脱出と勇気
「この空間の階段は辺によって段数が違う。『上昇と下降』もそうなんだ。しかもここと段数も同じようなもので、ここをあの絵の画面右手前だと仮定すればぴったり合う!」
M.C.エッシャー。僕の好きなオランダの画家だ。
他の画家の美しい風景や人を描いたものとはまるで違い、彼は幾何学的で不思議な世界を一枚の紙の上に創り出す。それはしばしば騙し絵と呼ばれ、その中のひとつで彼の代表作がその『上昇と下降』だ。
城の階段が永遠に続く。説明が分かりにくいかな。僕はこういうのが苦手なんだ。
その階段は上れば永遠に上り続けるし、下りれば永遠に下り続ける。その階段を沢山の兵士が列を作って歩いている絵だ。
この絵の城と兵士が本当は教会と僧侶だという説もある。
このようなエッシャーの不思議な世界の虜になった人は僕を含め、そう少なくないはずだ。
「へえ。そりゃ凄ぇな」巻貝さんが間抜けな顔で言った。「でも、だからなんなんだよ」
確かにだからなんなんだと言われれば僕には反論できない。全くその通りだから。
「結局ここからどうやって出るんだよ」巻貝さんは追い打ちをかけた。
それが分からないから困っているんだよ。
その質問の答えが出てくることのないまま時間が止まったように音が途絶した。
その静けさが僕らの心を大きく揺さぶる。
何か言わないと……。でも何を。脱出法。それを考えるために今静かなんだろ。
心の揺れは次第にイライラを募らせる。
巻貝さんの方から歯ぎしりが聞こえる。特に彼はそのようだ。短気だから。ただそれを見る気には到底なれなかった。首を動かすのすら出来なくなっている。
僕は今どんな顔をしているのだろう。気になるけど見たくはない。怖くて……。
とりあえず脱出法だ。これさえ……。
でも何から、どこから探せばいいんだ。
この引っ込み思案が僕の最大の弱点だ。これで友達を一人失った。
そんなの繰り返したくない。場面が違うと言えど、二度と……。
考えないと……。
「北山寺さん」
蜩君の声がした。
体の硬直が突然解けたように蜩君の方を見ると確かに彼は僕を見ていた。 そう言えば彼に名前で呼ばれたのは初めてかもしれない。
「なんか分かったのか?」僕が口を開ける前に巻貝さんが口を開けた。
「お前は黙ってろ」蜩君は一瞬だけ巻貝さんの方に眼だけ向けた。
へいへい、と彼は拗ねる。
「ここが『上昇と下降』と仮定してだが、あの階段に出口とかあるか?」
「え?」
「普遍的な考えだが、永遠に続く階段に人がいるのならどこかに入り口があるんじゃないかってことだ」
その目は冷たくも前をしっかり向いた希望の目だった。「思い出せるか?」
何か不思議な感じだった。
僕は今頼りにされている。これが僕らの脱出へ導くんだ。
僕はみんなに迷惑を掛ける側じゃなくてサポートの方だという自信が持てるかもしれない。
思い出すんだ。「うん」
確かあの絵は一番手前の角から右に下り、左に上りだ。下りは長く、上りは短い。その上りの奥の上りが一番短かったはず。ということはここは一番手前の所。
どう辿ろうか。まずは上ろう。
階段を上がると玄関先にあるような小さな屋根がある。
そこを左に曲がる。右に……ちょっとした壁。枕のような膨らみがある。それはその背後から続いている。そこの下には窓があり、勿論空洞となっている。
そこを曲がる。……何が合った? 思い出せ!
ぼんやりと白黒の絵画が見えてきた。少しずつ解像度が上がっていく。
……屋根、屋根がある。その下には……穴、いや、入口がある。そこから画面右に……狭い……通路……そして、
「あった! ここからひとつ上ったところだ!」
僕らは初めて上り始めた。
僕には大きな解放感からの喜びと、一つの不安があった。恐らくその不安は僕だけじゃなく、ここにいる全員が抱えているのだろう。
そんな通路あったっけ?
なかった。
「おい、やっぱり何もねぇじゃねぇか」巻貝さんは大きく舌打ちして、地面を蹴った。
またカリカリしている。
その痛々しい風景を見ていると情けなくなってくる。それと同時にマイナスの安心感と天から地へ転落したような絶望が舞い上がってきた。
すると、彼は僕のワイシャツの襟に掴みかかった。
「おい! 何もねぇじゃねぇか! ホラばっか吹きやがって! 無駄骨じゃねぇか!」
彼との顔の距離とその表情が見えないという逆の恐怖感に僕は吹き飛ばされそうになった。でも彼が右手一本で止めているから飛ぶことはない。衝撃を正面から百パーセント受け止める羽目になった。いっそ飛ばして……。
「おい!」
「落ち着け」すると蜩君が僕と巻貝さんを強引に引き離した。
右手から懐中電灯が零れ、彼の力が僕を背後へ飛ばし、腰が柵に当たり僕の視界がゆっくり回転し始めた。
危ない!
