
「ごめん」
感情を押し殺した声で、栗原美月は柄を握り締め、私に突き立てた。
私は、不思議なくらい満面の笑顔で、血反吐を吐いた。
「じゃあね。ほづみ」