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没・Karma Gear Story  作者: D.D
空回りの歯車
73/78

歪んだ混沌

 歪む、少年を取り巻く空気が、調和の取れた騎士の隊列が、同時に放たれた貫くはずの弾丸が

 彼自身の意識さえ歪み混ざり、崩壊していく


 世界にとっての異質な力、だが世界の管理下であるがゆえに大事には至らない

 人は有用とだけで使うそんな能力






 それが意識を持つなんて考えもしなかっただろうな、ケケケ

 程よくこいつの人格が壊れてなきゃ、乗っ取ることなんて夢のまた夢だったが

 そうか、こいつか

 本体()を壊したのは

 取り敢えず雑ざれ


 俺の周りの壁と床から這い出してきた複数の雑色不透明の混ざり蠢く腕がそいつの手足に絡み付こうとする


「なっ!?なん・・・だぁ!?」


 混沌の腕を寸前で後方に避けるか

 人の目っつうのは、ごちゃ混ぜになって立体感を失っていると遠近感を誤認するから

 初見で避けきるなんて出来ないのに大した輩だ

 といっても一本程度じゃなく複数あるがねぇ


「おっとぉ、それ以上避けるなよぉ?後ろに添えてある手がうっかり触れそうになっちまったじゃねえかぁ」

「いつの間に…………お前は何だ?」

「そういや名乗ってなかったねぇ、俺はアドルフ、元の名はカイト・スギヌマさ」

「その体の名じゃない、お前自身の名だ、二重人格か?それとも乗っ取りか」


 へぇ、腕に囲まれてるのによく平然としているな、触れるだけでも雑ざるその腕を前にしてよぉ

 しかも俺の正体に感づくとはなぁ


「さぁなぁ、こうやって表出んのも初めてだからてめえ等をぶち混ぜたあと考えるぜ」

「お前の能力は流石に情報になかった

 がケイオスか随分むちゃくちゃな能力じゃないか、何処まで出来るんだ?」

「ケケ、時間稼ぎしてショック死狙ってんならぁ無駄だぜぇ、すでに止めてある」

「んなもん当然だろ、と言いたいが流石にそれで腕生やすとは予想外だ、しかも複数とは思いもしなかった」

「で、どうするんだい?現代史最後の英雄さんよぉ、おっと今は異世界の英雄か?」

「お前もお前で癪に障るやつだな?俺は英雄じゃない」

「少なくともここではだろう?」


 ケッ、向こうの連中も手練れじゃねえか、牽制用に10本出した腕がもう後4本じゃねえか

 あの狸爺め、何がロイヤルは役立たずだ

 バリバリにできる輩じゃねえか


「俺が推測するに、周りのものとの境界を乱雑化して、無力化するといったところか?」

「当たらずとも遠からず、だけどなぁ!」


 魔術師を雇っているとは好都合、隠れてだまし討しようとしたその制御陣の内容をかき混ぜる

 そう考えながらその腕で触れるだけで、ほら簡単

 魔術師の魔力で起動する爆弾の完成

 それを耐えてもう一度打とうものなら、その魔法陣ごとをグシャグシャに丸めてロイヤル共に投げつける、それだけで暴発し辺り一面にばらまかれた魔力弾が奴らを撃ちぬく


「無力化なんてそんな軟っちいものじゃねえよぉ!」

「くっ!術式発動、ミラージュ!」

「無駄だぁ!」


 視界がぶれて、虚像になったそいつを薙ぎ払えばすぐに霧消して、本体が見える

 大体がその魔法自体本体を見えなくするんじゃなくて、視線をすり変えるだけの代物だ

 なぎ払うだけで虚体も本体も関係ないの、さ!


