表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

 帰ってきた彼に提案をしてみると、彼は困ったような表情で固まってしまった。やはり、家にずっと居続けるのは難しいのだろうか。

 夕飯の缶詰を食べながら、私は黙って彼の顔色を窺った。彼の瞳を覗き込むと、真っ黒な彼の瞳に、私の姿が映りこむ。家の中には姿を映す鏡というものがないから、私が自分の姿を確認できるのは、唯一、彼の瞳に映るときだけだ。

 私と彼は似ていない。

 親子や兄弟なら、きっとどこかしらが似ているのだろう。けれども、私と彼は似ていない。あまりにも、似ていない。

 だから彼は私に姿を確認させたくないのだろう。きっと彼の姿が普通で、私は少しおかしいのだと思う。私を傷付けたくなくて、彼は隠してくれているのかもしれない。

 赤と黄色と白を混ぜたような肌。彼の瞳に似た黒い髪。

 私に確認できるのはそれくらいだ。それ以上は、私には判らない。

 食事を終え空いた缶詰を流しに運んでいると、彼がそっと近付いてきた。空き缶詰を綺麗に洗うのは彼の仕事だ。前に私が洗っていたときに怪我をして以来、彼の仕事になっている。

 流しに向かう彼の背中に、私はもう一度提案をぶつけてみる。

 彼は洗いものをしながら、静かに黙って頷いた。頷くのは肯定の意だと、彼が前に言っていた。

 私の提案に対して彼が頷いてくれたということは、つまり。

 私は、とても嬉しい。

 ずっと彼と一緒に過ごせるということは、ずっと退屈な時間を過ごさなくて済むということ。絵本を見るときも、お昼寝をするときも、ずっと。ずっと、彼と一緒にいられるということだ。

 外に出なくても大丈夫なの? 私が彼に尋ねると、彼は優しく、大丈夫だと答えてくれた。

 毎日同じ時間に家を出ていた彼が、明日からは毎日家に居続けてくれる。外の世界は危ないから、家の中で私と一緒に過ごしたほうが彼にとっても安全だろう。

 私にとって彼が世界の全てで、きっと、彼にとっても私が全てだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