第4話 親と子
朝のHRが始まる前に私と星花ちゃんは教室に戻った。
ガラガラと引き戸を開けて一歩踏み出した星花ちゃんは教室にいる生徒達を見て
「おはよう」
と淡く微笑みながら挨拶して私に小声でお礼を言って自分の席に座った。
少しざわつく教室。そんな中、同級生が何人か星花ちゃんに話しかけて星花ちゃんもぎこちないが笑って話していた。
良かった、そう思いながら私は自分の席に戻ると薔薇が少し暗い表情を浮かべていた。
「薔薇、具合悪いの?」私が聞くと薔薇はこちらを向き首を横に振って
「君は、彼女だから優しいのか? 誰に対しても優しいのか?」
急な問いに私はどう答えるのが正解なのか分からず黙っていると薔薇が私の頬を撫でてきた。
「意地悪な質問だったね。もうすぐ先生が来る」
そう言って薔薇は前を向き、私達は朝のHRを受けて授業に参加する。
星花ちゃんだから? 薔薇相手だったら私は星花ちゃんと同じ対応をしていただろうか。
授業の板書を取りながら私はさっきの問いについて悩む。
うーん、そもそも薔薇が私に頼って来ることがあるのだろか。
どちらかというと私が薔薇に頼ってしまっている気がする。
薔薇、どうしてそんな事聞いたの? なんて聞く勇気は私にはなくてそのまま取り繕った笑顔で薔薇と1日を過ごして終わった。
帰りのHRが終わると、星花ちゃんがこちらの席に来て薔薇は立ち上がった。
「じゃあ、2人ともまた明日」
なんだか今日の薔薇は様子がおかしかった。
「薔薇、どうしたんだろう」
駅のホームに着いても薔薇の違和感が消えなかった。
「どうかしたの?」
星花ちゃんは少し強張った顔で聞いてくる。今にも人を目で黙らせてしまいそうな程怖い顔をしている。
「星花ちゃん、表情をもっと柔らかくした方が……」
「ごめんなさい、今から地獄に飛び込むって考えるとどうしてもね」
地獄って……星花ちゃんも冗談言うんだ。いや、冗談じゃないか。
10年なんの連絡も向き合いもしてこなかった父親にいきなりフランクに接せられても怒りしか湧かないのは当然の事だろう。
星花ちゃんと電車に乗り互いに身を寄せ合って無言で揺らされて、駅に着く。
星花ちゃんは深い溜め息を吐いて立ち上がる。
「行きましょう、優里」
星花ちゃんの瞳にじんわりと敵意のようなモノを感じた気がした。
そんなにお父さんのことが嫌いで仕方がないんだ。
「星花ちゃん、お祖父ちゃん達の前で仮面……外してね。ちゃんと自分らしくいて、私は隣にいるよ」
そう言うと星花ちゃんは優しく微笑んで頷く。
駅を出ると、星花ちゃんは私の手を引いてロータリーに停まっている1台の黒いセダン車に近づく。
「お祖母ちゃん、ただいま戻りました」
中には70代前半と思われる優しい顔立ちに真っ白な髪を結った女性が運転席に座っていて、後部座席のドアを星花ちゃんが開ける。
「乗って、優里」
「うん、お邪魔します」私は言われるがままに後部座席に着くと運転席から女性が振り返り微笑む。
「初めまして、星花の祖母の月子です。貴女が藍川優里ちゃんね」
にこっと明るく微笑む月子さんの目尻などに笑い皺が出来る。お祖母ちゃんって言うけど星花ちゃんとよく似た優しい笑みを咲かせていた。
星花ちゃんのご両親はよく分からないが星花ちゃんはお祖母ちゃん似なのかな。
「は、初めまして。藍川優里です、よろしくお願いします」
私は軽く頭を下げながら挨拶をする。
「そんな畏まらんで良いのよ? 星花みたいな子ね」
私は苦笑いしてシートベルトを着ける。
「お祖母ちゃん、今朝話しましたけどお祖父ちゃんとお祖母ちゃんに話があります。お時間大丈夫でしょうか」
星花ちゃんは私の隣に座ってシートベルトを着けながら報告のように話し出した。
「大事な話なんだね、お父さんは?」