「いくら能力が凄まじかろうがこれには勝てんだろう?」

「へえ銃か、殺ってみろよ!」


 轟音とともに放たれた弾丸は俺が軽く一払いするだけで弾かれ天井や床に穴を開けるだけで俺には一掠りもしない

 俺がこの鎧男に集中している間に後ろから矢が二本放たれるが、それすらも危なげなくつかみとる


「おいおい、正面切って無効化されるとか二度目だぞ、正直自信なくす」

「ちょっと!いくら短弓でも速度としてはそれなりのものよ、それを容易く!?」

「ケハハハ!この程度かぁ?さっさと能力を使えよ、出し惜しみするとおっ死ぬぜ」


 とはいっても使えんだろうなぁ

 能力というのはそいつ自身にとっての奥の手

 普段から使うようなら俺に勝てやしないし

 使わないやつの大抵は見誤って出し惜しみするか、代償が怖くて使えないかだからな

 さてと、さっさと殺るか、生き延びたやつはじっくり甚振ればいい


「さ、さすがだな さっさと此奴らを始末しろ!」

「あん?誰だオメェ?」

「何を言うておる!この儂に楯突く虫を始末しろと言っているのじゃ!このぐらい役に立たんと保護した甲斐がないじゃろ!」

「へぇ、ああなるほどねぇ」


 保護、ねぇ

 それが例え、豚箱と変わりない部屋に監禁して

 痛めつけて精神を壊し、挙句快楽のはけ口にするのが保護というのなら

 新たに生やした混沌を逃げ場がないようにゆっくりと爺めがけて向かわせる


「まあ、壊した要因に俺も居るけどぉ、耄碌豚は胸糞悪いからミンチになっとけ」

「ひ、ひぃ!こ、こんな事計算になかったぞ!や、止めろぉ!」


 それを阻止せんと異世界の英雄さんや冒険者やらバトルメイスを持った聖職者やらが奮闘するが

 俺の腕は特別性だ、触れれば触れるほど俺の勝ち目が濃くなるだけだぞ

 そうこうして手をこまねいている内に俺の腕がなんとかという爺の体に触れることは誰にも止められず触れた

 筈だった

 前触れもなく触れようとした腕が掻き消えた

 この場合は秩序に戻ったと言うべきか

 何の前触れもなくただ元に戻った、弾丸でも魔法でもない、とするならば

 スキルか

 それを使った相手は消え去った腕の先に居た

 老執事、確か案内人と呼ばれてたか


「ケケケ、まさか天敵さんが居るとはなぁ、偽善爺」

「天敵とはなんのことですかな、それに偽善と呼ばれる筋合いはないです、皆様にとっての義が私の義ですので」

「あ、案内人、た、助かった……」

「別に助けたいから助けたわけではありません、魂約に従ったままです、貴方には然るべき罰を受けてもらいます」

「その魂約とやら、掻き交ぜて無効にしてやってもいいからぁ、そこを退け」

「お断り申し上げます、この身尽きようともこの城の案内人であるからして!」


 イヤダ、タタカイタクナイ

 デモ



 タノシ…

 チィッ!流石に腕を出しすぎたか

 さっきの腕をこいつに割くとしても

 これ以上増やしたらそれこそこいつ()の精神が擦り切れかねねぇ

 そうでなくとも維持に手間取っているというのに

 …………仕方がない


「ケケ、楽しくなってきたな てめぇらとも遊んでいたいが気分が変わったぜ」

「何?」

「おめえらの相手はその腕一本で十分だ、存分に楽しみな!」

「くそ!腕から腕が生えるって有りかよ!回り込ませようにも無理だ!」

「まだか……」


 幾本かの腕をこねくり混ぜるかのように合体させ一つの巨大な腕に作り変える

 質量に対しての代償比は大きくて対応力としては悪いが

 キャパが増える分には十分だ

 それに半数を戻したから十分この執事と殺り合える


「そいつを場外に追い出したのは正解だぜ、巻き込まれて死んじまったらつまらねえからなぁ」

「それは随分買っていただけましたね、光栄の限りです」

「思ってもないくせに言ってんじゃねえよぉ!」


 吹き飛ばされた腕の根本から30は下らない細い腕を出してやつに食らいつかせる

 それを光や煙を出す妙な玉で防がれるが、所詮は虚仮威し

 光によって眼を潰される前に腕で覆い隠し

 潜ませた腕含めて合計42の腕がありとあらゆる方向から攻撃する


