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第3話 一緒に

 私が落ち着いて泣き止んだのは電車から降りて30分程、ベンチに移動して休んでからだ。

「落ち着いた?」

ベンチの隣にある自販機でペットボトルのお茶を買い、私に差し出してくれる星花ちゃん。

白いブラウスにVネックの黒いニットを着てダークブラウンのチェック柄のスカート姿の星花ちゃんは制服できっちりしている時よりも幼くなのか、年相応に見えた。

「ありがとう」

私は受け取ってそれで目元を冷やす。星花ちゃんは少し考えるような仕草をしてから私の隣に座る。

「別に、貴女をストーカーしてた訳じゃないの」

星花ちゃんはいい訳じゃないからと、前置きをして話し出した。

「市立図書館で勉強をした帰り、電車に乗ると優里が乗っているのを見かけて最初は様子を見ていたの」

星花ちゃんは膝の上に乗せたトートバッグからペットボトルの飲み物を取り出して飲む。

「昨日の今日で馴れ馴れしく話す勇気なんて私には無かったからすぐ距離を取ろうと思ったんだけど……

貴女の様子が可笑しいし貴女に話しかけている人もおかしかったから勝手に付き添いを装って話しかけたの」

星花ちゃんは座ったのにすぐ立ち上がった。

「私がいても落ち着かないでしょう」

星花ちゃんは立ち上がって去ろうとしたが私の身体は勝手に星花ちゃんが去ろうとするのを拒んだ。

「行かないで」

星花ちゃんの手を掴んで私は懇願した。

「星花ちゃんにちゃんと事情を話さないといけない気がして」

指先が冷え切って上手く彼女の手を掴めていない。ほぼ触れているだけで簡単に振り解ける筈なのに星花ちゃんは振り解こうとはしなかった。

「話すって、何?」

ただ、私の方には顔を向けず、言葉だけが返ってくる。

言わなきゃ、薔薇には話せたんだから……星花ちゃんにも

「私、前の学校で人間関係失敗して虐められてたの」

そう言うと星花ちゃんは振り返って私を見た。私は続けて言う。

「人との距離の取り方失敗して、さっきの立花さんや他の数人の友達だった人達から気持ち悪い、変態って、やらしい目で見てるって散々罵倒されてメッセージも拒否されたし学校では物をよく失くしてた。その度に陰で笑われて私……学校に行けなくなって転校したの。やり直すために」