瞬間的に、というか野生本能的に僕は柵を強く掴み、回転を止めた。
向こうの二人は僕がそんな命の危険に晒されたことも知らず、睨み合っていた。
「痛てぇじゃねぇか! ガキが!」
その瞬間僕の両手がじわじわ痛み始めた。どうなっているか懐中電灯で光を当てて見ようと思い僕はしゃがんだ。
「黙れ。落ち着けと言ってるのが分からないのか、単細胞」
「あぁ?」
「ここから出たくないのか?」
僕は懐中電灯を掴み、「痛てっ」また落とした。
彼は舌打ちして立ち上がり、尻をはたく。
「とんだ無駄骨だな」巻貝さんは僕に聞こえる程度の音量で呟いた。
「無駄骨じゃないな」蜩君は巻貝さんを冷たく睨んだ。「意志を持ってしたことで全くの無意味なことがあるという考え方は正しくない。俺らはいくつもの選択肢の中の一つを消したんだ。確かな進歩だ。異論はあるか?」
糸をピンと張ったような緊張した沈黙の中、二人は瞬きを忘れて睨みあい、僕は震えながらそれを見ていた。
「ある」空気の読めない巻貝さんは堂々していた。「この大きな可能性が消えたじゃねぇか。ここはそのなんちゃらって絵じゃなかったんだろ? 他に何か考えられることがあんのか?」
「お前は前提から間違っている。ここに出口がないことくらい最初から分かっていただろ」
僕の胸にその言葉がグサッと刺さった。確かにそうだけど……。
「大体ここは『上昇と下降』じゃないことくらい分かっている」
「え?」僕は心から疑問を持った。「なんで?」
「馬鹿だな、あんたら。ここはどう見ても洞窟であって城ではないだろ」
そう言われたら頷くしかできない。僕の好きな絵はこんな暗くて気分の悪いものじゃないはずだ。
「じゃあここは何なんだよ」
「その質問そのものが間違っている。「ここはいったい何なのか」なんて絶対に決まっているとでも思っているのか?」
……。
「じゃあ」この頃にはさっきまでの嫌悪な空気は全く別のものに変わっていた。「どうやって出るんだよ」
「俺らに当てはひとつしかないだろ」彼は自信のある声でこう言った。「『上昇と下降』だ」
……は?
「おいおい、何言ってるんだテメェは。ここはその絵とは違うんだろ」
「そうだ。ここはあの絵とは違う。だが、こうは考えられないか。ここはあの絵をモデルにしている、と」
「モデル? ぎゃ……」巻貝さんは何か言葉を飲み込むようだった。
「なんか言ったか?」
「いや、なんでも」
「話を続けるぞ。ここはあの絵を元に作られている。それは階段の構造からしても間違いないだろう。ただあの絵には岩壁など無い。まあ言ったらこの洞窟は出来そこないだ。まあ仮定だが」
「その確証はあるのか」
「ない。でもあの仮面は言った。全員に意味がある。他の人では駄目だと。こう考えられないか? 北山寺はこのためにいる、と」
急に僕の名前が出てきたものだから僕は一瞬ビクッとした。
二人はそれを見ても無反応だったが、何かいいことが証明できたみたいで嬉しかった。僕は迷惑をかけてないんだ、と。
「ふ~ん」僕の内心と裏腹に巻貝さんはどうも納得していないように首を上に振った。「でも、どうやって出るんだよ、ここから」
確かにそれが分からなければその仮定が正しかろうがどうだろうが関係ない。
「ヒントはあの絵であることは確かだ」彼は音を立てて足を動かし、木の柵二右手でもたれ、永遠の闇を見下げた。「一応言っておく。北山寺に通路の提案をしたのは念のためだ。それで脱出できたらいいなって言うだけのことで、脱出法はもう思いついていた」
「え?」
「は?」
僕ら二人にとってはまさかの発言だった。世紀の無駄骨じゃないか。
「じゃあなんで早く言わないんだよ」
「だから、考えろ馬鹿ども。俺の思いついた作戦以外があればいいなってことだよ。俺のはあまりいいものじゃない」彼は溜息と舌打ちを混ぜた。
「どういうことだ?」
「その方法は、北山寺。お前には分かるだろ。あの絵の階段とこの洞窟の階段の共通の脱出法が」
「え?」共通の脱出法? そんなのある?