「全方位からのなぎ払いは避けれんよなぁ!!?」

「案内人を舐めてもらっては困りますよ、お背中がお留守ですよ」


 手応えがないのを確認したときにはすでにそいつは俺の真後ろで短刀を振るっていた

 思いっきり腕で自身を弾き飛ばすことによって脇腹から背中にかけて服が裂けただけで済んだ

 何が塗ってあるかわかったもんじゃねぇからな、危なかった


「すばしっこいじゃねぇか、老いぼれのくせに体力あるな」

「貴方様こそ、以前と比べて表情豊かになりましたね、人が変わられたみたいです」

「そりゃどうも!あんたらの御蔭さ」


 手数としては俺のほうが勝っている

 更にまともな一撃でも食らわせれば能力によって俺が勝つ

 だがあいつはまるでテレポートするかのように素早く動くせいで腕が捉えきれていない

 鞭のようにして薙ぎ払おうにも、英雄の放つ銃弾で勢いを相殺されてしまう

 全面的に攻撃に転じようとすると矢が隙間をぬって飛んでくるせいで集中が散らされてしまう

 だが巨大な腕は騎士達を巻き込みながらのたうち回り

 俺自身も腕を使って壁や柱を破壊しながらあちこち移動している


 その激しい攻防に耐えきれず建物が崩れ始める

 巨大な瓦礫が幾重にも絡み合った腕に降り、被害者を出しながら押しつぶされる

 状況は押されつつも彼らの方に分が傾き始めた


 嗚呼面倒くさい

 まず一人始末するか


 押しつぶされていた集合体を一部を槍のように変質させ、騎士の腹部に突き刺す


「グッ……急に…ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!」

「どうした!余裕があるものはこいつを後方に避難させろ!」


 負傷した仲間を避難させるのは道徳的だ、実に褒めるべきことだ

 だが、そいつはすでに手遅れだ

 まず体と鎧がごちゃ混ぜになった

 そして内蔵も血管も筋肉も骨も、神経や血すらも境界がわからなくなるまでぐちゃぐちゃの肉塊になっていく

 混ぜた後は傷すら残らないから救いようもないだろう?

 それに、どうせ皆殺すんだ

 たとえこの部屋内だろうと、致命傷で助からないとしても逃さねぇよ


「何をなされたんですか!!?」

「ちょっとした憂さ晴らし、ああ安心しろ あれは痛みもなく…………」


 破裂する、そういう前にその騎士が血肉の破片を周囲に撒き散らしながら破裂した

 ちょっとかき混ぜる速さ見誤ったが、むしろ好都合だな

 混沌というものはどうも人を恐怖に陥らせる類のものだ

 目の前に起きた現象は其処にいる奴らを恐慌状態にさせ、更に混沌させるのに十分すぎる

 もう殆どの騎士達が士気を失った

 一際派手な騎士が叫ぶがもう関係ない、意味がない


「貴様!許しては置かんぞ!!」

「さてそろそろクライマックスだぜ、不死身の案内人さ~ん?」

「……」

「ついでにアンタの能力もだ」


 もうトリックは割れた

 たとえどんなに避けようとも、俺の混沌には触れてしまう

 無数の手が肉を削いでもゆっくりとだが目に見える速度で治る

 血肉を変容させても、元の姿に戻るとするならば

 調和するもしくは秩序に戻す能力を持っているはずならばすぐに戻ったとしても抉った部分は戻らないだろう

 不死者なら直る理由にもなる

 なら能力は秩序でも何でもなく少なくともこの城内のすべてに移動できる能力だろう

 回避不可能の攻撃をしているにも関わらず俺の死角に移動しているなんてありえないからな

 ただ最初の現象は不明だが


「ただまぁ、直接体内を掴んだら流石に死ぬだろう?」

「だからどうしたというのです」

「別にどうしたもこうしたもないぜ、ただいうなれば」


 案内人の背中に気付かれぬよう取り付かせていた(混沌)が心臓を貫く

 そこから広がっていくように血管が破裂し、おびただしく血が流れ落ちる


「…………!?」

「ただいうなればぁ、べつに生きてる物から生やせないなんて言ってないし

 もっと言うなればぁ、不死者だろうが肉塊になったら終わりだろう?」


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