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2章”新宿北今川事件”2

今回はバトル多めとなっております。よろしくお願いします。

佐竹は松永と黒田が持つ遠隔カメラで現場の様子を見ていた。彼女の能力覚醒が対象の5分前の過去視だけだったらこのようなことをする必要は無いだろう。だが、彼女は過去視以外にも能力覚醒がある、非常に希少な存在で100万人の能力覚醒者の中で一人いるかいないかと言われる”多重能力覚醒者”なのだ。そんな佐竹のもう一つの能力覚醒は顔を見ただけで即座に対象の身長や体重はもちろん、年齢、学歴、そして能力覚醒の有無まで対象の情報という情報を全て知り得ることが出来る”属性分析”とでも言うようなものだ。一見、素晴らしく非の打ち所がない能力覚醒に思えるがそれは誤解でこの能力覚醒が強力だからこその弱点がある。それはこの能力覚醒は使役する対象を任意に選べないことだ。顔を見てしまえばこの能力覚醒は否応無しに発動してしまう。例えばたったの5人でもその情報は全て、もちろん知りたくもないような情報も脳内に直接入ってくるとなるとそれは形容しがたい恐怖と精神的な苦痛を伴う。能力覚醒をしたばかりの頃はよく錯乱状態に陥ったことがあった。大分制御できるようになった今でも人混みなどに入ると嘔吐しそうなほどの不快感に苛まれる。それゆえ、決して弱くは無い佐竹は後方支援に徹しているのだ。また能力覚醒の有無だけで詳細までは分からないし、あくまで属性を分析するだけなので過去の記録は見れても実際に行った行為まではこの能力覚醒では分からない。ただし、5分前なら行った行為も過去視で分かるのでこれは実質的な弱点とは言えないが。このような分析において超が着くほどの優秀な人物である彼女は松永らが遭遇した3人について警鐘をならした。




「佐竹君が言うならまあ間違いないんだろうね」

そう言って松永は正面に対峙する3人を見る。先ほど瀬名と呼ばれてたのはこの右端の女だろう。180はあろうか、長身で目は例えるなら猛禽類とでも言うほどの鋭い目つきをしている。岡部は真ん中の男だろう。平均的な体格をした若者だが服の上からでも分かるほどの隆々とした筋肉が窺える。もう一人の朝比奈と言われた男は初老といった感じの白髪混じりの小さな男だ。本来なら1対1にしたいところだが相手の能力覚醒が分からないうちは1対1に持ち込むのはあまりにもリスクが高すぎる。ここは相手の出方を見るべきだ。

「ここは迂闊に動か....」

「うおりゃああああああああ!!」

松永が指示を出す前に前田が突っ込もうとする。冷静に松永は前田に重力をかけて地面に組み伏せて指示の続きを出す。

「....ないでね。相手の中に3人がかりで相手しなきゃいけない厄介者もいるかもしれないし」

「りょ、了解です」

組み伏せられた前田を見ながら大浦は笑混じりに返事をする。

「分かりました、分かりましたから!重力解いてください!」

指一本動かせない前田は叫ぶ。

松永は前田を見下ろしながらあのねえ、と話し始めた。

「君の今の行動は一歩間違えたら死に直結してもおかしくない行動だ。相手に挑む勇気は立派なものだが考えなしに突っ込むのは蛮勇というものだよ。君はうちの大事な戦力なんだから勝手に死なれては困るんだよ。分かったね?」