僕の記憶する限り『上昇と下降』では屋上の階段に行く道がさっきの一本だけ。でもそれはさっきここと共通しないことが分かった。
別の視点から考えよう。あの階段は辺が四つで……まさか……!
僕の顔色が暗い洞窟の中で更に悪くなったのだろう。あの巻貝さんが「大丈夫か?」と言ったのが聞こえた。「う、うん……」
「どうやら分かったようだな」僕の顔色なんかお構いなしに蜩君は訊いた。
「うん、分かったよ……」
「なんだよ、じらすなよ」
僕の体は震えていた。現実にこんな危機があることなんて僕の脆弱なプログラムにはインプットされていなかったからだろう。
「巻貝、お前にはどうせ考えるなんて芸当出来ないだろうからストレートに教えてやろう」蜩君は腕を組んだ。
彼と僕の考えが違うことを祈るよ……。
あの絵の中央部が僕の目の奥から消えない。
「いいか。ここから出る方法は」彼はSっ気を出すように間を置いた。「死ぬことだ」
考え方の違うであろう二人の考えが見事に一致した。そして空気がまた冷たくなった。存在しない時計の針が止まるまで、冷たく。
「死ぬ……こと……?」
「ああ」彼は再び奈落を覗いた。「この柵を飛び越えればいい」
つまり死ぬことだ。
あの絵とこの洞窟に共通する脱出法。それは柵を飛び越えること。勿論柵のすぐ下に地面があるわけじゃない。なんと言ってもあれは城だから。
そしてここにも柵がある。あの絵の柵とは全く別のものだけどその先に地面がないのは同じ。ただあの絵とは違い、ここを飛び越える先は見ることができない。この妙に明るい懐中電灯でさえ照らせない程の奈落だ。
命はないだろう。
「それ以外に、ねぇのか?」男らしい巻貝さんの声が初めて震えた。
おそらく昔喧嘩ばかりしていたであろう彼にも確実に命を落とす自殺というものを目の前にすることがなかったのだろう。
「あるかもしれない。だが、あるとしたら他に何がある? 上と下以外に出口はどこにあるんだ。もう探し尽くしただろ」
……。
「あの仮面は言っていた。勇気と力、と。力は分からないが、勇気はおそらくこれだろう」
――さあ! 見せてもらおう! 貴様たちの勇気と力を!
勇気……。柵の向こうの奈に冷たい汗が落ちた。地面に当たる前に蒸発する気がする。
巻貝さんを見ると、僕と同じようなことになっていた。すると、「じゃあ」彼は僕の方を見た。
「北山寺」彼は半笑いの醜い表情をした。「お前がまず落ちろ」
「え?」
胸の鼓動が洞窟の中を静かに響いた。
「お前、なんの役にも立ってねぇだろ」
僕の目は大きく開いたままだ。
「これが勇気を試す試練ならどう考えてもお前がオレらを巻き込んでるやつだろ」
目の渇きなんか感じない。
「そうに違いない。全部お前のせいだ」
彼の眼は一瞬たりとも僕の眼から外れなかった。
「だからお前が毒見しろ!」
彼は僕に般若の形相で胸倉に掴みかかった。
「行け!」
……なんだよ。
巻貝さんこそ何も役に立ってないじゃないか。
「なんだよ」細い声が漏れてしまった。
「あぁ? なんか言ったか? ゴミ虫」彼は殺意で目を見開いて更に顔を近づけた。
彼の握力が僕の心を握り潰す。
体が小刻みに、大刻みに、揺れる。視界では、何も、ピントが、合わない。
近い、痛い、暗い、苦しい。怖い、怖い。
怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
誰か、助けて――蜩君――彼が、呆れた顔をして、溜息を吐いているのおが、見えた。勝手にしな、と聞こえた、気がした。
もう、誰も、助けて、くれない、ひとりで、やらないと、いけない、僕は、ひとり。
僕の元友達の顔が浮かんだ。
ひとり、じゃない。
僕は彼と話をしていた。正確にいつどこでどんなシュチエーションだったかは分からない。
――脩、お前そこそこ臆病だし、その眼鏡とかさあ、見た目的に頭の固い不良にからまれるだろ。
確か僕は否定した。現にそんなことはそれまでなかったはずだ。僕は不良すら相手にしないほどの落ちこぼれだったから。
すると彼は笑った。
