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18 ザルグの会戦 光




 坂棟は眼下を見おろしていた。

 そこには、一体の騎影があった。本人の名のりでは、八将のロッドガルフであるという。

 八将が一人戦場へ援軍に行ったかと思えば、一人が戦場から離れ、城塞の前にいる。

 オーダルオン城塞陥落を聞いて、現れた? だが、それにしては、早すぎる。

 早朝に発った八将と思われる男が戻ってきたという可能性がないではないが、おそらく別物だろう。感知する力が異なっていた。


「一人で、来られたのか? 騎馬隊はどういたした?」


「さっきも言ったが、白い仮面の男の噂を聞きつけ、勝負をしにきた。それだけだ」


 将軍位にある人間が、個人の感情を優先して行動するということはないはずだ。

 昨日、確かに、坂棟の騎馬隊は戦場で活躍を示したが、八将自らが出てくるほど、抜きんでたものではなかった、と坂棟自身は考えていた。

 つまり、坂棟がどうこうというのではなく、何かしらの明確な目的を持っているということだ。

 それが、何なのかはわからない。わざわざ八将の名を出す意味もわからなかった。


 だが、目の前の男が八将であるというのなら、その力をはかることには意味がある。

 偽物の真偽も、戦うことで明らかになるだろう。

 どちらに転んでも坂棟に損はない。

 坂棟の隣には、セイが立っていた。


(セイ、どう思う?)


(行けと言われれば、行きます)


(まったく精霊力を使わない状態では、厳しいんじゃないか? 本物なら、おそらく相手は神法術を使うぞ)


(使用してはいけませんか?)


(情報を与える必要はないな)


(わかりました)


(でも、まあ、八将とやらの力を見極めるのが目的だ。必要なら風だけをうまく使って、相手の力を引きだせ)


(承知しました)


「相手になろう。こいつがな」


 坂棟はセイの腕を拳で軽く叩いた。


「おぬしが戦ってはくれぬのか?」


「あなたが勝てば、次は俺が相手をしよう」


「なるほど、お楽しみは最後ということか。承知した」


 楽しそうに八将を名のる男は笑った。





 二人の大男が大剣を合わせていた。

 すでに、三〇合を超えているだろう。

 両者ともに豪剣の使い手だ。

 周囲に人がいれば、彼らの振るう剣に巻きこまれ、あっさりと命を刈り取られていたことだろう。とてつもない旋風が、二人を中心にして巻き起こっている。

 城壁から見守る兵士たちは、一騎打ちに目を奪われ、その戦いぶりに感嘆していた。


 だが、二人がまだ本気をだしていないことを、坂棟は知っている。

 内にある力と外に出ている力が、見合っていないのだ。

 互いに互いを量っていた。

 ヒューマンにも強者はいるものだ、と坂棟は素直に驚く。

 神法術師による遠距離からの攻撃のみが、ヒューマンで警戒すべきものだと彼は認識していたのである。


 だが、目の前でヒューマンは接近戦でも力を発揮していた。

 八将と呼ばれる存在が、一定の強さを持っているのは、戦場の様子からわかっていたが、実際見てみると思っていた以上の能力を秘めていた。

 ロッドガルフと言う男が八将であることは間違いないだろう。そして、彼は坂棟にとって歓迎すべき敵となった。

 パルロ国の最高戦力が、どういったものなのかを教えてくれたからだ。


 二人がじょじょに本気を出しはじめる。

 体重を乗せた剣のぶつかりあいが起こった。

 剣が重なると、そこを中心に空気が弾け、砂塵が舞った。


 互いの術が戦闘に彩りを与えている。

 どうやら、八将の神法術は、肉体強化をもたらす種類のもののようだった。

 さらに、神法術で、短距離の攻撃をしかけていた。神法術が暗器のような働きをしているのだ。普通の人間には、避けられない攻撃である。

 もちろん、セイは普通の人間ではない。セイは風の力をもちいて素早さを上げることで神法術を避け、あるいは風の盾で弾いている。


 坂棟の関心は、もう一つあった。

 こちらの能力をはかるすべを、相手は持っているのか?

 八将がセイの力を精霊力だと気がついているのかどうかということだ。

 それとも、神法術だと感じているのか。

 本人に聞いたところで、答えることはないだろう。ただ、セイの力に驚いているという様子はない。

 精霊力を使用するのはエルフのみ、それ以外の人間が使ったのなら、驚くべき事実のはずだ。

 ということは、ロッドガルフは、セイの力を自分と同種のものと考え違いをしていると見ることができるだろう。


 時間の経過に合わせて両者の力が跳ね上がっていった。

 八将はよくついてきている。そう、ついてきている・・・・・・・だけだ。

 余裕があるのは、セイだ。隠していた力は、どうやらセイが完全にまさっていた。

 すでに八将の力はある程度量れたと言って良い。

 このまま最後までやらせるべきかどうか、坂棟は考え始めた。


 その時である。

 光の柱が天を割った。

 方角は、南。

 本隊がぶつかりあっている方向だ。

 集団がいることは感知できても、距離が離れているために、どちらが優勢で誰がやられたのかまでは、坂棟にもセイにもわからない。

 ただし、あのような力を使える人間が、あの場にいたとは思えなかった。

 能動の持つ勇者の剣の力だろうか?

 もしくは、早朝に移動した一〇〇〇騎の中にいた人物の力か?