松永の説法に前田は分かりました!と快活に返事をする。その声と同時に前田の体は軽くなった。前田が立ち上がるのと同時に場に緊張が走る。障害物のない道に、距離にして5m。どちらも敵の出方を窺う。数秒の沈黙の後、岡部が動いた。対面の大浦に向けて手を銃の形にして構える。突き出された指先に結晶のようなものが集まる。ほんの3秒程度で指先の結晶は拳ほどの大きさになった。大浦はその段階でようやく岡部の行動に気づいた。咄嗟に植物で防御網をはる。岡部はそんなことはお構いなし、といったふうで指先の結晶を打ち出した。結晶は速いが視認できる程度、スポーツカーと同程度のスピードで大浦の方向へ飛んで行った。結晶は一直線に大浦へ向かうと誰もが思った。が、結晶は一直線に大浦へ、とはならなかった。結晶はスピードを保ちながら大きな弧をえがいて松永へ方向を変えた。松永は思わぬ不意打ちに反応が遅れた。咄嗟に自らに右向きの重力をかけたが完全には避けきれず右腕に手痛いダメージを喰らってしまった。結晶は松永を傷付けた後、数m後ろで割れた。松永は痛みに顔を歪めながらも相手の能力を分析する。

(この傷のつきかたから見るに打撃攻撃の類ではなさそうだ。斬撃、と見るのが適切だろうな。球の形を取る斬撃か。これはまた珍しい。割れたということは元は決まった形の無い物か。私の重力は効かなさそうだ。斬撃、という特性から見て大浦君も相性が悪そうだ。とすれば....)

松永は前田を見る。

「前田君!君は奴を頼む!」

「大浦君も前田君のサポートに回れ!」

「は、はい!」

大浦は返事をする。

松永の負傷を見てたじろぎ気味だった前田も返事をし、右腕を固くする。そして勇ましい掛け声と共に岡部へ突っ込んで行った。一連の流れを見て瀬名は岡部のアシストへ、朝比奈は松永を追撃しに来た。




前田は松永の指示通り岡部へ突っ込む。松永の右腕は心配だがこの3人の中で最も戦闘力、頭脳がある松永のことだ。きっと何とかする、そして俺がこのムキムキ男と戦闘する、というのも間違った判断ではないはずだ。そんなことを思いながら岡部まで後、少し、というところで邪魔が入る。瀬名だ。

「行かせねえぞ、コラァ!」

瀬名は顔に見合わない綺麗な声を荒げて前田にその鋭い目を向ける。途端、前田の視界が乱れた。目は前を向いている感覚がある。だが、先ほどまで見据えていた瀬名、その先にいた岡部、ビル群、さらにその先に微かに見えていた人質たちやテログループは何故か消えてしまった。見えてるのは雲が見え隠れする晴れた空だ。言うまでもなく、前田は混乱する。

「なんだ、なんだ、なんだってんだ!て、敵はどこいったんだ!」

前田は思わず足を止める。瀬名はその様子を見てニヤリと笑い、前田に接近し無防備な腹に思いきり蹴りを入れた。正常な前田ならこの程度の攻撃は他愛なく避けただろう。だが混乱した前田にはこれを避ける術は無かった。前田に衝撃が走る。

「ぐっ!」

前田は瀬名に迎撃しようと腕を硬化し殴ろうとした。だが視界の定まらない前田には前に攻撃することさえ難しい。振り抜かれた腕は全く見当違いの虚空を空振った。それを見た瀬名は此処ぞとばかりに殴る蹴るを繰り返す。前田の鍛えられた体は悲鳴をあげる。瀬名は激しい攻撃を繰り返す。手応えはある、そろそろ陥落させられる........

「させません!」

瀬名の攻撃はツタのようなもので遮られた。瀬名は衝撃で仰け反りながらツタの出先を睨む。瞬間、前田の視界が戻る。

「すいません、植物の再展開に時間がかかりました。ここからは私がその女の相手をします!前田さんはあの男を!」

ツタの出先、大浦は前田に言う。視界が戻った前田はよろけながらも大浦に向かってサンキュー!と叫び、また全力で大分先へと行ってしまった岡部を追いかける。

「っ、行かせるか!」

瀬名は叫び、前田を見ようとする。だが、それは大浦の植物たちに遮られる。

「あなたの相手は私です!」

瀬名は舌打ちをしながら大浦を睨む。すると、今度は大浦の視界が乱れた。大浦もまた前田と同様に混乱する。瀬名はそれを確認して大浦へと向かって行った。



松永と朝比奈は事件現場から遠く離れた場所にいた。先ほどまでは確かに前田や大浦の近くにいた。だが、今は彼らの姿はどこにも見えない。どうやら正面の初老の朝比奈、とやらにまんまとやられたらしい。