星花ちゃんはぎゅっと私の手を握り返す。

「大丈夫よ、続けて」

ガタガタと震え出す身体を星花ちゃんが肩を寄せてそっと抱きしめてくれる。

「……だから私、今度は失敗しないように友達でもなるべく程よい距離を保って傷付かない交流関係を築こうって

星花ちゃん、私は人と関わって傷付くのが怖い臆病者なの」

「……話してくれてありがとう。人と関わって傷つくのが怖いの分かる。辛かったね」

星花ちゃん、何でこんなに優しく何でも受け入れてくれるの……ただの弱虫で臆病者の私がどうして

「どうして私の事が好きなの」

私は力の抜け切った身体を星花ちゃんに預けて聞く。こんな醜態を晒してしまったんだ……

「何度だって言うわ、貴女に恋してしまったの」

わしゃっと撫でられる頭、星花ちゃんの柔らかい胸が頬に当たる。

「……緊張してるの?」

胸の奥の鼓動が、とても速い。

「緊張するわ、言ったじゃない。貴女が私らしくいてみてって……仮面をつけるのも止めるよう頑張ってる。

でも癖って中々抜けないものなのね、お祖父ちゃんの前でずっとイエスマンになっちゃう」

星花ちゃんは、私が言ったことをもう実行しているんだ。

「……暫く、登下校を一緒にしない?」

「え」

夕暮れの風が私達の髪の毛を靡かせる。キラキラ光ってピアノ線みたいだ。

「私は貴女が傷を背負ったまま、また学校へ行くという行為が出来なくなるんじゃないかって怖いのよ」

「傷」

私は自分の胸を摩って、過去のトラウマを入れた箱の鍵を再び鎖付きで頑丈に閉めようとしていたのを止める。

「傷は時間が経てば癒えるって言うけど、薬がないと癒えないじゃない。

私や篁さんがいる間なら辛いことを思い出すことないんじゃないかしら……私も篁さんと交流してみたい」

星花ちゃんが、薔薇と……意外な組み合わせだけど星花ちゃんの悩みにもスマートに、私よりも的確なアドバイスが出来るかもしれない。

ズキッ

「ん?」完全に落ち着いたと思ったのに胸の奥に刺さるような痛みを感じた。

「どうしたの?」星花ちゃんは私を見て心配の眼差しを向ける。

「う、ん……多分何でもない」

胸を摩る私に星花ちゃんは

「今日はきっと疲れたのよ、家まで送るわ」

「え、いや申し訳ないです!」

咄嗟に驚いて私は敬語になってしまう。

「私はね」

星花ちゃんは突然繋いでいた手の指を絡めて、俗に言う恋人繋ぎになった。

「貴女が好きだと伝えたわ、この気持ちは誰にも変えられない。貴女が臆病者? 私もよ。だから、一緒に乗り越えたい」

「……は、はぃ」

私は強い光を灯したその眼差しに抗えなかった。

「それで、実はお願いがあって……言うか悩んでたんだけど今日は疲れただろうから月曜日に伝えるわ。帰りましょう」

星花ちゃんは手を解いて立ち上がる。

「そう、だね……」

何でだろう、今何で()()()()と感じたんだろう。

私は本当にそのまま星花ちゃんが家まで送り届けてくれて、星花ちゃんは祖父母が出かけているから途中で拾って貰うから大丈夫と言って

「これ、私の連絡先のID……不安になったりしたら連絡して……だから、えっと」

星花ちゃんは言葉を詰まらせる。私は何が言いたいのか察して

「ありがとう、すぐに登録するね。

星花ちゃんも何かあったらすぐ連絡して、私なんかで力になれるか分からないけど」

「優里のそういう優しいところ、本当に心を暖かくしてくれる。

ありがとう、月曜日に駅でね。時間は後で決めましょう」


そう言って星花ちゃんは走って星空の下を駆け抜けていった。


「足、速いなぁ」


 私はその姿を見送ってから家に入り、玄関で座り込んでしまった。

色々あり過ぎて疲れたのか脚が小刻みに震え出して身体を立たせることが出来ない。


「怖かったよぉ」

薔薇が選んだ服と星花ちゃんがくれた連絡先が書かれた紙を握りしめる。


「あら、どーしたの。死にかけみたいな顔して」

お風呂上がりのバスタオル1枚だけを身体に纏った姉さんが私の隣にしゃがんで話しかける。

「……優里、何があった。話しなさい」

私の様子を見て姉さんは真剣な瞳で私に話しかけてきた。

「……立花さん、いた……電車で隣に座ってきて話しかけてきて」

震えて話す私、姉さんは少し沈黙した後に抱きしめてきた。

「もういいよ、よく話せたね。前のあんただったら話すことさえ出来なかった」

ポンポンと背中を叩かれて姉さんは立ち上がった。

「お風呂あったかいから入っちゃいなさ〜い」

姉さんは私から話を聞くだけで何も言う訳じゃない。昔からそういう人だ。

「……ありがとう」

不思議と身体に震えが止まった私は靴を脱いで、自室に一旦戻ってから買った服をクローゼットにしまい握り締めてくしゃくしゃになってしまった星花ちゃんの連絡先IDを先にスマホに登録してから下着と部屋着を持ってお風呂に行った。

「……はぁー」

髪と身体を洗い終えて、桜の香りがする入浴剤が入ったお風呂に浸かる。

咄嗟に出たため息は今日の後悔か安堵か……分からないけど、また涙がポタポタとこぼれ落ちる。

「なんで優しくしてくれるんだろ」

たった1日、2日しか関わっていないのに優しくしてくてる2人に対して少なからず好意を抱いているような気がする。

でもこれは恋愛感情じゃない、友愛だ。

「私、何でこんなに拒絶してんの」

浴槽の中で踞る私はそう呟きながら、あー……と呟く。

「ゆーちゃん、ご飯の時間よ」

お風呂の扉越しに母さんが呼んでいる。

「今出る」

私はそう答えて、母さん達と夕飯を食べて少し早めに自室に戻った。

「着信入ってた」

ベッドにある置き型充電器の上にスマホを置きっぱなしにしていたのを思い出して画面を見ると【篁薔薇:メッセージ1件】、【青井星花:着信1件、メッセージ1件】と表示されていた。

