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没・Karma Gear Story  作者: D.D
空回りの歯車
60/78

屈した騎士

 Side:Miraosu

 World's Sky 第3執務室

 朝15時頃


「よく来てくれた、ミラオス君座り給え」


 目の前に執務机の上に腰掛けている緑髪のエルフの男、じゃなくて女性、つまり俺が所属している銀の座を率いている座長に着席をするように言われる

 が、しかしだ


「いつもながら聞きたいのですが、椅子ぐらい経費で買えないんですか?」


 椅子がない、それどころか執務机も手製の粗末な机だ、ろくな引き出しもない

 俺の部屋でももう少しは立派なものはある


「だったら買って来てくれるかい?とびきり上等なのを」

「そんなことしたって見窄らしい部屋が余計に悲惨になるだけですよ」

「わかってるなら問うべからずだ、と言う問答を一体どれだけの人数に繰り返せば気が済むんだろうね?それとどっか適当に座んなさい」


 そりゃアンタが経費全てを武器防具と座員全員の訓練に当ててるからだろ、と心の中でツッコんだ後ドア横の壁にもたれかかる


 銀の座、金銀銅の3種類をのグループで構成されているワールドスカイのその序列2位だったのがこの銀の座だ

 金の座の主な仕事は要人の警護や国際会議中の守衛といった主に国が内容問わず軍や騎士団が使えない場での護衛

 銅の座は主に兵を持たないないし持てない国のための防衛戦力

 一方銀の座は魔物関係や危険団体の制圧などの仕事が回されている

 重要度が高いという理由で銀の座に回される経費は一番多かった(・・・・・・)

 彼女が就任してからというもの、殆どの座員は金の座に引き抜かれるか銅の座に降格してでも去るかを選んで、結局ここに残っているのはこのギルドでも有数の変わり者たちしか残っていない

 なぜそんなことになったかというと


「座れといったんだがねぇ……単刀直入で言う人手が残り少ないからこの間君と一緒に解決にあたっていたヨミキリ氏を引き抜いてくれ」

「……は?」

「彼は力としては大したことはないけど、どういう状況でも生き残っているようだからね使い続けられるいい人員だ、それに彼の能力名称はまだないみたいだけどあれほどのものは見たこと無いよ実に羨ましい、あそこまでになると召喚者かな?でもここ最近召喚したという話は聞いてないからきっと噂に聞く……者というやつか……、ということは引き抜いても別に構わないということだ、彼を引き抜くということは我々が目標とする計画に大きく近づくということだ、そうするには彼の能力を最大限引き上げなきゃいけないね、ということは私はそれを最大限手助けしないといけないというわけだ、もっと観察しないといけない、パーフェクトゲームにするにはもっと人員と金をかき集めなくてはいけない、ああ実に忙しい、ということで一番彼と関わりのある君に彼を引き抜いてくれ」

「いやいやいや、引き抜いちゃダメでしょ!そんなことしたらただでさえこのギルドは他ギルドとそりが合わずに孤立しかけているのに決定的に孤立させる気ですか!?それにまた上に小言言われるでしょ」

「どうせ騎士団に入れなくなった莫迦者を喜々して受け入れている『冒険者騎士団』なんてなくなったところで構わないし、これのせいで爪弾きにされても私には関係ない」

「座長!」


 どんどんヒートアップしていく自分の上司をなんとか諌めるがその後に続いた言葉

 冒険者騎士団、その言葉に眉を顰める

 冒険者のくせに騎士団の格好をしているからそう呼ばれている蔑称

 騎士団に成れなかった貴族の子息、貴族を剥奪されても見栄を張りたい輩が入るギルド

 実態としてはやや違うがCGUC内ではこう呼ばれている、そしてそれを否定出来ない事実がある

 そんな蔑称をギルドのそれも上の立場にいる彼女が平然と口にしたことに思わず声を荒げても仕方ないだろう


「事実は事実だろう?それとも何かい?君ごときの分際で今更辞めるのかい?一緒に集い約束した我々を裏切るつもりかい?君を拾ってやった恩を仇で返すのかい?私の采配で君の人生を左右することができるのを忘れたのかい?ならこのまま立ち去ってもいいけど、どうする?」


 突然、視界にある全ての色彩が逆転する

 視界が掻き混ぜられたように歪む頭がきしむように痛む

 あまりにも多すぎる出来事がフラッシュバックして頭の理解が追いつかない


「うぐっ・・・や、辞めれるわけないだろ、あの時に同意した時点でもう後戻りはできない」

「分かっているじゃないか、じゃあ頼むよ、盟友

 ああ、それとこれが依頼書、全くあのお人好しギルドはこんなひっじょーに立ち位置が微妙な私に対しても立派な紙しかも高位の契約書で依頼してくるなんてね~金持ちは羨ましいもんだ」


 いつの間にか近づいてきて俺の肩をたたいて立ち去っていった

 それからしばらく経ったあとにようやく俺は、壁にもたれかかりながら腰を下ろす

 吐き気がする

 さっきのこと以上にあの化生のことに

 どこまでいっても俺はあいつの手駒にすぎないのに盟友と喚ぶその声に反吐が出る

 あの女は一度手にしたものを徹底的に使う、使い潰すんじゃない使い続けるその冷徹さに胸クソが悪くなる


「クソッタレが!!」

「どのタレでもいいけど、とりあえず君に渡さなきゃいけないものがあったのをすっかり忘れていた」

「っ!?」


 突然開かれた扉に反応してすぐさま立ち上がって構える

 そんな反応した俺に対して座長は苦笑しながら何かを渡してくる


「落ち着けよ、多分今回のことで相当危ない橋を渡らせるつもりみたいだからあいつらこれを渡しておく、我らが大切な盟友を護るための薬さ」


 渡されたガラスの小瓶には赤い液体が入っていた

 魔法薬?

 そんなものを用意するだけの金があるか?


「ちょっと値は張ったけどこれは素晴らしいものだ、命が危ない時に使うといい」


 十中八九、ろくでもない薬だ

 だが、彼女が言うのだから間違いはないのだろう

 いつだって正解の道を進む盟友が間違うわけが

 フザケルナ!


「どさくさに紛れて、思考誘導するな!」

「君が変なことを考えるからいけないのさ、とっとと読んで出立しなさい」


 ざっと目を通した後に依頼書にサインをする

 その際の受領条件をみたすために手紙に一筆をする

 これで完了だ


「では、無事帰ってくれることを祈ってるよ、ミラオス君」

「絶対あんたは、碌な死に方はしないな」

「今更なセリフだね、もっと昔に聞きたかったよ」


 吐き捨てるように言った後に、半ば彼女を押しのけるように外へ出て行く

 いつもは外れない仮面が、ヨミキリの名が出ただけで外れてしまった

 アイツにだけは会わせたくない、だが会わせざる負えない

 全くもって不愉快だ

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