捕えられた騎士
投稿が極めて遅くなり申し訳ございませんでした
――一人の男が武器を構えず青年の前に立っていた 豪胆にも高らかに宣言しながら
――三人の男女は武器を彼に向けて構えていた 遺憾にも怒りで手を震わせながら
――幾多もの兵士たちはそれを取り囲んでいた 無様にも蔑みながら
――青年は彼の後ろに隠れていた 果敢にも誰でもない誰かを見据えながら
――誰かは彼らを嘲笑しながら眺めていた 傲岸にも他でもない彼に見つけられていながら
――「さて、今回の事件はクライマックスだ、で大嘘つきは誰だ?」
――「見っけ、あなたですね」
Side:Miraosu
ヨミキリ謎の失踪から4日後
アルテミナ神聖教国のとある詰問所
朝の10時
「だから私らも知らないって言ってるでしょ、アレがなんであんなことしたなんて!」
きれいな声がよく響き通るだな、まったく
欠陥構造にも程が有るだろ
それに仮にもリーダーだったんだから、せめてアレ扱いはやめようぜ
「ウオッホン、向こうは向こうで大変そうだが、私としても仕事があるから質問に答えてくれるとありがたいんだが」
「とは、言うがなんの脈略もなくどっかへ消えていったんだ、俺らが知る由もないだろ?」
「知らないつってんでしょ!!!いい加減ロープで吊るすわよ!この不毛頭!」
「別の意味で捕まりそうだな」
「うわぁ、誰も触れていないところを・・・・いい加減な態度を改めてくれないお前さんもなんだが」
「どこが?ちゃんと質問には答えてるんだが」
一応自分に縁のある国だからしっかり受け答えはしている
咎められる所は一切ないぞ
「おーい!もう一人の女冒険者はいつやってくるんだー?」
本当に逃げたのか……そういえばあそこのギルド法的にかなりグレーなことをやってのけるメンバーが多いって言ってたな、完全に犯罪なことはこれまでやってなかったみたいだが
「頬杖をついて不貞腐れて話を聞き流すその態度をCGUCで殊勝というのなら謝罪するがね、ここは誇り高き神聖教国なのだよ、せめて頬杖はやめなさい」
「ん?ああ。スマン無意識だった」
「むしろより質が悪いなぁ!?」
「いい加減腕もぐぞ!このスケベハゲ!!!」「誰も探しに行ってくれんのかー?」
「誇り高き神聖教国ねぇ……教皇のお膝元で何してんだよ、あっちの二人は」
「何分どっかの誰かさんのパーティのリーダーが教皇様を誘拐するからねぇ」
「まったくひどいことをする奴がいるもんだ、国際問題だぞ国際問題」
「全くだ、誰に責任を押し付けるか上で揉めているという噂を小耳に挟んだぐらいだ、これ内緒だぞ」
「ハハハハハハハハ」
「ハハハハハハハハ」
「「……はぁ」」
真面目にどうしようこれ、なんの進展もしないまま昼過ぎちまうぞ
流石に今日はまともな寝床で寝たいぞ、石とか草とか木の上とかもうゴメンだ
こうなったら、無理にでも出て行くか?
武器は今預けているが徒手空拳でなんとかできる程度には鍛えているからな
行動に移すべきかどうか迷っている内に扉が開いた
なんか疲れた感じのミルスと何故かロープで簀巻にされた頭頂部の寂しい衛兵が立っていた
「お前も色々と問題だぞ」
「あ、それはいいんだよ、いつものことだから」
「むしろ大丈夫かお前らんとこ、でどうしたんだ」
「交渉の結果、アレを捕まえることを条件に解放することになったのよ」
交渉ってどんなのだ!?
相手を簀巻にする交渉なんて俺は知らんぞ!?
てかロープは何処に隠し持っていたんだよ!
「どう交渉したかはこの際置いとくとして、仮にもリーダーを捕まえてこの後の依頼に支障は出ないのか?」
「なんで?森の中の偵察が得意な私と瞬間的な爆発力を持っているミー、持続的な防御力を持つ君で充分事足りるじゃない」
確かに言われてみればそうだ、むしろあんなに派手なやつと一緒に行動するのは危ないのか?
あれ、アイツ要らなくね?
