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45 次元の異なる戦い




 空気が変わった。

 それはヤマトの中だけのことであったのかもしれない。

 彼女が自分たちの王のことを頼もしく思っていたのは事実である。

 敗北が現実化し、半ば廃墟と化した戦場において、彼女は坂棟に勝利の希望を見いだしていた。


 ラバルの王が上位魔族を見たのはわずかな時間だった。彼は、ナギサを腕に抱えたままヤマトに近づいてきた。


「もう大丈夫だ」


「はい」


「セイを呼んだから、それまでは我慢してくれ」


「はい」


 ヤマトは身体を起こして、何とか座った。

 身体を動かすと痛みが走り、かすかに声がもれた。足の骨が折れているようだ。他にも身体のいたるところが悲鳴を上げている。


「無理しないで寝ていていいぞ」


「地面に寝ていても痛いだけです」


「なるほど」


 坂棟はナギサをヤマトの隣へと座らせた。ナギサはなすがままだ。負傷がひどく口をきく力は残っていないようだ。

 坂棟は自らの服を千切り、ナギサの止血をした。完全に煉邪を無視している。

 ヤマトは坂棟の力を信じてはいたが、さすがに気が気ではなかった。相手は上位魔族であり、竜と同じようにこの世界では最強に数えられる種族である。

 下に見てよい相手ではない。

 だが、ヤマトの心配は無用だった。煉邪はむしろおもしろそうに坂棟の行動を眺めていた。


「戦場にあって異性に気づかいをみせるというのは、なかなか興味深い人間の性質だ」


 煉邪のそれは観察する者の目である。


「上位魔族には性別はないのか?」


 坂棟は立ちあがり、煉邪に向きあった。互いの距離は一〇メートルはある。


「質問は許していない」


「人間の身体を奪うのなら、肉体的な性別はあるはずだな?」


「見逃してやったからと言って、調子にのっているようだな。キサマらはただの道具だ。道具が質問をするか?」


「この騒ぎの元凶はおまえか?」


「聞こえていないのか、私の言葉が」


 煉邪の声に怒りが宿りはじめた。


「話す気はないのか?」


「いい加減にしろ、人間ごときが!」


 煉邪から殺気が放たれる。

 ヤマトの前には坂棟の背中があった。彼の前方が輝く。

 坂棟が光熱波を放ったのだ。

 やっぱりできるんだ、といささか的外れな感想をヤマトは抱いた。彼女はハルやラトが光熱波を放つところを見たことはあったが、坂棟のそれは見たことがなかったのである。

 光熱波は、障害物などないかのように破壊された城壁の跡まで直進し、外に出ると分裂して破壊をまきちらした。

 光が消えた後、そこに煉邪の姿はなかった。


「その程度の力で私を倒せると思っているのか?」声がしたのは上空からだ。煉邪が坂棟を見下ろしていた。「思い上がるのもいいかげんにするのだな、人間――」


 坂棟が視線を上げた。

 連続して光熱波が放たれる。

 五つの光熱波が光の糸を引きながら上空へと向かった。

 だが、煉邪はあっさりとかわしてみせる。

 光熱波は夜空を貫いた後、方々に散った。流星のように光熱波は地面に流れ落ち、城壁の周囲で爆砕音がこだまする。


 ヤマトに疑念が生まれた。

 上位魔族が坂棟の上を行き、攻撃を避けているのだと彼女は考えていたのだが、どうもおかしい。

 そもそも坂棟の主力武器は、念糸と呼ばれるよくわからない細い糸のはずだ。なぜ、得意な武器で攻撃しないのか。


「キサマ、私を虚仮こけにしているのか!」


 怒りに身を震わせながら煉邪が地上へ降りてくる。


「いや、驚いたよ。ずいぶん強いんだな」


下位魔族ゴミの始末のだしに、私を使ったな」


 坂棟は上位魔族を攻撃しながら、その実、周辺の下位魔族を倒していたのだ。どちらがついでであったのかはヤマトにはわからないが、別の次元で王が戦っていることだけは、彼女にも理解できた。


「ゴミ? 下位魔族を退かせろ」


「ふざけるな!」


 煉邪の周辺に、暗闇がいっきにひろがった。

 攻撃が来る――坂棟を信頼しながらも、ヤマトは身構えた。だが、いつまでたっても暗闇は同じ場所にとどまっていた。


「なに?」


 煉邪が不思議そうな顔をして、自信の身体を見下ろしている。肌をさらした上半身から青い血が流ていた。

 坂棟が攻撃をしたのだ。おそらく、念糸によるものだろう。


「……人間ごときが私に傷をつけただと」


 うつむいた煉邪が全身を大きく痙攣させた。怒りはあっても、痛みはまったく感じていないらしい。

 煉邪の青白い肌にひびが入った。

 内にある膨らみに耐えかねたように全身の肌が裂け、中から黒い何かが姿を現そうとしている。

 邪気とでも言うべきおぞましい空気が、裂けた肌の下から溢れだしていた。


 ヤマトは、自分の周囲を力場が包むのを感じた。坂棟が行ったことだろう。


 煉邪の姿が弾けた。

 代わりに現れた黒い塊が、脈打ちながら巨大化していく。一〇メートルを越えた辺りで巨大化は収まり、羽音のような不快な連続音を生じさせ始めた。

 黒い塊は、巨体を蠢かせながらその姿を具現化していく。伸縮は消え、甲殻化した身体が姿を現した。

 一言で言ってしまえば――それは昆虫である。

 転身した上位魔族は空中を浮遊しながら、坂棟への悪意だけは変わらずにじませ続けている。


 それからの戦いは、ヤマトの想像を遥かに超えたものだった。

 坂棟はすぐに空へと移動した。ヤマトたちへの力場は作ったままである。彼女たちを巻きこむことを恐れたのだろう。

 坂棟が警戒を抱くほどに上位魔族の力は強いということだ。


 廃墟となったモーリス城の上空で光と闇が激突した。

 白い稲妻と黒い稲妻が空を切り刻んだ。巨大なエネルギーがぶつかりあり、周辺へ衝撃を波立たせる。

 どちらが優勢であるのかヤマトにはわからなかった。実力が違いすぎるというだけでなく、すでに肉眼で捉えるにはあまりに距離が離れすぎていたのだ。

 しばらくして、いや、実際はたいした時間ではなかったのだろう。暴虐の吹き荒れる夜空が鎮まった。

 音も立てずに人影が降りてくる。

 坂棟だ。


「いったい、あの男は何なのよ……」


 ヤマトの隣でナギサがぽつりと呟いた。

 ヤマトはその問いに答えることができなかった。

 だが、彼が自分たちの王であることだけはわかっていた。その事実だけで充分である。





 この戦いを目撃したのは、人間ばかりではない。

 上位魔族――白禍びゃっかも見ていたのだ。

 坂棟克臣の存在は、彼自身の思惑とは別に、その異端の力と共にさまざまな勢力に知られつつあった。








 次の更新は、4月29日の予定です。

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