月子さんが車を発進させつつ聞くと星花ちゃんの眉間に一瞬だけ皺が寄ったのが見えた。私はその怒りが滲む顔にゾッとしその後スゥーッと感情が引いていき前に見た人形のような表情に変わった。
「不要です」
淡々と答える星花ちゃん。ルームミラーに写る月子さんの顔は少し悲しそうだった。
車で10分程、高級住宅街と呼ばれる地区に入り坂道を車が登っていく。
車の中はずっと沈黙で星花ちゃんは窓の外をぼぅ……と眺めていて私も見慣れない景色を窓越しに眺める。
「着いたよ」
月子さんが車を停めると、私は目を疑った。
「お祖母ちゃん、ガレージに車しまってくるから星花は優里ちゃんをお家に入れてあげてね」
「はい」
目の前には自分の家2個分くらいの豪邸が建っており、月子さんは車をしまいに家の裏の方へ走って行った。
「星花ちゃん……此処が家? ゲームに出てきそう」
「そう、大きいでしょう。私も最初は慣れなくて仕方なかったわ。
お祖母ちゃんはガレージにある裏口から入ってくるから私達は正面から入りましょう」
白い大きな三階建ての海外に有りそうな洋風の家に私は入る。
「……ひっろ」
玄関は顔認証付きのロックが付いていて、中に入るとすぐにリビングと思われる大きな部屋だった。
ガラステーブルを囲むように2人用ソファーが四方に囲むように置かれ壁には大型テレビがかかっていた。
他にも絵画などが飾られていて私は1つだけ気になるものを見つけた。
「星花ちゃん」
「何?」
星花ちゃんはローファーを脱いで、スリッパを履いて私にもスリッパを差し出してくれる。
お礼を言いながら私はスリッパを履いて、自分のローファーを星花ちゃんのローファーお隣に並べてから立ち上がり指を指す。
「あれ何?」
リビングの中で日陰になっている場所にガラスケースの棚が有り、中に入っているモノと目が合う。
「ああ、お祖父ちゃん達が昔旅行に行った時に一目惚れして買ったらしいの」
星花ちゃんは私が見ているモノに気がついて私の手を引いてソレの前に行く。
「これはね、ビスクドールっていう人形。生きている美少女みたいよね」
目の前にある、そのビスクドールは赤い夕暮れを連想するような透き通った瞳を持ち、鴉の羽のような艶やかな髪を下ろし黒い着物を着て椅子に座っていた。
サイズは幼児くらいだろうか。だけど、私や星花ちゃんよりも大人びているように見えた。
「珍しいお客人だ」
威圧感を感じる低く太い声が後ろから聞こえて慌てて振り返る。
振り返るとダークブラウンのスーツを着た白髪まじりの黒髪をオールバックにした老人男性が私を見て面白そうに笑う。
あれ、この人ってたしか……
「優里、この方が私の祖父で学園長よ。お祖父ちゃん今日は時間を作ってくださりありがとうございます」
そうだ、貰った学園パンフレットに載っていたのを私見た。
「初めまして、星花ちゃんの友達の藍川優里です」
私は慌てて挨拶すると学園長はフッと笑って
「藍川さんは人形が怖くないのか」
「……怖いと言えば怖いかもですね。魅入られてしまいそうです」
私はそう言いながらビスクドールを再び見て、学園長の方を見て答える。
「面白い子だ、椅子に座りなさい。月子、飲み物を出してくれ」
いつの間にか戻っていた月子さんは、答えてキッチンに行く。
私は星花ちゃんについていき隣に座って、学園長は向かいのソファーに座る。
「星花、話があるそうだな」
「はい、私……お祖父ちゃんの後を継ぐ予定は有りません。だけど教師にはなりたいです。
お祖父ちゃんのような優しくて強い教師には憧れていました。」
星花ちゃんは、必死に絞り出すように話す。私は冷え切った星花ちゃんの手を握る。
星花ちゃん、教師になりたかったんだ。だけど学園長になるのは荷が重いって事かな。
