6 愛慕 刈谷かなえ視点 / 7 日常 刈谷かなえ視点
6 愛慕 刈谷かなえ視点
私は、ほづみと一緒にベッドで寝ている。
黄色いパジャマを身に着けたほづみの寝顔は、目を合わせるだけで昇天してしまいそうなほどに、幼くて、儚げで、愛くるしかった。
私のほうはというと、ほづみに合わせて、同じ黄色のパジャマを着ていた。布地が擦れ合い、指先が触れると、そっと握り合う。
とても、落ち着かない。心臓の音が、耳に触る。
ほづみは、私と一緒に寝ると言って聞かなかった。
別に、私は床で寝てもよかったのに。それに、畳部屋にも客人用の布団はある。
でも、「かなえちゃんの香りがするベッドがいい!」なんて言うし。
「ほづみ、どうしたの?」
普段使いのベッドで、私が仰向けに寝ていると、布団がもぞもぞと動いた。ぬくもりのあるほづみが、私の身体に覆いかぶさり、私の身体をしっかりと抱きしめる。私も、ほづみがいなくならないように、強く抱きしめた。
「かなえちゃん、大好き」
「ほづみ。私も大好きよ」
私は、そっと、ほづみの唇に、自分の唇を重ねた。
7 日常 刈谷かなえ視点
二〇一六年十一月二十三日(金)
時刻は午前六時を回っていた。
夜中、ずっとほづみを撫で回している夢を見ていた。
実をいうと、夢ではなくて、現実だったのだけれど。
こんなにも幸せな夢を見たのは何年ぶりだろうか。
いつの間にか、私とほづみは横向きになり、お互いに抱きしめ合っていた。
「ほづみ、おはよう」
ほづみは、すやすやと眠っている。
「うー……」
私の声に反応して、ほづみは少し身じろぎした。
もう少しこのままでいたい。今日は休日だし、ゆっくりとしてもいいだろう。
いつもほづみの動向をチェックして、魔物に襲われないように目を光らせていたが、ほづみがいつも傍にいれば、その必要もない。私の呪いが薄まり、禍々しい杖を私の身体の中に取り込んだ今では、ほづみが私以外の魔物と関わる危険性も少なくなっていることだろう。
私は、ほづみの頭を優しく撫でた。ほづみは気持ちよさそうにして、私の胸元に顔を近づけてくる。
「ほづみ、目は覚めた?」
「う~ん、もうちょっと、かなえちゃんと寝たいな」
「ほづみのために、朝食を作りたいんだけど……」
「それなら大丈夫、もう作ってあるよ」
「ぬう?」
「かなえちゃんがぐっすり眠っている間に、ご飯と味噌汁を用意しておいたよ」
「はえ?」
「あと、昨日のシチューの残りもあるし、サラダも盛り付けたし、卵焼きも作ったし、お魚も焼いたよ。ラップしてあるから、暖めればすぐに食べられるよ」
「ありがとう。でも、言ってくれれば、私も手伝ったのに」
「かなえちゃん、気持ちよさそうに寝てたから、起こすのに気が引けちゃって」
「別に、いいわよ、起こしても。今日は朝からごちそうね。ちゃんと残さず食べられる?」
「シチューはまだ、たくさん余ってるから、美月ちゃん家や朱莉ちゃん家にも持っていってあげたらどう?」
「そうね。考えておくわ。料理が冷めちゃうから、早く起きないと」
と言いつつ、ほづみの髪の毛の香りを嗅いでいる私がいる。朝の日差しを受けたほづみの髪の毛、パジャマに覆われた、ふわふわした頬、薄桃色の指先、いつの間にか布団がめくれて、はだけたパジャマの隙間からちらりと顔を除かせたほづみのお臍、等々。そして、なにより、ほづみと間近でいられる時間。
楽しみたいものは、堪能しきれないほど、たくさんある。
名残惜しい気持ちを抑えて、私はほづみとともに洗面所へと向かった。私は、普段使っている歯ブラシをこともなげにほづみへと渡す。
私は客人用の歯ブラシで歯を磨き、口をゆすいだ。
「ねえ、今度、かなえちゃんに歯磨きしてほしいな」
「いいわよ」
私は、髪を櫛で整えながら、素っ気ない返事をした。
ほづみの歯磨き。一度、やってみたかったことのひとつかもしれない。
できることなら、こうした日常が、ずっと続いてほしい。
私は、少しずつ、普通の生活というものを思い出しはじめていた。