「テレポートできるなんて便利な能力覚醒ですね」

松永は朝比奈に話しかける。朝比奈はそれを聞き、笑う。

「まあ、1kmくらいしか飛ばせないしワシも同伴じゃないといけないから大したもんではないよ」

朝比奈は上機嫌に話す。どうやら自分のテレポートがうまくいったことがよっぽど嬉しかったようだ。そんな朝比奈の姿を見て松永はさらに言葉を投げかける。

「でも、テレポートじゃあ、私は倒せませんよ?」

朝比奈はその言葉を聞き、笑いを崩さずに松永に返答する。

「ふふ、なめなさんな、ワシも歳とは言ってもまだま「潰れろ」

ご機嫌な朝比奈の返答は途中で遮られた。松永が能力覚醒を使い朝比奈を地面に組み伏せたのだ。朝比奈の顔から笑みが消える。

「き、汚いぞ!まだ喋ってる途中じゃろうが!」

松永は警察、正義を守る機関の男とは思えないほどの性悪な笑みを浮かべ朝比奈に語りかける。

「ああ、言ってませんでしたが私は性格があまり良くないんですよ。すいませんねえ、チャンスだと思ったんでやっちゃいました。じゃ、しばらく寝ててください。今度は檻の中で会いましょう」

そう言って松永は大きな重力を朝比奈にかけた。致命傷を与えるほどではないが気絶させるには十分なその重さの暴力をくらい、朝比奈は悲鳴と共に気を失った。

「さて....。前田君たちはうまくやれてるかねえ。一応、急いで合流しないとね」

そんなことを呟き、松永は傷ついた右腕を抑えながら歩き始めた。彼らを信頼しているのか、ただやる気がないのかどちらかは分からないが合ってるかどうかすら分からない道を散歩でもするかの様なスピードだが。



「やっと追いついたぜ、筋肉野郎!」

前田は岡部に追いつき叫ぶ。

「直情的な馬鹿か。俺はお前みたいな奴が一番嫌いなんだ」

岡部はそんなことを言い、前田を見る。そして、前田に向けて指を指す。先程と同じように何かが彼の指先に集まる。何かはすぐに集まり球になった。そしてそれは前田に放たれた。前田は腕を硬化しその球を思いきりぶん殴った。どうやら鋭利なものらしいが硬化した彼の腕にそれは通用しない。前田に殴られた球は弾けた。

「ほう....。馬鹿だが強いじゃないか。こりゃあ俺は不利だな」

岡部はそんなことを言って関心する素振りを見せる。

「褒められたって容赦しないからな!おりゃああああ!」

前田は殴りかかる。だが岡部はそれを軽く避ける。

「まだ動きは未熟だな。素質はあるがまだ俺と戦えるレベルにない」

そう言うと岡部は前田を蹴り飛ばした。

「!?」

前田はその蹴りを受け、膝を着く。さっきまで戦ってた女とはまるでレベルが違う。立とうとしても痛みがそれを妨害する。それを見て、岡部は前田を蔑んだ目で見る。

「なんだ、こんな蹴り一発で終いか。味気ない。あーあー、”お仕事”とはいえやっぱこんなクソつまんねーテロなんか参加するんじゃなかったぜ。」

岡部は心底つまらなさそうに言う。そして懐からスマートフォンを取り出し、どこかに電話をかけ始めた。

「あー、もしもし、本多か。俺だ。山県だ。あ?岡部?近くにはぶっ倒したゴミしかいないからもう”偽名”なんか使う必要ねーよ。なあ、帰ろうぜ、本多。テロの教唆だろ、俺らの任務は。もう、そんなのとっくのとうに達成しただろ。後は今川のアホがテロ成功しようが失敗しようが関係ないだろ」

岡部、いやその名前を偽名と言い放ち山県と名乗ったその男は電話先の本多という人物にそう語りかける。それを聞く前田は混乱する。

(偽名?帰る?テロの教唆?今川の”アホ”?)