「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんに嫌われたら居場所がなくなるって、ずっと言う事を聞いて過ごしてきました。
だけど、本当は……周りの同級生達の家族に憧れて、ました。
私は、お祖父ちゃん達に嫌われるのが怖いから距離を取ってました、ごめんなさい」
星花ちゃんは涙声で深く頭を下げる。
その姿を見た学園長と月子さんは安心したような顔をして
「俺が星花を嫌うジジイに見えるか」学園長は立ち上がって星花ちゃんの頭の上に大きな手のひらを乗せる。
「お祖父ちゃん」瞳を潤ませながら星花ちゃんは学園長を見る。学園長は優しく微笑んでいた。
「良いんだ、お前のやりたいように生きれば。祖母ちゃんもずっとお前から心を開いてくれるのを待ってたんだぞ」
「そうだよ、星花。我慢しなくて良いんだよ? お祖母ちゃん達は星花の味方だからね」
星花ちゃんは嗚咽を漏らしながら「今まで我慢してきてごめんなさい」と泣きながら謝る。
「久々に泣いてる星花を見たな、月子」
落ち着いた星花ちゃんは疲れたのか私の肩に寄りかかって、ぼう……としている。
「そうでうねぇ、いつも隠れて泣いてまいたもんねぇ」
「星花ちゃん、飲み物飲んだ方が良いよ。沢山泣いたら水分取らないと」
月子さんが運んでくれたグラスを取って星花ちゃんに手渡す。
星花ちゃんはちびちびと中に入っている緑茶を飲んで、自分でテーブルにグラスを戻した。
「落ち着いたか、星花」学園長が聞くと星花ちゃんはこくんっと頷く。
「あれ、星花か?」
星花ちゃんがビクンッと体を跳ねさせて、私の手を強く握りしめてきた。
「お前、いつ帰ってきたんだ。秋人」
学園長が眉間に皺を寄せて低い声で問う。
秋人と呼ばれる無精髭を生やし前髪をセンター分けにした40代くらいと思われるラフな格好をした男性が笑う。
「今日の昼ですよ、お父さん。それより随分美人になったな、星花」
星花ちゃんは震えていたと思ったら立ち上がる。私は星花ちゃんの氷のような眼差しに恐怖を覚えた。
「星花ちゃん、待って」
私の制止は間に合わず、星花ちゃんはタンタンッと足音を大きく立てて秋人と呼ばれる、恐らく星花ちゃんのお父さんの前に立つ。
「大きくなったな、せ……」
言い終える前に星花ちゃんは思い切り秋人さんの頬を平手打ちした。
「今更父親面して話しかけないで!!!」
星花ちゃんはぽかんとする秋人さん、祖父母を無視して鞄を持って
「部屋に行きましょう、優里」
私は腕を引っ張られて慌てて自分の鞄を持ってその場を星花ちゃんと一緒に去る。
階段を駆け上がり、星花と書かれたプレートが下げられた部屋に入ると星花ちゃんはガチャンッ! と強く鍵をかけた。
「星花ちゃん」
星花ちゃんは勉強机やソファー、テーブル、ベッドなどが配置されている方へ行き、床に鞄を下ろす。下を俯いて何を思っているのか全然読めなかった。
私も床に鞄を下ろして星花ちゃんの肩に触れると星花ちゃんに強く抱きしめられ、勢いが良すぎてその場で倒れ込む。頭の下には下にはちょうど柔らかいビーズクッションがあってたんこぶは出来なかった、と焦る。
「星花ちゃん?」
「優里……私、なんでこんなんなのかなぁ」
私の上に跨って、星花ちゃんは大粒の涙を大量に流し始めた。
私は、どう言えばいいのか分からず困惑する。私はどうしたらいい?
「星花ちゃんは頑張ったよ、学園長達言ってたじゃん。星花ちゃんの味方だって……お父さんとは、えっと」
多分、お互い冷静になって話し合った方が良いんだろうけど……星花ちゃんの10年の孤独や怒り、悲しみをあの人は解っていない。
「お父さんと、どうしたい?」
「あの人の話はしないで」
「でも、逃げるのは止めるんだよね」
「黙って!」
!?
