8 弁当 刈谷かなえ視点 / 9 悪魔 刈谷かなえ視点
8 弁当 刈谷かなえ視点
昼休みのこと。
憂鬱な気分で窓を眺めていると、ちらほらと雪が見え始めた。
「かなえちゃん、一緒に食べよ」
「ええ、どうぞ」
私は、前の席が空いているのをいいことに、そこにほづみを座らせた。
こっそりと人払いの結界を貼り、ほづみと机をくっつける。
教室で談笑していた女子グループは、自然と教室を後にした。
近くで昼食を取っていた生徒も、弁当をしまい、教室を出ていく。
ほづみは辺りを見渡している。周囲には誰もいない。
「あれ? みんな、いなくなっちゃった」
「そうね、ほづみと二人きり」
ほづみは不思議そうに弁当を開いた。
私もそれに合わせて弁当を開く。
私とほづみが手作りした色とりどりの弁当である。
「わーい、かなえちゃんとおそろい」
「まあ、うん。一緒に作ったから当然なのだけれど」
弁当箱は二段構成になっている。
下の段は、白米とごましおふりかけが詰められている。
上の段は、焼いた鳥肉、卵焼き、トマトサラダが肩を並べる。
水筒にはハチミツ入りの紅茶を注いで持ってきた。
「いただきます」
ほづみはふりかけをかけてから、卵焼きとご飯を口に含んだ。
私もほづみと同じものを口にする。
「どう、かな」
ほづみが心配そうに私を見ている。
「甘くてふわふわしているわ」
私が微笑むと、ほづみはにっこりと笑った。
卵焼きはほづみが焼いたものである。
「うん、タレがお肉にしっかり絡んでて、とっても美味しいよ」
「よかった。ほづみのために頑張って作った甲斐があったわ」
鳥肉は私が焼いたものである。
ほづみのために、繊維質の細やかな、極上の鳥肉を用意した。
「かなえちゃん」
「何?」
私がほづみとの食事を楽しんでいると、ほづみは突然小声になった。
「……かなえちゃん、何かしたんでしょう? あんまり、みんなに迷惑かけちゃだめだよ」
「それは、その……ごめんなさい」
私は、はっとした。何のためらいもなく、自分の望みを叶えるために、私はほかの生徒から談笑の場を奪ってしまった。
私は、廊下から栗原美月が睨みを利かせているのに気づいた。
結界の効き目がない?
疑問に思いつつも、私は結界を解くことにする。
やがて、教室は再び談笑の場へと戻った。
栗原美月、あなたは一体、何者なの?
9 悪魔 刈谷かなえ視点
放課後、教室清掃の後、花を摘みに、たまたま一人で廊下を歩いていた。
ほづみを一人で待たせている。早く戻らなければ。
「おい、ほづみんをどうした」
栗原美月に呼び止められる。邪魔だ。
くるり、と首だけで振り返ってみせた。
「ほづみさんのこと? 彼女なら、私と一つ屋根の下で暮らしているわ」
わざと、自慢げに語ってみせた。
「ほづみんのこと、誑かしてさ。いい気になってんじゃないよ、この悪魔!」
悪魔、ね。
「……返す言葉もないわ」
「えー、そこは何かびしっと言うところでしょー?」
「だって、本当のことだもの。全部、私の責任よ」
栗原美月は、うーんと唸っている。
私は栗原美月の肩をぽんと叩いて、その場を通り過ぎた。
「じゃあ、またね。私が壊れそうなときはよろしく」
「あ、ちょっとー?」
ほづみには私の処分を任せられない。
ほづみに看取ってほしい気持ちはあるけれど、でも、私がほづみを殺した時の辛さを、ほづみにも体験してもらいたくなんてない。絶対に。