薔薇からは今日の外出の感謝のメッセージが来ており、返信した。

星花ちゃんからは通知を見たら折り返して欲しいというメッセージが来ていた。

私はスマホを持って勉強机の方に向かい椅子に座ってスマホを勉強机の上に置いて、星花ちゃんに電話をかけようとして固まる。


どうしよう、友達に電話をかけた時の第一声って何!?

へ、へい! 元気〜?

バカじゃん! 絶対違う。えっと……えっと〜っ!!!!

先程お電話頂いた藍川です。は何か他人行儀だし……

なんて考えていると着信が入り、身体がびっくりして椅子から落ちそうになる。

「せ、星花ちゃん」

黒猫のアイコンにしてるんだ、可愛い……着信画面を見てクスッと笑いながら応答をタップする。

『もしもし? 今大丈夫かしら』

スピーカーをONにして私は通話する。

「う、うん。ごめんね、通知に気がつかなくて」

『いいえ、大丈夫。メッセージに既読ついたけど中々着信が来ないから悩んでるんじゃないかって思って電話をかけたの』

何でバレてるの!?

「星花ちゃん、凄いな……本当その通りです」

私は思わず、笑みが漏れながら星花ちゃんに返事すると星花ちゃんの小さな笑い声が聞こえてくる。

最初は学校の事や勉強の事等の雑談をしていた。私が不登校になり始めてから家で独学で勉強して今の学校の授業に追いついている話をすると

『私で良ければ勉強見るわよ。ちょうどタイミングも良かったし』

「タイミング?」

『私、もう誰かの都合に合わせて頷く人形を止めようって決めたの……ただお祖父ちゃん達にそれを伝えるのが怖くて優里、傍にいて欲しいの』

う゛ぇ!?

私は心の中で叫ぶ。

つまり、それは私が星花ちゃんのお家にお邪魔して良いということになりますが、それは大丈夫なのでしょうか。

『月曜日……父が一時帰国するらしいの、家に来ると思う……怖いの、あの人に会うのが』

星花ちゃんの声は急に震えて、ほんの少し低くなった。それは怒りからなのか恐怖なのか分からないが……星花ちゃんからいつも以上に人間味を感じた。

「星花ちゃん」

『あの人の冷たい眼差しを思い出すだけで吐きそうになるっ』

「星花ちゃん!」

暴走気味の星花ちゃんの名前を少し強めの口調で呼ぶ。

「空、見ようよ。部屋から見える?」

『え、ええ』

私は立ち上がって電気を消してカーテンを開ける。

「今日は星がよく見えるね。綺麗だよ」

『え、ええ……星も満月もよく見えるわ』

星花ちゃんの声が段々、落ち着いてくる。

「月が綺麗だね」

大きくて輝く丸い月を見て呟く。

『えぇぇぇっ!!!!』

私が何気無く言った言葉に星花ちゃんはいきなり叫んだので私はびっくりして声をかける。

「どうしたの!?」

『へ? あ、いえ……勘違いしただけ』

どういうことだろう、等と思ったが考えても答えは出そうになかったので話を続ける。

「私、姉が3人いるんだ、これは今も実家暮らししてる2番目の姉が私が落ち込んでいた時に教えてくれた事で」


星の数ほど出会いがあって、星の数ほど可能性がある


『星の数ほどの可能性』

「はい、それで月のようにたった1つだけ代わりのいない存在がいつか現れるって……なんか気晴らしになればって思ったんだけど」

『素敵な考え方だわ、少し月曜日が怖かったのが和らいだかも……私にとって処刑じゃなくて試練なのかも』

「私がいて邪魔になったりしない? 家族で過ごすのは久々だよね」

『気にしないで、私が覚悟を示すために傍にいて欲しいだけで、どちらかというと勉強会の方が主体みたいなものだから』

「うん、わかった」

そう言うと星花ちゃんは安心してくれたのか、雑談していると途中で星花ちゃんの声が眠たそうになっているような気がして壁にかかっている時計を見ると9時を過ぎていた。1時間くらい通話をしていたようで、私から電話を止めようと提案したが既に星花ちゃんは寝落ちしてしまっているようで私は おやすみなさい と伝えてから通話を終了して就寝スタンプを送っておいた。


