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没・Karma Gear Story  作者: D.D
空回りの歯車
70/78

思想する象徴

 Side:Chaneme


 僕はここではない名も忘れてしまった街で生まれ育った

 素朴なパン屋の一人息子で将来は父の店を継ぐのだと思っていた

 そんなある時僕が一人で店番をしていると一人の老人が入ってきた

 最初はパンを買いに来たかと思ったが、いつまでも僕の目を見ていたから違うのだと

 当時幼い僕でも理解できた、すると老人は名前を言った


「私はシャネムというものだ、坊やここでおすすめのパンは何だい?」

「嘘つき、それ僕の名前だよ。そこにあるサンドイッチは皆買ってくよ」

「何故嘘だと?」

「見えるもん、嘘つきは赤くなる」


 あとから聞くと僕は真偽眼というものを生まれついて持ったと知った

 嘘を云っている者はその嘘の大きさに依って赤く見える

 時々薄く赤くなる人もいれば、常に真っ赤な人、変わらない人だっている

 嘘がいけないことだと無口な父は言った

 嘘は時に人を強くするが同時に脆くするものだ、そして人を陥れる悪魔でもある

 だから俺は嘘をつかない

 だけど今なら言える

 真実しか吐かない人間ほど信用出来ないのはいない

 あの老人、つまり先代教皇に連れられてここに足を踏み入れた時に

 彼は適度に嘘を吐く人だった、緊張をほぐすために法螺も吹いた

 人を救うときに聖書に書かれていない言葉をスラスラと述べた時もあった

 でもその嘘はどうしようもなく輝いて心地よかった

 他の人のそれとは全く正反対だった

 先代がお隠れになったあと、取り入ってきた人らもいた

 平気で嘘を並び立て媚びへつらっているのを見た時はあまりにも汚れた赤で吐きそうにもなった

 でもそれが普通だと知って、必死に我慢した

 ある人はその嘘を本当に変えたこともあったからだ

 だから僕は、私は彼らを信じている

 この中に決して犯人がおらず何かの外部からの犯行だと


 今こうして頼れるロイヤルとともに矢面に立っているほとんど見知らぬ冒険者は

 先代以来見ていなかったあまりにも清々しく綺麗な赤で高らかに嘯いた


「大船に乗った気持ちでいてくれ、全ては俺の手のひらの上だ、お前は黙って見てりゃ良い 俺は人の命運にかけた勝負事には負けた試しがないんだ」


 その赤に見惚れたせいなのでしょうか、本来無礼に当たることをした彼を心強い方だと思ってしまうのは、そしてその綺麗な赤の中に一つだけ混じっている赤を越して黒に見える赤を疎ましく見てしまうのを

 集まっているほぼ全員が赤、全ては誰かの手のひら

 見落としは許されない、賭金は私の命

 賭けられているものが利己的なのに苦笑しながら、玉座に歩む

 自分がいなければならないその席へ、帰還を喜ぶ真っ赤な声に包まれ私はその席に向かって壇上へ上がり席に着こうとした時にある人物に止められた


「待て、其処にいる者が本当に教皇聖下であらせられるのか問いたい」


 枢機卿達がいる中で数少ない常に赤くない人物の一人

 玉座から向かって右側にいるヴァリウス枢機卿が問う


「其処にいる無法者が連れてきた贋物かもやしれんぞ」


 本心から言っている、何処までも聖職者として真っ直ぐ生きているそんな彼だからこそ真剣に問い詰めているのが私には見える


「聖下の懐刀であるロイヤルたちを疑っているのか!」

「ほう?よもやこの者らが犯した失態を忘れたわけではあるまいな?」

「くっ!だがしかしだ、この短期間で救出して更にはその犯人を縛り上げたのだぞ!」

「だがこの卑夫は城内に入ったことはない、その証拠に」


 洗礼を受けたものには右肩に精油を掛けられ、その右肩にある魔道具を近づけると紋様が現れる仕組みとなっている

 更にその紋様は洗礼を受けた教会によってその形は違い、このアルテミナ城は際立って違う

 無論彼はこの城にきたことがないから現れない

 いや、鎧姿だからそもそもに現れるのか疑問ですが


「その……者なのか?お前は何と申す?」

「……ヨミキリだ、冒険者のヨミキリ 証明は其処の仲間に聞いてくれ」

「確かにそうよ、同じ冒険者として依頼で同行していた私ミルスと」

「ミーティアだ、同じく依頼として同行していた」

「別ギルドとしてミラオスだ、飽く迄も冒険者としての仲間です、今回の一件には関わっていません我が父と神に誓って

 そして確かにその者は我らと同行していたヨミキリです」

「ふむ、ではこれより神の名において審判の儀を決行する、賛成のものは……全員だな

 では、始めよう 神の下での虚偽は大罪を意味するいいな?

