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タグ・ブラッドと失恋コンビによるグレーゾーン会議

 神道あやめにはある悩みがあった。


「…………」

「浮かない顔しちゃってどうしたのです、あやめちゃん?」

「うん、ちょっと色々悩んでいてね……」

「へぇ。悩み事ですかぁ。自分でよければ相談に乗りましょうか?」

「いやいや、大したことじゃないから大丈夫!」

「そう遠慮しないで! 何でも答えちゃいますよ!!」

「本当に大した悩みじゃないんだけどね……その、」

「うんうん」

「――タグって実はあっち系なの?」

「…………ソンナコトナイヨー」

「ねぇ!? なんで目を逸らすの!? そして、何故に片言なの!?」





「――ということがあってだな。以来、あやめとまともに顔合わせて話が出来ない」

「惚気話を聞くために、放課後を空けた覚えはないぜ、オカマ野郎」


 珍しく、タグ・ブラッドに呼び出された紅厨仄杜だが、そこで聞かされたのは相談事という名の惚気話だった。


「虐めか? 先輩いびりならぬ後輩いびりですか? 女みたいに文句ばかり言いやがって、女子の祈さんですら口より先にものを投げているからな。やたらと女子力の高い男子は兄さんだけで十分なんだよ。俺への当てつけはやめてくれませんか?」

「『そうだ。そうだ。紅厨さんは今、傷心状態なんだ。傷つけるのも大概にしろ。あと、ちゃんぽん買ってこい』」


 と、パペットをせわしく動かしながら腹話術をするのは、先日紅厨に振られて傷心中であるはずの玉響糸音だった。


「そうだそうだ。どら焼き買って――糸音ちゃん!? いつの間に!?」

「『ふっ。紅厨さんいるところに玉響糸音ありですよ。早めにテストを切り上げた甲斐がありました。あと、久しぶりに走ったのでおなか空きました』」

「なるほど。だそうだから、相談料としてちゃんぽんとどら焼き用意しろ」

「さっきの言葉、そのまんま返してやりてぇ」


 といっても、紅厨の言っていることは一理ある。そんな訳でパシらされたタグだが、腹いせについ、あからさまにまずそうな雰囲気のお菓子を買ってしまった。多少怒っても、相手は子供じゃないのだから約束を保護することはないだろう。そう高を括っていたタグだが、二人の反応は彼の予想を上回るものだった。


