お悩み相談教室(Rさん編)
人通りのやや少ないその通路の一角にひとつの屋台が置かれていた。暗幕の所為で仲が見えないが、そこの隣に《お悩み相談に乗ります》と書かれた看板が置かれていた。
いつからあったのか分からぬその場所に今日も誰かが相談しにやってくる。
「あのう、今大丈夫でしょうか?」
「大丈夫ですよー」
「じゃあ失礼します」
女性と呼ぶにはやや高い、子供じみた声に言われるままに入って行く青年。青年は椅子に座ると大きくため息をついた。
「おやおや、入ってきてそうそう溜息とは。仕事が行き詰りましたか?」
「いや、今日はお姉ちゃ――いや、姉が最近おかしくって」
「おかしいとは具体的にはどんな感じで?」
青年は逡巡したのち、ぽつぽつと話し始めた。
ここ最近、寒くなっているじゃないですか。だけど、余程眠たかったのか、先日半袖のままで寝てしまいまして。布団をかぶっていたから最初は大丈だったんですけど、やっぱり途中で目を覚めてしまったんですよ。そしたら、なぜか布団がなくなっていて代わりに、
「…………佐藤さん?」
「おはようございます、悠君。今日は寒いですね」
「うん、そうだね……。あのところで、そのカメラについてもう何も言わないけど、なんで佐藤さんが俺の布団を持っているの?」
お酒に強い姉にしては珍しく、顔が赤かったからかなり酔っていたんだろうとは思います。じゃなかったら、あんな奇行をするはずがありません。
「…………素面でも、それ以上の奇行に走っているけどな、あの人」
「何か言いましたか?」
「いえいえ。で、つまりはそのお姉さんの奇行をどうにかしたいと? まあ身の危険を感じる話ではありますからねえ」
「身の危険……?」
「え? 違うんですか?」
「いや、そのあと姉が寒いって言いだしたから、姉に俺の蒲団を貸して、俺は隣の部屋の兄の所で寝たんですよ。で、翌日に姉にそのことを話したら」
「話したら?」
「その日以来、姉が露骨に兄のことを無視するようになって。どうにかして仲直りさせたいんですけど、どうしたらいいでしょうか」
正直、放っておく方が身のためです。
なんて言えるはずもなく、暗幕の向こうで頭を抱える相談相手。さて、どう言えばいいのやら。
「…………とりあえず、二人から何があったのか聞くべきではないでしょうかね。悠也さ――じゃなくて、あなたが必ずしも絡んでいるとは限りませんし。具体的な解決策はそこが分かってからじゃないと」
「ああなるほど、言われてみれば確かに。ありがとうございます。ここにお金置いておきますね」
「それともう一つ――もう少し危機感を持ちなさい」
「……? はあ、分かりました」
釈然としていないような口調で頷くと、青年は部屋から出て行った。
青年が置いていったお金を確認すると、彼はぽつりとつぶやいた。
「佐藤さんと舞裏さん関係で悠也さんが絡まないことはまずない系だし。たぶん、添い寝なりなんなりすれば済む話じゃない?」