「私も寝よう」

スマホを充電器にセットしてベッドで横になる。

今日は本当に色んな事があった。薔薇との買い物、立花さんとの再会……星花ちゃんと思った以上に早く元通りという訳ではないけれど距離を縮めて昨日のように普通に話せるようになったこと。


……立花さん、何で私に話しかけてきたんだろう。

あんなに学校では強い拒絶をして、話すどころか廊下ですれ違うだけでも邪険にしてきた。

謝りたくても避けられるからメッセージを送ったり電話をかけても拒否されていて……私は何も出来ないまま気持ち悪い女扱いされて酷い虐めを受けて外にすら出られなくなったというのに。


「嫌な感情」

私はそう吐き捨てて布団の中に潜って瞼を強く閉じた。




 月曜日

「時間は待ってはくれない」

私はアラームを止めて、のそのそと起き上がる。寝ぼけた頭のまま今日の準備をして、朝ごはんを食べて家を出る。

歩いているとスマホから通知音がなり、見ると星花ちゃんからだった。

もう駅に着いているという内容のメッセージで私は暫く一緒に登校する約束だったんだと思い出して慌てて走り出す。

駅につくと時計台の下で星花ちゃんは朝早いのが強いのかピシッと背筋を伸ばして立っていた。

「星花ちゃん」名前を呼ぶと星花ちゃんがぱぁっ! と明るい表情に変わる。

さっきまで緊張しているのかよく分からないけど怖い顔をしていたのに。

「おはよう、優里。今日もいい天気ね」

楽しそうに話す星花ちゃんを見て、私の考えすぎか……と思いつつ頭の中から星花ちゃんの鋭い何かを嫌悪している眼差しが忘れられなかった。

一緒に電車に乗り、学校へ行く。

「やぁ、おはよう。優里、青井」

学校の生徒玄関で靴を履き替えていると薔薇が登校してくる。薔薇は星花ちゃんを今、生徒会長ではなく青井と名前で呼んだ。

「おはよう、薔薇。土曜日はありがとう」

「何、礼を言い合うような仲じゃないだろう、友達として当然さ」

薔薇はスキンシップが多い事に気がついた、彼女は私の頭を軽く撫でてから靴を履き替えている。

「……おはよう、篁さん。話しかけられると思わなかった」

星花ちゃんは少し戸惑いながら、でも強張った冷たい顔ではなく私に話しかけてくれる時と同じ優しい瞳をしている。

「意外だったのは私の方さ、人間嫌いだと思っていたからね。改めて同級生の篁薔薇だ。君も友達になってくれないか?」

スッと手を差し伸べて薔薇は星花ちゃんに提案をしていた。

流石、コミュ力カンスト女!! 私は心の中で勝手に彼女をそう呼んで星花ちゃんの方を見ると星花ちゃんの瞳が揺らいでいた。

「私がなっていいの? 篁さん」

「無論さ、此方から望んでいるんだからね」

そう言う薔薇に星花ちゃんは手を差し出して薔薇の手を握った。

「じゃあ今日から友人だ。よろしく、星花。私の事も薔薇と呼んでくれ」

「ありがとう、薔薇」

「ああ」

良かった、と喜んでいると2人が私を見てきた。

「な、なんでしょう」と聞くと

「君は分かりやすい顔をしているなと思ってね。教室に行こう」

「そうね、優里は表情から何を考えているのかなんとなく察せるわ」

ふ、2人共仲良くなるのが早すぎる気がするんだけど!?