 まず最初に、ヨミキリよ何故聖下を誘拐した?」

「前提がおかしい、大体この教会どころか国に来ること自体初めてでそいつが教皇だったなんて知らんかった」

「ならば、いつ自分が攫った相手が聖下だと知った?」

「……そこの大層な騎士様が大声で教えてくれたよ、おかげでやばいことに巻き込まれたとも思ったね

 そんなことよりもアンタ、そこの騎士達よりも話がわかるやつじゃないか、アンタに最初に会っておけば心強ッ!?」

「余計な口を叩くな、自身の纏う鎧で押しつぶされたいか?質問だけに答えろ」

「衝撃が、内部まで、グゥ……響くなんて、戦士の間違いだろ……」


 刃物を禁じられている聖職者に与えられている武具は刃のついていない鈍器か魔法具となる

 そしてヴァリウス枢機卿の最も得意とするのは柄が心臓の位置の高さまである大型のメイスで高位のアンデッド相手に立ちまわることもあるこの教会で個人として最高戦力の聖職者でもある

 その軽い一撃をもらって悶えるなんて丈夫ですね

 しかし、ここに来るまでの軽口以降彼は一度も嘘をついていない

 何を警戒しているのでしょう?


「今度は、聖下を何処に隠した?」

「隠したも何も其処にいるじゃない……グァッ!!?」

「為にならんぞ、吐け」

「ゴホッ……ガッ……ッツゥッ!!」

「ヴァリウス枢機卿!神が見ておられますぞ、そこまでにしておかないとその者は」

「ふん・・・・では次だ、何処の誰に雇われた?」

「……自身の所属するギルドのマスターの依頼で正気の森調査に訪れただけだ」

「誰と組んでいる?」

「其処にいる仲間と一緒に依頼をこなしに来ただけだ」

「そっちのではない、誰と結託した!この中にいるはずだ」

「ヴァリウス猊下!我々を疑う気か!」


 私が転移させられる直前の場所は成る程確かにここにいる誰か歯科は異例ない場所

 疑うのは当然ですね

 ですが私を支持してくれている方たちは私を暗殺する理由はない

 まだ一度も嘘をついていない人はヴァリウス枢機卿を除いた枢機卿や大司教のなかだと後4人その中の一人しか反対派にはいない

 ならうち一人が犯人、そういうことですか?


「この中に手引したものがいなければ聖下を転移場所を特定させずに転移させるほどの技量を持つ魔導師でもない限りできまい、答えろ」

「……だから前提がおかしいと言ってるだろ」

「転移したものを捕らえろという任務を与えたのではないか?」

「そんな不透明な依頼誰が受けるかよ、そんでもって其処にいるのが教皇じゃないっていう証拠はあんのかよ?」


 そうです、彼の言動で赤くなっていないということは私が偽物だと断定するモノがあるということです

 でも、そうするとヴァリウスは今回の事件には関与していない、ということになりますね

 誰が、私を嵌めたんですか?


「質問をするのはこちらだ」

「だから何度も言ってるだろう?前提がおかしいって、其処にいるのが教皇じゃないならどうしてそこの騎士様がそれを知らない?何故この中の殆どがその事実を知らない?

 血眼になって探すはずだろう、大事な象徴なんだから、そして手柄にするために発表するはずだろ?

 断定できるならいるんだよな、その自称本物の教皇様が、既に反教皇派連中の下に」

「なっ・・・!?」


 ……そういうことですか!?

 ただ本物か否かと問うだけなら、別に嘘はいらない

 だけど先程の『聖下を何処に隠した』といった

 ハッタリ掛けるのであれば赤く染まる

 だけども染まっていない

 そうなると矛盾ができる

 私が偽物と確信できるのはその証拠があるということ

 ではその証拠は?


「すこし質問いいですか?」

「良かろう話すが良い、ミラオス」

「貴公は敬虔な聖職者として知られている、そんな貴公が嘘を吐かないという確信を持ったとしてお聞きしますが、

証拠として最も明確なのはその本人が見つかったからにほかならないとお見受けするが、けれどそれなら何故教皇の居場所を訊くのですか?」

「それは……」

「私も聞いてみたいですね、貴方のような方が私を疑うなんて、その理由ぜひ聞かせなさい」

「むっふ、そこまで言うのであれば仕方が有りませぬな」

「セドリック大司教……?何が仕方がないのですか?」

「むっふ、皆の者、あの席にはあんな傀儡ではなく真なる教皇聖下がお座りになるべきです、出迎えい!」


 赤くない(・・・・)セドリック大司教が指した手の先には私と瓜二つの人がそこにいました

 呆気にとられる私達よりも驚愕の顔を浮かべていたのはヴァリウス卿

 一方倒れこんでいたヨミキリは体勢を元に戻して、その兜を怪しく光らせていた


「大司教、何故貴殿が?」

「むっふ、本当ならば聖下を転移させた下手人を全て燻り出したいところだったのですが致し方有りませぬ、

敬虔なる貴公を失うのは我らが教会にとって損失である故、ここに来てもらった所存であります」

「……では、ロイヤルたちはまんまと相手の手中に入ったというべきか」

「むっふ、これほどの失態、ただで済まされぬとは思わぬように、では決議を求める」


 何なのですか!?これは……

 虚偽の塊なのにどうして!?私の眼が……?!

 その後の悪化していく状況に対して私は呆然とし続けることしか出来ませんでした


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