いやいやいや、そんなはずはないだろう
……そういえば、あいつの偵察方法知らないな
あのへんてこな銃も強いかと言われたら、確かに急所にあたったら強いが相対的なところから見て微妙
近接も素人よりは幾分かマシだが独学なのか無駄が多い
第一に自分が整えたフィールド以外では基本逃げの姿勢だったような……
魔法も応用の仕方は眼を見張るものがあるが、種類も少ないし汎用性がすこぶる悪い
なにより直接戦闘に関わるものも使わないし、使えない
「やばいな、擁護できるところが一切ない」
「むしろ、君がそこまでアレのことを擁護しようとするほうがびっくりなんだけど」
「取り敢えず、ヨミキリを生きて捕縛し、どうして誘拐されることになったか不明の教皇様の救出を主とすることは確定するんだが」
「だが?」
「仮のリーダー誰にする?」
「一先ず保留で」
預かってもらっていた武具類を受け取り、建物から出る
陽がもう頭の上に昇っていやがる、立春の月だから未だ風が冷たいが日のお陰で心地よい昼だ、それに空は澄み切って青く雲が少なくて誰もが今日はいい日だと思う晴れ模様だった
これが厄介事に巻き込まれていなければ最高だったのにな
ああ、腹が減った
「そういや、ミーティアは何処に居るんだ?」
「さあ?」
「さあってなんだよ、さあって」
「私は緑の多い自然の中なら優位点はあるけど街中だったら彼女のほうが上だしね
そのへん歩いていたら、合流できるでしょ」
それを結びに二人でブラブラと歩き出す
しかし獣人か、CGUCでは珍しくもない人種だが、ヒュマン則ち変哲もない只の人間が多く暮らしているここでは目立つな
教都アポストルならいざしらず、そうではないここではかなり罰当たりな連中がいるから一応気をつけて行動しよう
ちなみにアポストルは略称で正式名称は
“神聖なる神が造ったとても美しき使徒が人々を導いて築き上げた国の、主たる父を敬う聖なる地を守る美しき都”
最初に聞いた時は冗談かと思ったが、教えてくれた神父の顔がひどく真面目だったことに恐怖を感じた
今になって、暗唱できるということは何らかの理由で覚えるはめになったことだからつくづく同情するよ
閑話休題
注意しているとはいえ彼女も五大ギルドの一つのメンバーだ
それに表通りだから襲われる危険性もないだろう
余程民衆に溶け込むのに長けた輩でもない限り
それこそ俺たち冒険者や一般市民を襲う理由もないか
そんなことを考え込みながら歩いていると一人の男とぶつかってしまった
「とと、すまん 少し考え込んでいた」
「こっちこそスマンなぁ、わいも急用で急いどるからな」
一瞬立ち止まって、互いに軽い謝罪をしてから大急ぎで去っていった
えらく悪目立ちする顔立ちだったな
黒と紫の衣服をしていて不気味に見える
さらに額から横一閃に大きな傷跡を残しているせいで苦労してそうだな、それに大柄でガタイもいいせいで余計にその印象が強い
はて……?この特徴何処かで見たことがあるような、無いような……
「どうかした?」
「え?ああ、いやなんでもない というか人混みが多くなってきたな」
「大通りにもうすぐ出るからじゃない?ほらなんとか巡礼道って名前の」
「星ルーン巡礼道、八つある巡礼道の三番目に位置する道で一番人通りの多い大通りだ」
「なんか凄い詳しいね、別にここ出身じゃないでしょ?」
「CGUCに来る前に一年ほど暮らしていたからな、といってもド田舎のだけどな、そこに近い巡礼道がここだったというわけだ」
「へぇ、CGUCに通じているのもたしかここだったから、ここから行けば住んでた所に行くことも」
「因みに巡礼道から直線距離で800キロメルスだ」
「うわぁ……っと居た居た、って何のんきにご飯食べてるの?!」
視線の先を見ると、優雅に食事をしているミーティアがいた
外見や所作から見て清純な淑女に見えるが、こいつ俺たちを放っぽって逃げたやつと同一人物だよな
何くつろいでんだよ、ていうかなんで勝手に飯食ってるんだよ
「やあふたりとも無事出られたのか、食べ終わったら直接出向く……」
「あんたねぇ!いつもいつも気づかない内に逃げるのはいいとしても、流石にその態度は怒るよ!ただでさえ今回は他ギルドとも連携をとっているんだから」
「と言ってもだな、優先度を高めて出向いても、行動をともにしても、今こうして待機してもどっちにしろ私は怒られると思うんだ、なら一番怒られないだろう三番目を選ぶのは必然じゃないか、それに私とて何もせずにのうのうとここでお茶してたわけじゃないぞ」
「何その紙?」
彼女がひらひらと見せびらかしていたのは羊皮紙ではなく最近流通し始めた植物紙だった




