序 第一部 プロローグ 邂逅 葉山ほづみ視点 - 1
はじめに(諸注意)
本稿には以下の要素が含まれています。
①軽度の百合(?)
②殺人・残酷表現(悪魔かなえの行動など)
③重い生活環境の描写(いじめなど)
④フリーダム美月
⑤捏造された愛
⑥その他
なるべく抑制的に描写するよう心がけていますが、念のため「R15」タグをつけておきます。
以上の要素が苦手な方、精神が疲弊している方、十五歳未満の方は、ブラウザバック推奨です。
本稿は三六文字×四〇行の縦書き形式で読むことを想定しています。
あらかじめご了承下さい。
主要人物
刈谷 かなえ 葉山 ほづみ 栗原 美月 坂場 朱莉
周辺人物
滝沢 小百合 城井 智子 ルナーク
本稿はフィクションです。実際の人物・団体等とは一切関係ありません。
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~流し読みしたい方へ~
刈谷かなえ「すぐに本筋(シリアスや戦闘多め)読みたい方は、第一部の『1 告白 刈谷かなえ視点』の最後まで読んで、第二部の冒頭から読み始めるといいわよ」
葉山ほづみ「日常成分がほしい方は、このまま第一部を読み続けるといいかも」
序 第一部 プロローグ 邂逅 葉山ほづみ視点
二〇一六年十一月二十日(火)
午前七時三〇分。
高校の制服姿の葉山ほづみは、父母とともに朝食をとっていた。
「ほづみ、もう時間だよ。はやく食べないと遅刻するぞ」
母に急かされるが、なかなかパンを食べきれない。
「うん、がんばる」
メガネをした父は、コーヒーを飲みながら、少々呆れた笑顔をしていた。
「まあまあ。あんまり急がせたら可哀想じゃないか」
「そうかい?」
「じゃあ、ほづみが食べ終わったら、僕も行こうかな」
母はやれやれと肩をすくめた。
「あなたはさっさと行きなさい。そうそう、あたしは午後から出張だから」
「ほづみが一人だと心配だし、なるべく早く帰ってくるよ」
パンを口一杯に入れたほづみは、コップ一杯の水を一気に飲み干した。
「パパ、心配しなくても、わたし一人でも平気だよ」
「そうそう。ほづみはもう高校二年生なんだから。あなた先生なんでしょう? しっかりと仕事してきなさい。教え子が可哀想じゃない」
「わかってるよ。じゃあ、ほづみ。ちょっと遅くなるけれど、何かあったらパパの携帯にすぐ電話するんだよ」
「ママの携帯でもいいからね。あ、職場はやめて。セクハラ上司が出ちゃうから」
「うん。わかった」
ほづみは席を立つと、食器を片付けた。軽く洗い流しておく。
鞄を持って玄関へと駆けて行く。
父も渋々食器を片付け、ほづみを追いかける。
「行ってきます」
「行ってくるよ」
「早く行きなよ、遅れるよ!」
「はーい」
「よお、ほづみん」
「おはよう、美月ちゃん。待った?」
学校に向かう途中、美月の家に寄る。美月とともに雑談しながら登校する。
私立東雲学園は広大な庭園の中心に位置している。ほづみはA組である。
学校に着くと、ちらほらと人の姿が見えた。
「刈谷さん、おはよう」
「…………」
かなえはそっぽを向いた。
「あの」
「…………」
「えっと」
「…………」
ほづみは、刈谷かなえがほづみを避けていることに気づいた。
ふらふらと美月の元に戻ってくる。
「わたし、何かやらかしたかな」
美月はほづみの傍で、「感じ悪いなあ」と不満気にぼやいている。
「も、もう一回やってみる」
「おいおい……」
ほづみはかなえの元へ、おそるおそる近づいていった。
「かなえさん!」
ほづみが勇気を出して、大声で名前を呼んだ。
かなえはぴくりと頬を動かし、ほづみを睨んできた。
「……何の用」
美月は、後ろのほうで、心配そうにほづみを眺めている。
「わたし、『葉山ほづみ』って言います」
「『刈谷かなえ』です。葉山さん、くれぐれも、私に近づかないで」
かなえは冷淡に言う。
「え?」
ほづみは悲しそうに眉尻を下げた。
「私に近づいたら危ないから」
「どうして、刈谷さんに近づいたら危険なのかな」
かなえは自分の長い黒髪をいじり出した。
「あなたが知るべきことではないわ」
「ええー、いじわる。そんなこと言われたら気になっちゃうよ」
ほづみは小さくふくれた。かなえは無表情でそっぽを向く。
「こっそり教えてくれないかな」
「だめ」
「ねえ、教えて?」
「だめ」
「うう……」
ほづみはかなえの視線の先に移動し、しっかりと見つめる。
「わたし、刈谷さんとお友達になりたいよ。それとも、わたしが刈谷さんに、何か悪いことしちゃったのかな……」
かなえは寂しそうに、机を見つめた。相変わらず髪をいじっている。
「違う、そんなことはない。ただ、葉山さんがこの秘密を知ってしまったら、葉山さんに危険が及んでしまう。それだけじゃない。私の傍にいるだけでも危ないの。私も葉山さんと友達になりたいと思っている。だからこそ、お願い、私に近づかないで」
「刈谷さん、わたしのことは気にしなくてもいいんだよ。だから、ね、教えて」
「だめ」
ほづみは、かなえの机に頭を乗せて、かなえを見上げた。
「どうしても?」
「うっ……だめっ、だめよ!」
かなえは歯を噛み締めて、小さく被りを振った。
「だめかあ……」
ほづみは、休み時間が終わりそうになったので、渋々と自分の席に戻った。