私はいろんな意味で置いていかれないように2人と並んで歩く。

雑談をしながら歩いていると、あっという間に教室の前に着く。

着いた途端、星花ちゃんがスマホを持って足を止めた。

「……ごめんなさい、少し離れるわ」

星花ちゃんは突然そう言って駆け足で教室を離れてしまった。

「ど、どうしたんだろ」

私はおろおろしながら薔薇に聞くと

「……ここは彼女の判断に任せよう。後押しし過ぎても余計なお世話になってしまう」

そう言って薔薇は先に教室に入った。

私は少し戸惑いつつ、追いかけようとしたが薔薇に手を掴まれてそのまま教室の中に入る。

自分の席に座って、鞄から教科書やノートを取り出して机にしまう。

教室、入るの怖かったんじゃないかな……私は星花ちゃんに[大丈夫? 今どこにいるの?]とメッセージを送るとすぐに既読が付き[屋上、助けて]と返信が来る。

ガタンッと立ち上がると椅子が激しく音を鳴らす。

「どうしたんだ、優里」驚いて振り返る薔薇が私を見上げる。

「ごめんね! ちょっと用事!」私は慌てて教室を出て行き、屋上に向かった。



屋上の扉の前に息も絶え絶えの状態で辿り着き。ドアノブを掴んで何度も呼吸を繰り返す。

元引きこもりのナメクジ陰キャの全力疾走させるには距離が長かった。

私はそう思いながら扉を開けるとブワッ! と爽やかな風と共に外の匂いが鼻腔に広がった。

風で目を細めたが、視界には静かに涙を流す星花ちゃんが写っていた。

「……星花ちゃん」

私はよろよろと駆け寄ると星花ちゃんは我慢していたのか、顔をくしゃっと歪めて私に抱きついてきた。

「うっ……優里っ!」

力強く抱きしめてくる星花ちゃんに吃驚する。

「星花ちゃん!? どうしたんですか」

星花ちゃんから返事はない。暫く抱きついたままの星花ちゃんの背中を私はそっとさすって抱きしめ返す。

教室に入るのが怖いのかと思っていたけど、それだけじゃないみたい。

「星花ちゃん、何があったの」

「優里、助けて」

星花ちゃんは今までにないくらい震えていた。

「私に出来る事ならなんでもするよ、一旦落ち着こう」

「キスして」

えっ……!?

身体がビクッと反応する。

涙で濡れた瞳、赤く染まった頬……全てが儚げで美しさが増している星花ちゃん。私はどうしたらいいのか分からず困惑する。

ゆっくりと瞼を閉じる星花ちゃん。つうっと目尻から涙の粒が溢れるのを見つめる。

良いのだろうか、私は今ここでキスをしてしまって

星花ちゃんを恋愛対象として見ていない、と思う私が簡単に唇を重ねるのは星花ちゃんを傷つけることに繋がるのではないだろうか?

私は息を止めて星花ちゃんの赤く染まった目尻に軽く、ちょっと唇を当てる。

「星花ちゃん、私はまだ星花ちゃんを恋愛対象として見れてない。

だからココには出来ないよ。星花ちゃんを傷つけることになる」

私は星花ちゃんの唇に触れて首を横に振りながら星花ちゃんの願いに対して答えを提示する。

「……私が良いって言ってるのに?」

「駄目」私がそう言うと星花ちゃんは少し寂しそうな顔をしてから「貴女らしい」と笑って離れる。

「……父親から連絡が来ていたの。どうやって私の連絡先を知ったのか分からないけれど」

星花ちゃんはスマホの画面を見せてくれた。

そこには[今日、日本についてこれから家に行くよ。沢山土産話があるんだ、一緒に夜出掛けないか?]と、事情を知らなければただの出張や単身赴任している父親からのフランクなメッセージだ。だけど……

「10年よ、10年何の連絡も手紙も出してくれなかった人からこんな身勝手な連絡が一方的に来てっ!!」

星花ちゃんはスマホを今にも投げ飛ばしてしまうんじゃないかというくらい、怒りを露わにしていた。

「でも、星花ちゃんは逃げないで区切りをつけるって決めたんだよね」

私はスマホを強く握りしめている星花ちゃんの手を優しく取り、両手で握りしめる。

「私なんかが役に立つか分からないけど、ちゃんと隣に居るよ。」

「優里」

「大丈夫、大丈夫だよ」

私達は再び抱きしめ合ってお互いに大丈夫と言い合った。

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