突然、星花ちゃんが触れるとかそういうレベルなんかじゃないキスをしてきた。両手をそれぞれ強く指を絡められ唇を押しつけられ口内に舌が入って来る。
逃げようと舌を動かすと余計に星花ちゃんの舌にぶつかって、その度に脚がビクビクと痙攣のようなものを起こす。
「んっ!」
息ができなくて、思考がまとまらない。体の力が抜けて抵抗が出来なくなる。
自然と涙が溢れてしまい、それを見て星花ちゃんは我に返ったのか慌てて私と距離を取った。
「ごっごめんなさい! 優里……ごめんなさい」
「星花ちゃんは無理矢理して気分が良くなる?」私が涙を拭いながら聞くと星花ちゃんは必死に首を横に振る。
「もうこんなことしちゃダメだからね」私は星花ちゃんの両頬を軽くつねって言う。
「うん」星花ちゃんが反省しているのが解ったので私はふぅ……と息を吐きながら星花ちゃんの柔らかい頬を解放する。
……キスって恐ろしいっ!
もう2度としない、次したら多分……私は窒息死が緊張による心肺停止を起こす。
「優里って……意外とエロい顔するのね」あんたがそんな緩んだ顔で言うか!!
「え゛っ!? 星花ちゃんに言われたく有りません!!」
暫くお互いに口を閉ざしていると星花ちゃんが切り出す。
「私、お父さんのところに行ってくる。優里、ついてきて」
私は頷いて立ち上がって星花ちゃんの部屋を一緒に出た。
2階に星花ちゃんの部屋があり、秋人さんの部屋は今はなく月子さんの話では3階の客室を使っているらしい。
「……お父さん、さっきは怒りに身を任せてごめんなさい。少し時間貰えるかしら」
3回、扉をノックしてから星花ちゃんは扉が開くとハッキリと言った。
「星花ちゃん、私邪魔になるからやっぱり」
「良いよ、2人共入りなさい。僕も話したいこと沢山あるんだ」
秋人さんはそう言って私達を部屋に招いてくれた。
部屋の中にはシングルベッドと近くには旅行用の黒いキャリーケースが置かれていて。3人がけソファーに合わせて置かれたテーブル、パソコン作業をしていたのかノートパソコンが開かれて資料が乱雑に置かれていた。
「ごめんね、仕事してて……ああ時間は大丈夫だから」
秋人さんはそう言って資料をまとめてノートファイルに挟めて、ベッドの近くのデスクテーブルにノートパソコンと一緒に置いて
「2人共、ソファー使って。僕はこっちに座るから」
デスクテーブルとセットになっている椅子を対面になるように持ってきて座る。
「……お父さんは何で私を置いて海外に行ったの」星花ちゃんは生気の薄いか細い声で聞く。
「あの頃は正直、仕事してお金稼いで生活に困らなければそれで良いって思ってた。
だけど違った。家に帰れば母さんは怒鳴るし星花は隠れて泣いていた。家庭を守っているつもりが家庭を壊してたんだ」
秋人さんは困った顔で笑って溜め息をつく。
「僕は父親失格だった。だから星花を父さん達に託したんだ。僕は君を傷つけることしか出来ないから」
星花ちゃんはそれを聞いて、なんとも言えない苦しそうな表情を浮かべて
「私が泣いていたの知っていたの」
「僕が帰ってくると必ず泣いていただろ」
「あれはあの後お母さんにいつも殴られて暴言を吐かれるからよ!」
星花ちゃんの悲痛な叫びに秋人さんから自虐のように浮かべていた笑みが消える。
「え……星花が暴力を」
「……本当に、何も見てくれてなかったのね。お母さんいつも私にこう言ってた
お父さんと同じ顔が気に入らない、見ているだけで吐き気がするって……
だから私は自分が嫌いになってお祖父ちゃんの家にある人形のように過ごそうって
もう傷つきたくなかっ……」
秋人さんは星花ちゃんを抱き寄せた。星花ちゃんは絞り出していた声が嗚咽に変わって秋人さんを抱きしめている。