――そうだな。お前までのレベルならよっぽどの馬鹿しかそんなことしねえかもな。
ふと巻貝さんの顔が入り込んで、消えた。
――まあ、馬鹿はそう少なくない。今まではなくてもいつかはあるはずだ。
まさに、今だ。だから今、こんなことを思い出しているのかもしれない。
――そういう時はな、相手を挑発させることは勿論、悪口を単純にはさみ込んだら相手はキレるから駄目だ。奴らは短気だ。かと言って、逃げても駄目だ。奴らには変な執着心がある。
じゃあどうするのさ。そんな感じのことを言った気がする。
――そういう時は、馬鹿には分からないちょっと難しい言葉を使って変則的に悪口を連呼するんだ。いろんなバリエーションで。知恵は無いけど知識はある俺はそうやって生きてきた。またやってみな。
僕の中で、プツッと何かが吹っ切れた。
「てめえも同じだろうが我田引水野郎! 小心小胆を横行跋扈で押し隠してんじゃねえよ! 頭冷やして自分の醜行でも見てきな得手勝手暴戻恣睢悪漢無頼が!」
音は耳鳴りがするくらい大きく鳴り響き、その後静まり返った。
巻貝さんと蜩君の目は丸くなっていた。多分そんな僕自身もだ。
こんな大声出したことはこの中途半端な人生の中で初めてだろう。自分でも何が何だか分からない。
「え?」しばらくして巻貝さんは蜩君の方にゆっくり首を向けた。そして僕に指差した。
意味を尋ねているのだろう。知識がないから。
「コイツの言ってることを説明しろと?」彼は蔑視で聞き返した。
巻貝さんは首を縦に振った。「ああ」
「つまり、お前も役に立ってないだろうがってことだな」彼は僕の言ったことの冒頭だけを言った。
その瞬間、僕は後半の台詞が無駄だと気付いた。
「ああ、なるほど」そして巻貝さんはまたこっちを馬鹿みたいな丸い目で見た。そして指を鳴らした。「……殺す」
なんでやねん。殺意のない声だったが不意に思った。あんた馬鹿だろ、と。
「もういいか。飛び降りの準備は」蜩君は柵に腰を掛けるのをやめ、足を掛けた。
巻貝さんは暗い顔でまた俯いて舌打ちをした。
でも、何かが吹っ切れた僕には死というものが全く怖く感じられなくなっていた。
「いいよ。準備はできた。余裕だよ」
すると巻貝さんは電流が体を流れたように僕の顔を覗きこんだ。
そして笑いだした。「いいって! そういう強がり! お前チキンだろ」
僕の心の中で再び炎が燃え上がりかけようとしていた。
でも、僕は大人だ。この人とは違う。黙って堂々と柵に足を掛けた。「飛ぶぞ、チキンゴリラ」
上品で育ちのいい清楚なお嬢様が思いっ切り足を広げて安い下ネタを叫んだのを目撃した父親みたいな巻貝さんの複雑な顔がちょっと快感だった。蜩君も笑ってる。「チキンゴリラwww」
「あ~もう!」そして彼も足を掛けた。「やりゃあいいんだろ! やりゃあ!」
「ああ」
改めて柵の向こう側を覗くと、やっぱり底は見えない。
完全なる暗闇だ。
僕は息を呑んだ。同時に巻貝さんも息を呑んだ。
「怖いか?」蜩君は奈落の底を見たまま、僕らに訊ねた。
「怖いよ」さっきは怖くないと思ったがいざ目の前にしてみるとやっぱり怖かった。余裕なんて不思議なことにほとんど残っていない。「蜩君は?」
「怖いさ」
その一言に僕は彼の顔を覗いた。さすがにもう暗さに目が慣れているから懐中電灯を当てなくてもある程度は表情が見える。
無表情であまり恐怖を感じているようには見えないけど、やっぱり彼も普通の人なんだなって。
その時、気付いた。怖いけど、足は震えていない。
「行くぞ」
蜩君の声を聞き、僕は深く呼吸をした。
「三」
もしこれが外れだったらどうしよう。そんなことが脳裏に浮かぶ。
「二」
だからなんだ。僕らにはこれしかないんだ。これが当たりだと信じるしかない。
「一」
恐怖がぶり返す。でも僕らの後ろに道はない。前の道は文字どおり未知だ。
「零!」
その未知に賭けるしかない。
もし外れだったら? 死ぬだけだろう。
僕らは同時にジャンプし、物凄いスピードで落ちて行った。
待っているのは生か死か。僕らは乾いた風を全身に浴びながら暗闇の中で待つしかない。