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トリエンナーレの日まで  作者: オクター
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死ぬ日まで

感想を書き込んでくれたら嬉しいです。

よろしくお願いします。

 冬の夜はどうにも痛い。

 そんな当たり前のことも俺は忘れてしまって。

 今、悪に正義の鉄片を。


 皮膚の繊維を引き裂きながら、その速度の二乗と質量の積を二で割った力のままに。


 無念の内に死んだ俺の全てを指先に込めて


 俺、赤羽あかは 遙人はるとは、最初で最後、人を殺した。


 そのときの爽快感は忘れない、そのときのバカな自分を忘れない。


 そして俺は、トリエンナーレの日まで戦い抜くことを決めた。





 第一話 死ぬ日まで


「お兄ちゃん、おーきてー」


 日曜日、俺はこの可愛らしい声で目が覚めた。

 朝かと思い、目を腕でこすろうとして腕を布団から抜こうとするが、どうにも腕が重い。


 まだ五歳になったばかりの妹、赤羽 つむぎが上に跨がっていたのだ。


「つむぎ、重いぞ。下りてくれないか」


「ふーんだ、女の子に重いなんて言う人からなんて下りないよーだ」


「えー、じゃあつむぎ朝ごはん食べられないよ、それでもいいの?」


「やだやだ!」


 つむぎは布団の上で暴れまわる。つむぎのわがままはいつものこと何なので、つきあってあげればいい。

 しかし来年から小学生なのにこれで大丈夫かという不満もあるが。


「じゃあ、食べに行きましょうねー」


 俺はボサボサの髪の毛をかきむしりながら起き上がる。


「むうー」


 つむぎは俺を起こさせまいと、必死にしがみつくが努力むなしく、俺は立ち上がってしまった。


「そうはさせない!」


 歩く俺の足にしがみついてそれでも俺を止めようとする。

 まあ、ずるずると引きずっていくだけなのだけど。


「はいはい、行きますよー」


 なんだかんだ言って、こうして妹と遊ぶのは楽しい。なんだかその声を聞くだけで幸せになるし、元気が出てくる。本当に天使みたいな存在だ。


 一階に降りると(つむぎは階段ではさすがにあきらめて歩いていた)お母さんとお父さんが席に着いていた。


 どうやらテレビをボーと見ながら待ってくれていたらしい。

 とりあえず俺は眠気覚ましにあいさつ。


「おはよう!」

「おはよう~!」


 つむぎも合わせてきていい声だったんだけど、両親はイマイチ反応が悪い。寝起きが悪いというのは割りと毎日のことだ。


「「おはよう……」」


 声がかすれている。本当に朝弱いんだな。

 俺は自分がこんな家庭にいて時々悲しくなる。


 全員が食卓についたところでいただきます。朝ごはんだ。


「本当、俺ってこう見ると寝起き悪いサラブレッドだよね」


 朝のワイドショーを脇目に他愛もない会話をする。


「そうだなあ。本当だ。遙人は天才ひゅーひゅー」


 うちの親父(ここではお父さんとは呼ばない)はもう……御察しの通りテキトーな人間だ。


 それはもう、お母さんにあの雑誌どこいったっけと聞かれれば、あれーあれね、遙人が持ってた、なんていって俺のえっちな雑誌を持っていく人だ。


 よく分からないエピソードになっているが、とにかくも自由奔放な人である。

 しかし、これでも割と一等地に一軒家を構えているのはすごいことだ。


「お父さん、遙人をからかわないの。案外真面目に悩んでるかもよ」


 お母さんは親父の悪行を裁く人。基本的には真面目だけど優しいし家事も完璧。母親の鏡だ。

 ちょっと過保護な部分もあるけど、それもなんだか心地よい。

 この母ありてこの父あり。つくづくそう思う。


 お父さんは少しすました顔をしながら


「冗談だよ、冗談。わははは」


 そう言って俺の頭をぐしゃぐしゃ撫でた。


 この家族は頭をよく撫で合う。


 楽しいときも、悲しいときも。

 両親いわく、頭を撫でると楽しさは笑顔になり、悲しさは涙で流れる。

 それを手助けしてくれるのがこれらしい。


 面白いなあと心のなかでそう思った。




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