2章”新宿北今川事件”1
申し訳ありません、思った以上に執筆に時間がかかってしまいました。今回はバトルの導入です。本格的なバトルは次回からになると思います。
新宿の中心から少し北よりに離れた比較的、商社ビルが多く見受けられる場所でテロは起きている。テロ集団の数はおよそ20名。彼らは老若男女、50数名を人質にとっている。リーダー格と思われる男他、数人は詳細は不明だが能力覚醒をしている。やけに人が怯えているが怪我人などは出てないそうなのでもしかしたら戦闘系の能力覚醒ではないのかもしれない。
松永はパトカー車内の無線で佐竹に再度状況を確認する。20数名とはまた厄介な多さである。
「前田君、大浦君、聞いた通り今日は集団戦だ。言ったことがあるかもしれないけど私は集団戦が苦手なんだ。だから今回の成功は君たちにかかっている。いつも言ってることだけど戦闘において躊躇するべき場面はない。自らの正義に従って容赦無く殺すべきときは殺せ。私達にはその権利がある。いいね?」
松永は語気を強くして若手2人に伝達する。前田と大浦は少し松永の気迫に押されながらもハイ、と返事をした。
その返事を聞き、松永の口調はいつも通り柔らかくなる。
「うん、いいだろう。現場はすぐそこだ。気を引き締めてかかろう。あ、殺さないに越したことはないから自分の正義感を問い質しておいてね。」
松永はハハハと、ジョークにしては過激な発言を最後にした。
黒田はパトカー車内で未だイライラしていた。イライラの種は勿論、班長以下班員全ての勤務態度への憤りが尾を引いているというのも大きいが今回のチーム編成と役割分担も正直言って納得がいってない、というのもある。松永の作戦では今回はAチームがテロ犯と主に戦い、黒田らBチームはあくまで細川と共に人質救出を第一とし、テロ犯との戦いは最小限にせよ、となっているが黒田が思うに戦闘力ならば松永はともかくあの若手2人にならこのBチーム全ての人間が勝る。松永にだって蒲生なら勝てるかもしれない。それをあのチーム編成にするなど全く利点が感じられない。そんな黒田のイライラを察したか蒲生は黒田に優しく語りかける。
「まあまあ、落ち着けよ、黒田。お前だって松永はいつもは頼りにならんがここぞ、というところでやってくれる男だって知ってるだろ?松永にも何か考えがあってこの編成にしたんだよ。」
蒲生の発言に井伊も頷き、黒田に信じましょう、と一言だけ言った。黒田は信じてないわけではないですけど、と口籠って黙ってしまった。そんな黒田に蒲生は最後は豪快に笑いかける。
「さあ、現場はすぐそこだぞ!俺たちの任務を果たそう!」
黒田は若干、煮え切らない顔ながらもハイ、と返事をし、井伊もそれに続き凛とした声で了解です、と言った。頑張りましょう、と透明化して乗車していた細川も快活な返事をした。
今川厳一郎はテロ集団のリーダーである。たくわえた口髭を触りながら怯える50数名を見て優越感に浸る。思っていたより計画はうまくいった。共犯者の男の能力覚醒を使用したら、ものの見事に新宿を歩いていた老若男女は腰を抜かし、情けなく震え出した。あとは今川他18名が武器を携え、近くによると腰を抜かした弱者共は為す術もなく人質へと早変わりした。ここまでは計画通り。あとは突撃してくるだろう警察を蹴散らし、人質を更に増やす。人質を最大限まで増やしたら遂に目的の金銭の要求だ。一般市民だけでなく同僚まで捕まっている状況を見て一銭も出さず見殺しにするなどということは警察が国家の組織の一部である以上、無理だろう。完璧だ、完璧過ぎる!今川は思わずニンマリする。全く、この計画を提案してくれたあの共犯者の男には感謝してもしきれない。今は少し離れた場所でこちらを見ているが計画が成功したら改めて礼を言わねば。そんなことを今川が考えていると2台のパトカーがこちらに向かってるのが見えた。奴等の捕縛がこの計画の最大の難関になるだろう。今川は気を引き締める。そして迫りくる2台のパトカーを凝視する。瞬間、2台のパトカーは酷く歪な音を発しながらグニャグニャになり始めた。そのうち、1台のパトカーは鉄屑になる前に真っ二つとなった。もう1台はグニャグニャのはずがいつの間にかベコベコになっていた。やはり、油断は出来まい、と今川以下テロ集団は臨戦態勢に入った。
「やれやれ、全く...」
