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帰ってきた彼に提案をしてみると、彼は困ったような表情で固まってしまった。やはり、家にずっと居続けるのは難しいのだろうか。
夕飯の缶詰を食べながら、私は黙って彼の顔色を窺った。彼の瞳を覗き込むと、真っ黒な彼の瞳に、私の姿が映りこむ。家の中には姿を映す鏡というものがないから、私が自分の姿を確認できるのは、唯一、彼の瞳に映るときだけだ。
私と彼は似ていない。
親子や兄弟なら、きっとどこかしらが似ているのだろう。けれども、私と彼は似ていない。あまりにも、似ていない。
だから彼は私に姿を確認させたくないのだろう。きっと彼の姿が普通で、私は少しおかしいのだと思う。私を傷付けたくなくて、彼は隠してくれているのかもしれない。
赤と黄色と白を混ぜたような肌。彼の瞳に似た黒い髪。
私に確認できるのはそれくらいだ。それ以上は、私には判らない。
食事を終え空いた缶詰を流しに運んでいると、彼がそっと近付いてきた。空き缶詰を綺麗に洗うのは彼の仕事だ。前に私が洗っていたときに怪我をして以来、彼の仕事になっている。
流しに向かう彼の背中に、私はもう一度提案をぶつけてみる。
彼は洗いものをしながら、静かに黙って頷いた。頷くのは肯定の意だと、彼が前に言っていた。
私の提案に対して彼が頷いてくれたということは、つまり。
私は、とても嬉しい。
ずっと彼と一緒に過ごせるということは、ずっと退屈な時間を過ごさなくて済むということ。絵本を見るときも、お昼寝をするときも、ずっと。ずっと、彼と一緒にいられるということだ。
外に出なくても大丈夫なの? 私が彼に尋ねると、彼は優しく、大丈夫だと答えてくれた。
毎日同じ時間に家を出ていた彼が、明日からは毎日家に居続けてくれる。外の世界は危ないから、家の中で私と一緒に過ごしたほうが彼にとっても安全だろう。
私にとって彼が世界の全てで、きっと、彼にとっても私が全てだから。