「『ふむ。西の鳥島の味がしますね』」

「俺はダイオウイカ味かと思ったんだけど」

「『最初は西の鳥島拡大企画に作られたかと思われますね』」

「いや、ここは深海魚企画でしょ」

「『いいや。紅厨さんとはいえども、こればかりは譲れませんね。これは西の鳥島味です』」

「いや、山葵ケチャップ味なんだけど……」


 もはや、海関係ない。


「『安心してください。あなたの話はきっちりちゃっかり聞かせて頂きました。要はニューハーフデビューするか否かで困っていらっしゃるんでしょう?』」

「ぶっ殺すぞ、この×――」

「おっと、言っちゃうか? 別に良いけど、この三人の中で最も殺しを行いやすいのは、糸音ちゃんだかんな。良いのかな? 本当に良いのかな?」

「『えへへ』」

「うっ…………」

「『でも、紅厨さんの方が上ですよぅ。だって紅厨さんの場合、死人に口なしじゃないですか』」

「あと処理しない分、糸音ちゃんの方が優れているじゃん」


 と、お互いに謙遜し合う二人。ようやく、いろいろな意味で相談してはいけない人に相談したことにタグは気付いた。


「いや、もういいや。ごめん……相談した自分が悪かったよ。もうこの話はなかったことに」

「ストップストップ! これ以上たかったりしないから、去らないでってば」

「これ以上たかる気あったんかよ。だったらそれ相応の態度を示せや。こっちは真剣なんだよ……」

「だって、『自分の方が可愛い』って言っている人に助言できる事なんて、周りが騙されている内にさっさとデビューしちまえっていうぐらいですぜ?」

「はぁ? そんな事言った覚えないし。脳味噌腐ったんじゃねえの?」

「わーあの女の子可愛いなー。すっげー可愛いわー。少なくともタグよりかは可愛い」

「ふぅん…………自分の方が可愛いし」

「糸音ちゃん。バッチリ撮ったかい?」

「『はい。バッチリがっちり撮っておきました』」

「撮ったって何を――……っっ!?」


 自分が言った事に気づくタグ。今更口を押さえてももう遅かった。にやにや笑いながら何度も再生する紅厨と糸音。


「もう諦めろ。貴様は既に戻れないところへ行ってしまったんだ」

「ちっ違う!! ほらーあれだよ、そうジョーク、ジョーク!! 冗談に決まっていだろ」

「『でも先日女子会に呼ばれていたじゃないですか』」

「だが断った!!」

「『この前女子に可愛いと褒められて喜んでいた!!』」

「誰だって褒められたら嬉しいじゃん!!」

「『服が男物より女物の方が多い!!』」

「テメェっ!! いつの間にそんな情報を手に入れた!? アズの馬鹿にすら話していないのに!!」

「『伊達に諜報班に入っている訳じゃあないんですぜ。その気になれば、あなたのプライバシーは皆無です』」

「畜生……っっ。まだスラムにいた頃の方がマシじゃねえか……っっ」

「『ふっ。どうやら私の勝ちのようですね。どうです? 紅厨さん、私やりましたよ』」

「…………」


 誇らしげに言う糸音。だが、紅厨は何の反応を示さなかった。


「『むー。紅厨さん、紅厨さん。聞いていますか、紅厨さん!』」

「――っっ!! うわ、ビックリしたぁ。えぇと、どこまで話進んだんだっけ?」

「『やっとタグさんがあっち系だと認めたところですよ』」

「認めてないし!!」

「あぁ、そうなんだ。いやぁ、お腹が痛すぎて聞いてなかったわ。こりゃ、食あたりかもしれない。タグが買った謎ポテチの所為だな、うん。健康はどんな武器よりも重要視しなきゃなんねぇってのに……ったく、貴重な商売道具をどうしてくれるんだよー」

「うわ、自分の所為!? ちょっと、マジで勘弁してくれよ」

「こうしている間にも、腹が……っっ」

「文句言う前に早くトイレ行けよ!!」


 「言われなくても、そうするつもりじゃい」といって、トイレへと向かう紅厨。彼がいなくなった瞬間、糸音は、先程まで紅厨が飲んでいた飲み物に口を付けた。


「普通、腹痛を訴える人間がシェイクを飲む訳ないでしょうが。紅厨さんは本当馬鹿な人です」

「…………」

「ん? どうしたのです?」

「しゃ、喋っているだと…………っっ!?」

「手が留守じゃないのだから、しょうがないなのです。それとも、私が病気か何かで喋れない子でも? それは佐藤さんの方ですよ。今はだいぶ良くなったようですけど、一時期無茶していたんですよ。幾ら愛すべき弟を喜ばせるためとはいえ、あんなリスキーな行為をするなんてどうかしていますよ」

「へぇそうなんだ……」

「うぃ。にしても、シェイクって危険な飲み物ですね。酸欠を起こして頭が痛いのです、うぅ……」

「マジで? 自分、それ気になっていたんだよね。飲ませて」


 本人の了承を得ずに勝手に飲み回しを始める二人。そして、そろって酸欠に陥った。


「紅厨さんの手前、ついふざけてしまいましたが、用はあれですよね。とりあえず、神道さんが持ってしまった偏見をどうにか払拭して欲しいと」

「フッショクってのがなんなのか分からないけど、多分そうだと思う」

「ずばり、女装するのを我慢するしかないです」

「別に大丈夫だけど、それぐらいで変わるものなのか?」

「要は『俺は嫌々女装をやっているだけなんだぜ!』って印象を与えればいいのです。大丈夫、私がちゃんと策を張っておきますから」

「あ、ありがとう……」

「その代わり、今度ちゃんぽんを奢ってくださいね」

「そのちゃんぽんってのも分からないが、了解した!!」

「栄養満点のジャパニーズフードです!!日本へ来たら、牛丼よりも先に食するべき料理であります!!」

「うん、やっぱり良く分からねえ!!」

「だったら、のんびりと理解していきましょう!!」

「それもそうだな!!」


 糸音の勢いにおされて、タグもハイテンションになってしまっていた。


「お? 随分、仲良くなってんじゃん。俺が抜けていた間に何かあったの?」

「『あっ、紅厨さん。タグさんは、心機一転するんです! もう一度男として出発するんです!ニューメンになるのです!』」

「へぇ、そうなの――え?」





「ねぇ、タグ。聞きたい事があるんだけど」

「…………何?」

「えっと、噂で聞いたんだけど、男物より女物の服の方がたくさん持っているって本当なの?」

「全部捨てたので違います」

「あぁ、そうなの。あともう一つ訊きたいんだけど――にゅうめんの意味分かっている?」

「…………」

「あれ? タグ? 聞いている?」

「あぁもう!! うるさいなぁっ!! 放っといってくれよ!」


「――って事があって、以来タグから避けられているんだけどどうしよう……」

「俺に訊かれても、そう言うのには疎いからなぁ……でも、不貞腐れた場合の対処法は知っているぞ、なあ誓」

「伊達にあの我儘弟の面倒を十六年見てきた訳じゃないしね。そっち方面で良いのならある程度のアドバイスは出来るわ」

「わぁ!! 本当ですかぁ! ありがとうございます!!」

「そうだ。一番簡単で手っ取り早いのがあるぞ!! いるのは腕力だけのお手頃さだ!!」

「あぁあれね。あいつ高いところと煙が好きだものねぇ。昔はよくそれでなだめていたわ。今も偶にするけど、昔ほど上がらないのよね」

「そうか? 俺がやるとポンポン飛ぶぞ」

「そりゃ、重さを変えれば容易でしょうが」

「そ、そのっやり方とはなんですか!?」

「「高い高い」」

「…………えっとぉ、叶くんって十六歳だったよねぇ?」

「そうだな」

「そうね」

「その年ごろの男の子に高い高いはきつい――というよりも、よく持ち上げられましたね」

「「六十キロなんて軽い軽い」」

「…………」

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