松永はグニャグニャになりかけた車を無理やり重力でベコベコにして溜息をつく。どうやら、思っていたより荒っぽい連中らしい。負ける、なんてことは一切合切考えられないが掃討に時間がかかりそうだ。
「前田君、大浦君、ちょっと大変そうだけど頑張ろうか。......おい、聞いてるかい?」
松永の呼びかけに一瞬のうちに車という鉄の塊がグニャグニャになりそして内側から無理やり矯正されるという衝撃映像を見てポカーンとしていた若手2人はハッと気づき、ハ、ハイ!と口々に間の抜けた返事をする。彼らは実戦経験がまだ浅い。驚いたのは無理もないだろう。
「うん、いい返事だ。じゃあ出陣といこうか。」
松永はそう言ってボロボロのパトカーから下車する。若手2人もそれに続く。総勢、19名の敵は松永らAチーム、そして先に車外へ出た黒田らBチームの前に立ちはだかる。
「...一応、聞いときますけど投降する気はありますか?」
問いかけたのは黒田だ。しかし、その解答は為されなかった。いきなり5人ほどテロ集団が突撃してきたのだ。
「それが答えですか...!」
黒田はそう叫び、襲いかかってきたうちの一人を日本刀で袈裟斬りにした。もちろん、致命傷を与えるようなものではない。だが、動けなくさせるには十分な傷だ。それを見て他の4人はたじろいた。
「相変わらず、素晴らしい腕だ。海原神影流免許皆伝、黒田殿。」
松永は素直に黒田を褒める。
海原神影流は数ある剣術流派の中でも最強と言われる剣術だ。黒田はその流派の中でも神童と呼ばれる男なのだ。
「はいはい、ありがとうございます、班長殿。あとは班長の作戦に従いますんでそれでは。」
そう言って、黒田はムスリとBチームと透明化した細川を連れ人質のもとへ向かった。
「!行かせるか!」
テロ集団の1人が黒田らを止めようとする。しかし、その手は黒田らに届かない。
「おっと、お前らの相手は俺たちだぜ?」
カットしたのは前田の手だ。カットされた男は戦慄した。カットされたという事実にではない。今し方、人質の元へ向かって行った男たちを止めたのは素手ではない。ナイフを切りつけようとしたのだ。それを素手で無傷で止められた、ということに戦慄したのだ。理解出来ず、男がワナワナしていると男は前田に渾身の力でブン殴られた。歯が何十本も折れた感覚があった。だが、幸か不幸かその一撃で男は気絶したので歯が折れた、という感覚以外の痛いや苦しいは味わうことは無かった。
「さて、次はどいつだ?」
前田は彼の能力覚醒によってダイヤモンド、いやそのような比ではないほど硬くなった両腕をシャドーボクシングしながらテロ集団を見据える。彼の能力覚醒は自らの体を限界まで硬くしたり、柔らかくできるというものだ。彼自身の運動神経の良さから前田にとってこの能力は非常に相性の良いものになってある。華々しい能力覚醒、というわけではないが非常に強力なものだ。
「私も負けてられません!」
大浦はそう叫び彼女の能力覚醒を発動した。途端、残っていた3人の突撃してきたテロ集団たちに植物が巻きついた。唐突に地面から出てきたその植物らに絡みつかれたテロ集団たちは最初こそ抵抗をしていたものの植物が何か甘い香りのようなものを出すと残らず皆、意識を失った。彼女の能力覚醒は植物の召喚、そして使役だ。彼女はコンクリートの上だろうが海上だろうがどこにでも植物を生やすことが出来る。そしてそれを自在に使役することが可能なのだ。彼女の能力覚醒は相手に大きなダメージを与えることこそ、困難だが捕縛などにはもってこいの、前田とは対極と言っても過言ではない能力だ。
「うんうん、若きは素晴らしきことかな。これは私の出る幕はないかな?」
松永はにこやかにそんなことを言う。面喰らったのは今川だ。強い強い、とは分かっていたがこいつら予想以上に遥かに強い。今川は予想よりも断然、早く切り札を一気に投入することに決めた。
「朝比奈、岡部、瀬名!お前ら、あいつらに目にもの見せてやれ!」
強者3人の名前を呼び今川自身は他のテロ兵と共に後退する。今川はテロ集団の中では断トツで強い。しかし今川はあくまで大将だ。大将がやられてしまえば戦は負けだ。ゆえに今川はここは優秀な仲間を信じることにしたのだ。今川に呼ばれて男2人、女1人が出てきた。そのとき、松永ら、3人の無線が鳴った。
「気をつけてください。」
佐竹の声だ。
「彼らは全員、能力覚醒者です。」
相変わらず遅筆で申し訳ありません。次こそはできるだけ早く頑張ります。
それではご拝読ありがとうございました。