30 調査隊、ランストリア跡へ
ランストリアの調査隊の人選は難航し、当初の予定よりも一月遅れて発布された。
ランストリアの調査を命じられたのは、八将の一人であるロッドガルフ・ジュターフォンである。
調査隊は、三隻の船でランストリアへ向かっている。
ロッドガルフは、船の甲板で椅子に座っていた。
その姿は緊張感がまったくなく、ぐうたらという表現がふさわしい、だらしなさである。
ロッドガルフの傍には副官のミュラーゼンがいた。
彼は規律正しい男だ。
隣にいる男のせいで、余計にミュラーゼンという人は、しっかりして見えた。
彼は、すべての面に優れた男で、戦い以外のすべてのことは、副官である彼が差配している。
つまり、戦い以外ではまったく役に立たないのがロッドガルフであった。
彼は大剣使いで、豪剣の使い手である。
圧倒的な膂力と彼独特の技量は、世界有数の武勇を彼にもたらしている。
ロッドガルフの趣味は武器集めだった。
集めるだけではなく、彼はその武器を使用した。
彼は、今、刀に凝っている。
だが、彼の技術は切れ味に特化した刀にまったく向いていなかった。
というわけでは、すでに一〇本以上の刀をロッドガルフは折っている。
パルロ国の将軍がもちいる刀だ。
いずれも名刀である。
「知ってるか?」
ロッドガルフは気だるげに言う。
瞼は半分閉じられていた。
「何をです?」
どうせつまらないことだろう、と考え、ミュラーゼンはすぐに反応しなかった。
「陛下は、神々の怒り、という剣を持っているだろう」
「……パルロ国の者なら、いや、ルーン大陸の者なら誰でも知っていることです」
神剣・神々の怒りは初代勇者の剣である。
彼は初代パルロ国王となった男であり、彼の名声とその右手にあった神剣は、今でも大陸中に鳴りひびいている。
神剣・神々の怒りは、パルロ国王が、王者の証として代々受け継ぐ剣でもあった。
「なら、陛下に他の剣はいらないと思わないか?」
「まあ、あの剣に代わる物は、この世界に一つとして存在しないと思いますけど」
「鍛えられし希望があるじゃないか?」
ロッドガルフが口にしたのは、二代目勇者が手にしていたとされる剣だ。
「あれは迷信でしょう」
「そういうことになってるな」
意味深にロッドガルフは言う。
ミュラーゼンは、問いただしたりしない。
どうせ煙に巻くのだ。
それに本当に知っているのか、あやしいものである。
ミュラーゼンは、上司が知らないのに知ったかぶりをしていると判断した。
日頃の行いのせいだ。
「まあ、それはいいんだ。で、陛下は鬼の王を討伐しているだろう」
「ええ」
「鬼の王の刀は、鉄をもやすやすと切り裂くと言われているじゃないか」
「鬼の刀は、有名ですからね」
「俺にくれてもいいと思わないか?」
「思いません」とは、口にせず、「そうですね」と副官は大人の対応をした。
刀を何本も無駄にしている男に、最高の刀を与えるほど王は愚かではない。
ロッドガルフが刀を授けられないのは、当然のことだった。
ランストリアにセイレーンはいなかった。
ランストリアは、たった二ケ月という期間で、完全な廃墟と化していた。
調査をするのならさっさと命じてくれればよいものを、とミュラーゼンは思う。
時間がたてばたつだけ、痕跡という過去を知るための情報が消えてしまうことを、彼は知っていた。
まったく動かない上司をしり目に、ミュラーゼンは精力的に働いた。
二ケ月に及ぶ調査によって、ミュラーゼンは、鬼やセイレーンが暮らしていたと思われる痕跡を次々と発見する。
さらに、鬼が、どうやらシムラルズ山嶺へと向かったこともわかった。
鬼も何かから逃げたらしい。
やはり何らかの脅威がいたということだろう。
竜に襲われる可能性を選んでまで、この地を去ったのだ。
証言から考えても、おそらく魔族に違いない。
だが、それにしては脅威となった魔族の痕跡がまったく発見できなかた。
唯一で明確な痕跡が、ランストリアの破壊である。だが、これだけ派手に暴れているのに、破壊後の行動は不明なのだ。
下位魔族が森で一定数見つかったが、やはり、町を滅ぼすほどの魔族は発見できなかった。
強大な魔族に関する情報は何もなく、いささかも正体を明らかにできていない。
魔族も西へと移動したのだろうか?
シムラルズ山嶺をこえての調査をミュラーゼンは希望したが、中央からの呼びだしを受けて、引きかえすことになった。
「何かがある」
王都へと出航する時、ミュラーゼンは呟いた。
「そう思うなら、一人で行ってこい」
ロッドガルフが言う。
「命令は無視できません」
「真面目だな」
「命令どおりに動くのは当たり前のことです」
「そうか? 俺はそうでもないがな」
「それはあなただけです」という言葉を、ミュラーゼンは呑みこんだ。
呑みこんだ後に、言ってやればよかった、と少し後悔した。
彼は、シムラルズ山嶺をこえての調査の必要性をしっかりと報告書に刻みこんだ。
この報告書は、パルロ王とその秘書の目にとまることになる。