今は私がいるべきじゃない。今は、10年間の空白を少しずつ埋めていく親子の時間だ。
私はそっと部屋を出ていく。
すると、目の前には月子さんと学園長が立っていて吃驚して声が漏れそうになる。
スッと人差し指をリビングの方へ向けて苦笑いすると2人は頷いて3人でリビングに移動して私の知る限りの事を2人に話す。
2人ははぁぁぁぁぁっと深く溜め息を吐いて
「やっと2人は親子として接することが出来たのか……ありがとう優里」
学園長にそう言われて私は焦る。
「私はなにも、ただ星花ちゃんが頑張ってるだけです」
私は入れ直してもらったお茶を飲んで落ち着く。
「優里ちゃんも晩ご飯食べてく〜?」
キッチンに立っている月子さんが聞いてくる。
「い、いえ大丈夫です! せっかくだからご家族の皆さんで食べてください」
私の心臓がそろそろ持たないから……ドキドキ超えてバクンバクン言ってる。
「私、そろそろ帰ります。星花ちゃんの部屋から鞄持ってこないと」
私はお茶をぐびっと一気飲みして星花ちゃんの部屋へ向かう。すると星花ちゃんと秋人さんが一緒に降りてきた。
こうやって並んでいるのを見ると確かに顔が似ていた。特に穏やかな表情を浮かべる時の透き通った海のような、晴天のような色の瞳が同じだった。
「あ、星花ちゃん。私そろそろ帰るね」
「え」星花ちゃんは声を漏らす。
「じゃあ、僕の車で家まで送って行くよ。星花、優里ちゃんの家の場所知ってるだろ? ナビをしてくれ」
「あ、はい……じゃなくて、わかった」
まだ2人の関係はぎこちない感じだが、さっきの凍えた空気は一切感じなかった。秋人さんはガレージから車を回してくると行って裏口の方へ行った。
「いつでもまた遊びに来てね、優里ちゃん」
玄関でローファーに履き替えていると学園長と月子さんが見送ってくれた。
「星花ちゃん、よかったね」
外に行くと、薄暗くなっていて紫色の綺麗なグラデーションの空に月が出始めていた。
「優里のお陰、大好き」
!?
満面の笑みを浮かべる星花ちゃんにドキリとして、見惚れてしまう。
いやいや待て待て待てっ!! 落ち着けって!
「ちょっ……ここでそんなこと言うのはちょっとダメな気がする」
誰かに聞かれていないか周りを確認して言うと
「聞かれても私は困らないわ、事実だもの」
この子、悩みの種が取り除かれた途端に超強キャラになるじゃん!?
「お待たせ〜、2人とも乗って乗って」
秋人さんは白い軽車でやってきて窓から顔を出して乗るように促す。
私は後部座席に座ると星花ちゃんはきょろきょろして
「星花は助手席でナビしてくれ」
「はい」星花ちゃんはそう言いながら少し戸惑った顔をして助手席に座った。
星花ちゃんの家から出てから色んな話をした。
「秋人さんは海外で教師の仕事してるんですか」
「うん、学校に通うのが大変な子達を集めて定期的に勉強を見てるんだ。
他にも色んな国から教師職の人が集まってそう言う仕事してるんだ、たまにこうやって日本に帰ってくるけど大体は向こうで過ごすかな。
2人は夢とかあるのかい?」
将来の夢……私、何にも考えていなかった。
「私は教師だったけど、もう少し考えてみる」
星花ちゃんは真面目に答えているのに私にはなにもない。
「……私は1日1日生きるので精一杯です、引きこもりだったんで」
恥ずかしいな、私だけなんか惨めだ。
「まぁ事情は人ぞれぞれだけど疲れたら休んで良いんだよ。僕もそういう時期あったし」
秋人さんがルームミラー越しに私をチラッと見て言った。
それから20分程、雑談をして私は自分の家まで秋人さん達に送り届けて貰った。
2人の乗っている車が去っていくのを見てから家に入ろうとして空を見上げた。
「……星の数ほどの可能性」
私はそう呟いて、あの親子が穏やかな関係を築けるように願い家に帰った。




