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28 生活環境の進歩

 日常編




 坂棟が一月半の旅から帰り、さらに二月の時間が流れた。

 ラバルの町はさまざまな面で前進していた。


 まずは言葉の問題である。

 坂棟は、共通語として古代語である地人語もしくは「第二の言葉」と呼ばれる言語を採用した。

「第二の言葉」とは、ヒューマンとエルフ以外の人間の用いる言葉の源流となった言語である。

 この都市に暮らす種族にとっては、比較的習得が容易であろうとの考えから、坂棟が決定した。


 アラビア数字を採用し、一〇進法の教育を開始。

 距離メートル、重さ(キログラム)、時間(秒)の単位を決定。

 竜石をもちいて基本の型となる原器をいくつか製造し、普及をはかった。

 一メートルは、坂棟の身長から算出し、一キログラムは、一000立方センチメートルの水の質量とし、一秒は、一日を二四分割で、一時間として、さらに、六〇分割して、一分、さらに、六〇分割して、一秒とした。


 いずれも完璧な精密さには欠けていたが、利用価値は充分に認められた。


 坂棟は、暦も新たにつくろうとしたが、呼び方に多少違いがあるが、世界共通の暦があるということで、それを採用した。


 ラバルでは貨幣の流通も始まっている。

 金貨、銀貨、銅貨を作成。

 表が坂棟の顔である。

 裏は、竜と精霊。ハル、ラト、セイ。

 坂棟の知らない間にデザインが決定していた。

 国外に出る者はいないが、持ちだしは厳禁となっている。


 当初はうまくいかなかったが、流通してから一月がたち、住人も慣れて、その利便性を喜んだ。

 品物は政府が買い取り直売していた。



 服や靴の製作は、ドワーフとセリアンスロープの女性たちが積極的に行っている。

 ハルの監視があったので、男性陣はすっかり腰が引けて服の製作からは手を引いていた。


 彼女たちの作品はハルからいまだに認められていない。

 坂棟からも上達は褒められても、品物に対する評価はまだ低かった。

 そこにセイレーンとオニの女性も参入して、物作りの競争は激化することになり、製品の質は向上した。

 その中でも服作りに関しては、セイレーンが一枚も二枚も上手をいっている。


 日用品では、坂棟が気にいったことも多少影響したのか、オニの陶磁器がラバルで流行っていた。


 作物では、主に稲と麦が作られた。

 稲は、セリアンスロープたちが所有していたものだ。

 過去セリアンスロープたちが大きな人口を維持できたのは、収穫高の高い米があったからこそだろう。


 今年は種自体が少なかったので、収穫量はたいしたものではない。

 本格的な生産は、来年からの楽しみということになる。


 ドワーフの酒も造られていた。

 彼らは蒸留の技術をもっていたのである。アルコール度数のかなり高い物が作られていた。


 さまざまな面で前進しているラバルではあるが、うまくいっていない分野も当然あった。


 一つは、法律の制定に関してだ。

 坂棟は各種族の慣例や決まりなど、資料としてまとめるよう指示をだしたのだが、その作業を行える文官の数が絶対的に足りなかった。法律を作る前段階で躓いたのだ。


 他人の物を盗るな。

 他人を傷つけるな。


 といった、ごく単純な決まりのみが現在の法律と呼べるものである。

 争い事は各自で解決するというのが基本路線であるが、いちおう訴えることは可能だ。

 裁くのは坂棟かラトであり、これもまた圧倒的に人材が不足していた。


 一つは、紙の問題である。

 ただし、坂棟の求めるものが質量ともに高すぎるとして、ラトなどには問題視されていない。


 坂棟は、セイと二人だけで失敗を重ねながら、パルプ紙の製造を成功させたが、工業化することはできていない。

 他方で、まだまだ未熟なものだが、和紙が作られるようになっていた。

 これに関して坂棟は最初に口だしただけで、後は何もかかわっていない。

 セリアンスロープ、オニ、ドワーフなどが、種族の垣根をこえて、模索しながら開発を進めていた。

 インクや鉛筆の開発も進められた。

 化学の研究の第一歩が踏み出されている。よちよち歩きではあるが、研究者が生まれていた。


 一つは、塩である。

 今は坂棟とセイによって、強引な平釜法のようなやり方で生成しているが、彼らの力なしでは安定供給はとてもできない。

 海沿いに小さな村をつくることが検討されていた。 


 一つは野生の獣の家畜化である。

 この問題、簡単に言えば獣の野生度が高すぎた。家畜化には時間がかかるだろう。

 似たような問題で、作物の品種の少なさと質の低さなどもあった。

 この分野は、間違いなく、ヒューマンの方が進んでいる。

 あるところから貰えばいいという発想から、坂棟は、ヒューマンと交流をはかることを考え出した。

 主に経済活動をどうにかできないか、ということだ。

 これは、現在の課題となっている。


 国家としての関係は、ヒューマンの他種族への対応から無理であることはわかっていた。

 少なくともヒューマンに圧力をかけることができるほどの巨大な軍事力がなければ、正面からの交渉は現実的ではない。

 認めさせるには、大々的な軍事的勝利というものが必要となるだろう。


 坂棟がヒューマンとの交流に一歩踏みこんだ考えをするようになったのは、都市を囲む防壁の完成が間近に迫っているという事実があった。

 防壁の高さは一〇メートルをこえ、厚さは五メートルある。

 使われた石材には竜石も化合されているので、その鉄壁はパルロ国の王都に迫るものがあるだろう。



 ある時、突然、坂棟は相撲大会を開催した。

 参加制限はなしである。

 祭りのように騒ぐ催し物がなかったので、ラバルの住人から歓迎された。

 盛況の内に相撲大会は終了する。

 上位四人に関取、優勝者にはさらに大関の称号が、坂棟から与えられた。

 賞金も出された。

 優勝者はブルバンという筋骨たくましいドワーフで、身長もドワーフと言う種族からするとかなり高い。重心の低いドワーフは、相撲に適した身体を持っているのかもしれない。

 大関となったブルバンには、優勝旗が贈られた。

 一年間、家に飾ることを許されている。名誉を形として残すことがきるのだ。これは喜ばれた。

 ドワーフは数日騒ぎ、セリアンスロープとオニの男たちはやけ酒に溺れた。

 ブルバンの得意絶頂ぶりは、ドワーフに語り継がれることになるほどだった。


 ちなみに、横綱の称号が与えられなかった理由は、ブルバンが最後に負けたからだ。

 なぜかはわからないが、優勝者であるブルバンは、決勝戦の後に、セイを対戦相手に指名したのである。そして見事に敗れ去ったというわけだ。

 負けないのが横綱、という坂棟の判断により、横綱の称号はセイに贈られた。



 坂棟の知らないところで、国旗の製作が開始され、現在デザインを巡りハルとラトが激論を繰りひろげている。

 いずれ結果が出るであろう。おそらく坂棟の知らないところで……。



 一番上にいる者が満足していないために、この新しい都市では、あらゆるものが常に変化しつづけていた。

 ラバルの環境は劇的に変貌を遂げている。








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