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没・Karma Gear Story  作者: D.D
流れ着いた歯車
19/78

こころの歯車 Ⅲ

 村を去る前夜

 Side:Sara


 まだ日が昇っていない

 眠れない

 あの日以来かな

 少し涼みに行きましょう


「あれ?」

「ん?どうした、眠れないのか?」

「え、ええ」


 口調はいつもと同じだけどすごい慌ててる

 フェイスガード外してたのね、惜しい


「あなたも?」

「んー、いや。いつもこうして星を見ている」

「星を?どうして?」

「星ってさ、あんなに小さいが、実は考えられないほど大きいんだ」

「へぇ」

「だからさ、いつも俺はちっぽけで無意味な存在だな、とそう思う」

「そんなこと無い」

「はは、有難う、だが事実だ」

「・・・」

「俺はいつもアイツには敵わない、叶わない」

「アイツって?」

「俺の親友だったやつだ」

「だったって?」

『ヨミキリ、いいのですか?』

「かまわんだろう、親友と言っても名前は知らなかった。それにもう終わったことだ」

「それって親友と呼べるのかな?」

「まあ、お互いそういう認識だったからそうなんだろう」


 そう一度切って深呼吸をしていた、思わず私も口をつぐむ


「アイツは誰にも、好印象を受けやすいやつで、本物だった」

「本、物?」

「ある種の天才とはかけ離れているというのか、アイツはなんでも出来た。本当になんでも。完璧無欠で誰よりもすごいやつだった。性格にやや難点があったが」

「なんでもって、例えば?」

「何が書いてあるのかわからない数式を一瞬で解いたり、設計図無しで機械を組み上げたり、誰もがやらないだろうというようなことまで率先してやった」

「すごい人なんだね」

「ああ、俺は聞いた、何故そんなことができるのかって、何故そんなことをするのかと。答えは単純で意味がわからなかった」

「なんて言ったの?」

 〈ははは、面白いことを言うね、君もそうじゃないか、やりたいからやるのさ。自称偽物くん〉

「初めて会話していきなり自称偽物と言われた時は驚いた、誰とも喋らなかった俺を。まさしく全て見通す目で」

「それでどうしたの?」

「どうしたもこうしたも、そんな俺をどう見てたのかは知らないが急に」

 〈まあいいや、君は変えてみたくはないかい、この世の秩序を、常識を、何もかも、ぜ~んぶ!きっと面白いよ!大丈夫!君とならやれる。正確には後5人とだけど〉

「その時思ったさ、ここでこの話に乗らなきゃいけない、そうしないといつまでも偽物だと」

「偽物?なんで?」

「やろうとすればできるだろうに、なにもかもやらなかったからだ。なんとなしに生きてきた俺は」


 彼の声はひどく悲しそうだった。自嘲的にかすかに笑って


「結果は、本当に変わった、全てが変わり果てた。面白いように、くだらなく変わった。技術が変わった、流通が変わった、世界が変わった、常識が変わった、人生が変わった、人が、変わった」

「・・・」

「人の殆どが生き甲斐を持って生きるようになった、だが、持てなかった者はどうなった?それを求めるようになった、飢えた(けだもの)のように。すでに持っていたものはどうなった?もっと求めるようになった血肉を食らう(けだもの)のように、」

「だが俺達6名は楽しかった、楽しくてしょうがなかった、俺達が変えたいように変えていけたからだ、神のように。だが、ふと思った。俺は本当にこんなことがしたかったのかと、得たければ得る努力をし得て来た、だがその時は得たければ手に入れられた」

「同じじゃ?」

「違う、根本的に違う。心構えも過程もその後も、全てが変わった。そして、」

「そして?」

「俺はアイツを殺した」

「ど、どうして?」

「アイツは俺達の、いや皆の世界を、星を滅ぼそうとした。なぜかはわからない、どうしてそこまでアイツをそうさせたのかはわからない、その答えは」

 〈愚問だよ、ヨミくん。前にも言ったじゃないか、そうしたいからさ、だけど止めたいのなら僕を〉

「殺してくれ、と。」

 〈頼む、殺してくれ!僕を止めてくれ!たとえ君が本物でないとしても本当の君が虚現の僕を〉

「そして、殺したの?」

「ああ、やむを得なかった。だがなぜだろう、どうしても俺が殺したとは思えなかった。」


 誰かがこうなることを指定したかのようだった、と彼は言った

 前に私は彼に訊いた、人を殺したことがあるのか、と

 予想していた以上に、はるかに重くどうしようもなく苦しかった


「アイツを殺した後、俺も変わり果てた、アイツの頼みを約束を果たすために」

 〈最期に頼みたいことがある、どうかこの世界を嫌いにならないでくれ、いや、約束してくれ、コレ以上世界をダメにしないでくれ、僕が言うことではないけどね。ああ、それと最後に僕の名前は〉

 〈えーと、言うのも気恥ずかしいなぁ――、――――だ、覚えていてくれ、我が最愛の友よ〉

「結局アイツの名は聞き取れなかった、いつもはでかいくせに声小さすぎるって」


 多分聞き取れたのだろう、でも言えないのだろう、壊れてしまうから、違う壊れてしまったから


「何名殺しただろう、変えないために俺は変わった」

『283名です』

「覚えてる、意地でも忘れない。そして最後の一人を殺すため最期の仕事へ行った」


 そしたらコレだ、なにが奇跡だ何が偶然だ、運命を呪ったよ、と

 でもなんだか嬉しそうに悲しそうに、少し苛立ちながら、それでも無機質にそういった

 どうして彼は自分を押さえつけてるのだろう


「後悔、しているの?ここへ来たことを今も嘆いているの?」

「いや、むしろ、運命からの労いだと思ってる、もうしなくていい、やりたいようにやればいい、そう言われた気がする」

「じゃあ。じゃあ、これからは?何をするの?」

「・・・」

「あなたは、あなたはどうしてそこまで自分を苦しめるの?なんで自分の願いは、願おうとすらしないの?なんでただただ、自分の使命だと義務だと思っているだけで人が殺せるの?自分の心が殺せるの?そんなの、おかしい、よ・・・」

「おれは、偽物だからだ」

「違う!あなたは偽物なんかじゃない!ううん、偽物なんて一人もいない!」

「それでも俺は偽りだ・・・偽りの心、偽物の感情、紛い物の人格、それが俺だ。偽善者であり偽悪者だ。」

「それで、あなたは、大丈夫なの?痛むんでしょ?」

「大丈夫なわけ、あるか・・・」


 泣いている、声を偲んで泣いている

 なぜ殺さなきゃいけないだとか、なんでアイツはあんなことを頼んだのか

 そう、言いながら

 声は聞こえなくなった、だけど泣いている、ずっとずっと


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