混乱する前田など気にもかけず山県は会話を続ける。

「楽しみにしてた松永や蒲生とか、うちの社長らが警戒してた連中とも戦えなかったんだよ、全く。いや、松永っぽいやつに一発くらわせてやったか。だけど、そっから俺に向かってくるかと思ったら自分は後ろ下がって雑魚一匹よこしてきたんだよ。社長らが言ってたとおり頭はいいんだな。そんで、いや、続きは合流してから話そう。じゃ、また後でな」

そういって山県は電話を切った。そして未だうずくまる前田の前に立ちはだかりその頭を全力で蹴り飛ばした。前田は悲鳴すら出す余裕なく失神した。

「じゃあな、雑魚、殺さないでおいてやるからせいぜい強くなれや」

山県はそう言ってビル群の影へ消えて行った。



瀬名は大浦を追い詰めていた。視界の定まらない大浦は植物で前に防御膜をはり何とか瀬名の猛攻を耐えしのいでいるが植物もそろそろ限界である。

(このままじゃ....!)

大浦は危険を感じる。

「これでお終いだ!」

瀬名は渾身の一撃を大浦に打とうとした。だが、それは為されなかった。それをする前に瀬名は地面に組み伏せられたからだ。

「やあ、おつかれ」

その声は聞いたことのある渋い声だ。視界が定まらず見えなくてもわかる。松永だ。

「班長!どこ行ってたんですか!」

大浦は感謝半分怒り半分で松永に叫ぶ。

「いやあ、ごめんねえ」

松永は謝罪をしながら瀬名に重力をかけ気絶させる。すると大浦の視界は正常に戻った。

「あ、戻った」

大浦は思わずつぶやく。

「戻った?大浦君。この女はどんな能力覚醒をしてたんだい?」

松永は聞く。

「いや、なんか彼女に見られると視界が狂ってしまって....」

大浦は自分でもわけがわからない、という感じで松永に答える。

「視界の操作か。面白い能力覚醒だねえ」

ハハハ、と笑う松永に大浦は笑い事じゃないです!、と言う。

「ああ、ごめんごめん。それで前田君はどうしたんだい?」

松永はもう一つの気になることを聞く。

「前田さんはあの男を追いかけて行きました」

松永はそれを聞き、神妙な顔つきになる。

「....私もさっき、佐竹君から聞いたんだがこのテロには例の”機関”が絡んでいるらしいんだ。もしかしたら前田君が危ないかもしれない」

大浦はそれを聞き、心底驚いた様子を見せる。

「え!?”機関”が!?なんでそんな大事なこと、佐竹さん、なんで、最初に言わなかったんですか!?」

大浦は無線先の佐竹に聞く。

「申し訳ないです。私も今、気づいたんです。私達が岡部だという名前だと思っていた男は本当は山県という名前でどうやら機関の手先のようなんです」

佐竹は本当に悔しそうに申し訳なさそうに言う。

「佐竹さんの能力覚醒はそんな単純な偽名に騙される物じゃないでしょう!?」

大浦の興奮は収まらない。松永はそんな大浦を手で制す。

「確かに佐竹君は掛け値なしに優秀な能力覚醒を持っている。だけど相手に精神操作系の能力覚醒者がいたらどうなると思う?」

松永は極めて冷静に大浦に問う。大浦はそれで気づいた。

「テロ組織の、いや、機関の手先が能力覚醒で私達を欺いた....?」

「ああ、残念なことにまんまとやられたようだね」

大浦の答えに松永は頷きながら答える。

「そんな....」

大浦は戦慄する。

とにかく、と松永は切り返す。

「今は岡部、いや山県と交戦している前田君が心配だ。急ごう」

そう言って松永と大浦は走り出した。

ご拝読ありがとうございます。今回はバトル中心の話でしたがいかがでしたでしょうか。感想、意見などはいつでも大歓迎なのでお気軽にお願いします。

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