混ざり合っていた混沌
ただ楽しかった、だから外見だけはそのままにして、やるよ・・・!?
「うぐっ、未だ投げる余裕が」
「さすがの、私も、余裕が無いので……そっくり返します
別に物を転移できないなんて言ってないですよ、童よ」
致命傷を与えたのに既に血が止まっている……
不死者の名も伊達じゃないな
だがそれでもダメージが大きいのかその場で崩れ落ちる
「まだ死ねませんね、この程度でやられては案内人の名が廃れます、っぐ」
「さ、流石に動けないだろう?何がともあれ、これで邪魔を排除できた、強かったがそれだけだな」
まだ戦う意志を残しているのは
ロイヤルの長っぽいやつとヨミキリさん、何故か後ろにいる盾役と前に立っている支援役にバトルメイスの聖職者
教皇に至ってはただ祈りを捧げているようにしか見えない
6人パーティ、協調性がないことを除いてまるでRPGだな
驚くほど後衛が少ないな
それでも相手取るには分が悪すぎるか
「さてデザートを頂くとするか、俺は一番好きなやつから食べる派なんだ」
「……そうか、俺は食いやすい方から食う派なんだ、準備はいいか?」
「何の準備だ?神に祈る準備かい?」
「ご生憎様です、私たちはその前にすることがあるのですよ
――我こそが統治者なり、乱す外道すら我が血肉の一部、その銘によって命ずる
傅け、下郎共――《秩序》」
「クライマックスと言ったな?たしかにそうだ、その通りだ、お前のためのエンディングだぞ泣いてみせろよ、糞餓鬼」
「案内人殿、貴方の活躍無駄にはしません、今はごゆっくりお休みください」
力が抜ける
満たしていた混沌が消えていく
破裂する前の悲鳴を上げている兵すらも何もなかったかのようにもとに戻される
傷のせいでろくに立てずに支えていた混沌が掻き消えたことで座り込んでしまう
教皇、だったか
道理で猫耳と真面目そうな女が前に出て盾持ちが後ろにいたのか
「お前が……俺の天敵か、呆気ないな、くくく」
「皆さんに護られなければ、犠牲を払わねば貴方ほどの能力を無力化出来ませんでした」
「ただ、いつでも殺せるとそう思ったのが間違いだったな」
「一番安全に殺れるときに殺る、スカウトの鉄則だよ」
「むしろ行動予測が容易くて助かった」
「つまりそういうことだ、たしかにお前の力は強い、だが」
異世界の男が金属鎧を着込んでいるはずなのに音も立てずに近づいてくる
だけど、確実に近づくそんな音が幻聴する
まるで死神だな、くく
「代償として冷静を見失ったか?泣くな、惨めに見えるぞ」
泣く?俺が?どうして
嗚呼、そうか
「今まで辛かったか、それで壊れてしまったか」
「……」
「だがお前がしたことはそれを理由に許されることではない」
「……」
「一生贖罪できると思うな、それは所詮独り善がりなんだから」
「……」
なんで優しく語りかける!
さっきまで俺は!お前らを!
お前らは俺を!
「お前の手によって失われた命がある、それは絶対に許されないだけどな」
「助けに行ってやれなくてすまないな」
「!…………今更なんだ!何…………だ、その言葉は!お前は一体何だ!」
「もしとか、たらとか、そういうのを抜きにしても、まだ手は打てた、だがそれをしなかった俺の落ち度だということだ」
「何が出来たんだ……!?助けられた、とでも思っているのか?!テメエは何様だ!」
「お前を苦しまずに殺せたかもしれない、それが救済だとするならば そして今尚それを求めるなら」
言い切る前に教皇が遮る形で言葉を紡ぐ
「ヨミキリさん、この者の処罰は私達が請け負います」
「……ここは教皇あんたの国だ、好きにしな」
彼が去り、彼が来る
「あなたの為してしまったことは私の恩人が言うように許されることではありません」
「だからなんだ、絞首刑か?」
「私達の国では教義で死刑というものが存在しません、奴隷に関しても犯罪奴隷すらこの国では禁じています」
「なら、あの隔離してる森に放り込むのか?」
「いいえ、あなたにはその罪の償いを一生してもらいます、これは私のそして貴方の独善です」
「……お前の?」
「その行動で赦す赦さないのを決めるのはいつだって遺族です、今回この場で倒れていった方々は残念ながら家族が居ない孤児だった方々です、ならばその遺族は私であるべきです
アルテミナ教に入り、私の右腕になりなさい、私の鏡として」
「俺をか?」
「安心してください、私は悟るまで死なないんですよ、それにまた貴方がこういうことをしでかそうとしたときは」
「今度こそその頭蓋を砕いてやるぞ」
「……人殺しにすら情けをかけるお人好し、か 周りのものがかわいそうだな……」
「それを承知で為す、それが我々です」
もう少し早ければ、コイツも救われていたろうになぁ……
つくづく運が無いなぁ、それなのに運良く手を差し伸ばされるなんて
「新たなる信徒よ、其の名を与える」
「……俺の名……」
「コウワ・クロノ、異国の言葉で黒いという意と交ざる和と書くそうです、今日からそう名乗りなさい」
「交和……黒乃交和……」
前世の杉沼海斗ではなく、生まれ変わったアドルフでもなく
其の壊れた精神の後釜に座った混沌でもなく
黒乃交和としてようやく、人生をやり直せるのか……
皮肉なものだ
「さーて、お涙頂戴のエピローグに進むのもいいんだが、まだ終わってないぞ」
「正直私達これを手土産にCGUCに帰りたいんだけど」
「これからでかいヤマがあると思うとかつてないほど逃げたいのだが」
「コイツの嫌疑とかロイヤルの解体とか、それとこの老いぼれ狸の処遇とかどうするんだ?」
「彼についても負って処罰を下させます、今回の一件貴方がた冒険者が居なければもっと酷いことになっていたはずです」
いつの間にかいなくなっていたそいつを冒険者たちが縛り上げて連れ出していた
何か喚いている様子だが猿轡を噛ませられていてわからない、だが
事の発端はそいつから始まった、もしとか、たらればを付け加えるなら
そいつが俺を見つけなければ見出さなければ、こんなことになることもなく……
いや、それでも最善ではなかったのか
ただ最良だったのか




