表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/63

10 憂鬱 刈谷かなえ視点


   10 憂鬱 刈谷かなえ視点


 二〇一六年十一月二十四日(土)クリスマス・イヴ

 私は自宅で溜息を吐いていた。

 まさか栗原美月に「悪魔」呼ばわりされるなんて。

 でも、私のこころがだんだんおかしくなってきているのは自覚している。

 鏡を見てみる。ちょっぴり魔力を使って、それっぽくしてみる。

 黒い翼を生やし、瞳の色を赤くしてみた。

 ハロウィーンに渋谷を歩いていそうな、滑稽な格好になった。

 アニメで見る女悪魔というと、もっと奇抜なファッションだった気がする。制服姿でいる悪魔は、それはそれで需要があるかもしれない。

 試しに、箪笥からゴシック衣装を抜き出して、翼を生やし、目の色を変え、鏡の前で不敵な笑みを浮かべてみる。まあ、ぴったり。

 携帯で、鏡越しに記念撮影する。私は未だにガラケーだけど、ほづみはスマホだったような気がする。どうにもスマホは慣れないが、機械が苦手というわけではない。むしろ、銃の扱いなどで機械にはすこぶる慣れている。ただ、なんとなく、スマホにしてしまうのが、ガラケー愛用者の私にとっては少しばかりこころが痛むのだ。でも、ほづみがスマホだから、近いうちに私もスマホにするだろう。

 こうして、どうでもいいことを考えていないと、こころがどこかおかしな方向にいってしまいそうだ。もし、私が壊れてしまったら、栗原美月に格好良く討ち取ってもらおう。ほづみにだけは迷惑をかけられない。そうやって、ひっそりと、この世界から未練を断ち切ろう。

 明日はクリスマス、悪魔の私が浄化されるにはちょうどいい日だ。

 聖なる夜には、悪魔の私からとびきりのクリスマス・プレゼントを遺してあげたい。でも、何を遺しても、ほづみはそれを見て悲しむかもしれない。

 なら、私は形あるものではなく、世界の秩序をほづみにプレゼントすることにしよう。不本意かもしれないけれど、私にはこれくらいのことしかできない。

 そうこうしているうちに、ほづみが起きてしまいそうなので、さっさと制服に着替えた。用意しておいた食事を配膳し、ほづみを起こしにいく。

「む~、かなえちゃん、どうしてこっそり起きちゃうの?」

「お互い様よ、ほづみ」

 私は優しくほづみに笑いかけた。

 ほづみといると、こころが落ち着く。

「ん?」

 ほづみは不思議なものを見るように、私を見た。

「あれ? かなえちゃん、どうしたの、その目」

「ふぇ?」

「羽まで生やしちゃって」

「あ」

 記念撮影に夢中で、もとに戻すのを忘れていた。

「ごめんなさい、ちょっと遊んでいただけよ」

 いつもの姿に戻ると、ほづみは、ほっと溜息をついた。

「びっくりした、かなえちゃんが壊れちゃったのかと思った」

 私はいつものように、ほづみの頭を撫でた。

 私のこころは壊れはじめている。こんなにも愛おしいほづみのことでさえ、幸せな人間であることに嫉妬し、憎んでしまいそうなほどに、おかしくなっていた。

 あの禍々しい杖は、ことごとく私とほづみの邪魔ばかりする。でも、もう後悔しないと決めた。精一杯抗って、それでもどうしようもない運命なら、素直に受け容れることにする。こんな地獄にほづみを付き合わせ続けるわけにはいかない。

 私はほづみとの楽しい日々を思い返し、こころを落ち着ける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賀茂川家鴨の小説王国(賀茂川家鴨の個人サイトです)
▼本編▼
ルナークの瞳:かなえのこころ(第一幕)←いまここ
かなえさんのお茶会(番外編)
ルナークの瞳:かなえの涙(第二幕)
かなえさんの休日(番外編)
『ルナークの瞳:かなえのこころ』反省会(※非公開)
ルナークの瞳:美月の笑顔(※非公開・没稿)
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