 本隊が敗れていれば、この城は放棄し、脱出しなければならない。

 本隊が勝っていれば、迎えいれればよいだけだ。

 情報が必要だった。

 直接確かめに行く必要がある。

 坂棟は、自ら出向く決意をした。


 坂棟とセイの主従の間には、念話という情報伝達にすぐれた力がある。戦場で状況を確認して、坂棟が放棄の判断を下した時、ほとんどタイムラグもなく、オーダルオン城塞の放棄が可能である、ということだ。

 つまり、遠方から撤退を坂棟が決めた瞬間、実際に城塞から兵士を撤退することができるということである。

 そのためにはセイの行動の自由を確保しなければならない。


(セイ、やれ)


(承知しました)


 坂棟は、ロッドガルフを討つことにした。

 彼は傍にいた千人隊長ヒサキに指示を出す。


「俺は単独行動をとる。この後はセイの指示に従え」


「わかりました」


 坂棟は、セイと八将の勝負の結果を見ることなく、移動を開始した。

 両者の戦闘は、セイが力の差を見せつけ始め、すでに形勢は明らかになってきていた。

 坂棟は、城壁から飛び降りると、未だに立ち昇ったままの光の柱に向かって、駆け出した。

 念のために八将の視界から外れた後に、愛馬の蒼一角馬フレイディーンに騎乗するつもりである。





 ジークセイドに露払いを任せるといいながら、先陣を切っていったのは能動である。

 大将の出陣に解放軍は沸き、その一騎当千の武勇に勢いを大きく増した。

 敵陣を切り裂く、能動の正面に立ちはだかったのはヴァレウスであった。


「どけ!」


 能動が叫ぶ。


「ほざくな!」


 両者の剣が激突した。

 勢いに負けたのは、ヴァレウスだった。だが、さすがに、体勢を崩すというところは見せずに耐えた。

 彼は、王の命令を受けて、前線へ出たところで、出会い頭に能動とぶつかったのである。


「ノウドウは、先に行って!」


 能動とヴァレウスが向かいあう間に、ジークセイドが飛びこんできた。


「わかった」


 能動は、ヴァレウスの横を通り抜ける。

 ヴァレウスは剣を出そうとしたが、ジークセイドに斬りつけられたことで、攻撃を断念した。


「ザコがちょこまかと!」


 ヴァレウスが連撃する。

 縦横無尽に振るわれる剣戟に、ジークセイドは何とか耐え忍んだ。

 技量はもとよりヴァレウスの方が上であるのだが、馬上での戦いが不慣れなことが、ジークセイドをさらに不利にしていた。

 ジークセイドが本格的に騎馬の訓練を行ったのは、数カ月。それに対して、ヴァレウスは、少年の頃から二〇年近い経験があるのだ。


「どうした、威勢が良いのは最初だけか」


 一方的に、ヴァレウスが攻める。

 ジークセイドはぎりぎりのところで、かわし、あるいは受けた。だが、無傷ではいられない。

 ヴァレウスの剣が閃くたびに、ジークセイドの四肢から赤い液体が飛び散る。

 鎧ごしの打撃、あるいは、鎧の隙間を狙った剣先の動きは精密で、狙いを自在に変える余裕がヴァレウスにはあった。

 そして、ついにジークセイドは、馬の上から弾かれた。

 だが、これは半ば自分から跳んだものだった。剣の衝撃を後ろへと逃したのである。


「弱いな」


 ヴァレウスがジークセイドを見下ろす。


「わかった」


「ようやく、自分たちの無力さを理解したか」


「違う。おまえの強さの理由がわかった」


「戯言をほざく」


「戯言かどうか、確かめてみろよ」


 ジークセイドは、跳躍して、ヴァレウスに一刀を振り下ろそうとした。

 斬撃は、これまでにない速さと威力であった。

 ジークセイドは、神法術を内力に使うすべを、いやこつ・・を学んだのである。

 ヴァレウスとの短い戦いの間に会得したわけではない。

 これまで行ってきた能動との訓練で、下準備はできていたのだ。それが、ヴァレウスとの実戦を得て、ついに開花した。

 だがジークセイドの一撃は、強烈な斬撃によって応じられ、彼の手から剣が失われた。


「猿まねはうまいのか。だが、そんなものが何の役に立つ」


 経験の差がここでもはっきりと表れる。

 同じ能力を使っていても、いかにも荒削りのジークセイドでは、充分に能力を使いこなせていないのだ。

 これではヴァレウスには勝てない。


「役に立つさ」


 ジークセイドは、側に落ちていた槍を拾った。

 彼は再び立ち向かったが、攻撃内容が変わっていた。直線的な攻撃をやめ、動きで幻惑することに徹しているのだ。

 ヴァレウスがわずかに表情を変えた。余裕が失われたわけでないだろうが、間違いなく警戒している。

 重要なのは速さであった。スピードであれば、ジークセイドは、ヴァレウスに対抗が可能であったのだ。だからこそ、力の差が如実にありながら、何とかこれまで渡り合えていたのだ。その事実に、ジークセイドは気づいた。

 神法術の新たな使い方を覚えたジークセイドは、ヴァレウスの速さを上まわっていたかもしれない。


 ジークセイドが振りかざした槍が、鋭く直線を描き、あらわになっていたヴァレウスの頬を斬った。

 皮一枚を斬ったにすぎない。だが、ついに、ジークセイドの攻撃がヴァレウスに届いたのである。


「きさまごときが、この私に傷をつけただと」


 ヴァレウスは、頬に流れる血をぬぐった。

 両者の眼光がこれまでになく鋭く光る。


 その時、光が戦場に降りそそいだ。

 二人の視線が、光の方向へと向けられた。パルロ軍の後方本隊のある位置だった。

 視線をそらすことは、命の危険につながることをよく理解している二人が、それでも視線をやらずにはいられなかったのである。

 彼らは光の柱が天を割る姿を、網膜にはっきりと映した。


 戦場のすべてが動きを止めた。








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