第1話 転校初日
憂鬱な月曜日がやってきた。
「優里、今日から新しい学校でしょ〜?」
自室の扉越しから母さんの催促で重たい身体をベッドから起こす。
「……憂鬱だ」
転校初日に欠席、1週間も風邪で熱が下がらないまま……友達作りの期間を失ってしまった。
今頃、転校生の存在なんて忘れているに決まっている。
あれ、こんな奴いたっけ……みたいな認識されるに決まっているんだぁぁぁぁぁ
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」私はベッドにある布団に抱きついて嘆く。
幼稚園、小学校、中学校と友達を上手く作れなかった私が初めて、初めて友達を作れる可能性をっ!!
「ほら、ゆーちゃん。さっさと着替えなさい」
呆れた母さんが部屋に入ってきて私に新品のブレザー制服を渡してくる。
「はい、すみません」
私は笑顔の中に滲み出ている母さんの怒りに負けてパジャマを脱いで新品特有の匂いがする少し硬い灰色のブレザー制服に身を包み、春にしてはまだ肌寒かったので黒いタイツを箪笥から取り出して履く。
全身鏡の前に立って、ブラシで寝癖のついた青みを帯びたセミロングの銀髪を整える。
死んだ魚の目をした女子校生っぽい何かが私の部屋の中にいる……。
「私か」
まだ寝ぼけているのか、そんな事を呟きながら通学鞄の中と今日の授業科目を確認して2階の部屋を出て行く。
1階で洗面台で身支度を済ませてリビングに行くと三女の黎姉さんが半分寝ながらコーヒーを飲んでいた。
長女、次女と既に家を出ているが黎姉さんだけは実家暮らしを貫いている。
私に気づいたのか外していた眼鏡をかけて長い前髪をセンターで分けて両耳にかけて眠そうな細い目で私をゆっくりした動きで見る。
「熱、下がったんだぁ」
こっちまで眠くなるような喋り方をする自称在宅エンジニアの黎姉さんに頷いて母さんが出してくれた朝ごはんを食べる。
「……制服、似合ってる。あんまり力みすぎないようにねぇ」
そう言いながらコーヒーの入ったマグカップを持って腰よりも長い紫がかった黒髪を揺らして黎姉さんは自室に戻って行った。
私も朝ごはんを食べ終えて、食休みがてらニュースを20分程ぼー……と眺めて初めての登校になるので自宅を出て駅に向かう。
茅森駅に向かうには……と電車の時刻モニターを確認していると、後ろからポンッと肩を軽く叩かれた。
「は、はい! 大変申し訳ありません!」私は反射的に振り返って何度も頭を下げる。
「別に謝って欲しかった訳ではないのだけれど……貴女、白河女学園に行きたいんでしょ?」
下げた頭を上げるととんでもない美人がそこには立っていた。私より10cm程 背が高いから160cm前後だろうか。
艶やかなまるで濡れた鴉の羽のような腰まで伸びた黒髪、高校生とは思えない大人びた晴天のような淡い水色の瞳に健康的な肌と身体付き……自分の子供体型と違って出ているところはちゃんとある……羨ましいっ! 勝ち組だっ!!
「あの、私の話聞いてる?」
「す、すみません! 綺麗な人に話しかけられてなくて……」
「あははっ、面白いこと言う子ね、同じ高校生でしょ。私は白河女学園2年1組、青井 星花。」
「は、はひ……同じクラスの藍川 優里です。あの風邪で転校が遅れて」
私はテンパりながら説明する。
「なら一緒に行きましょ、電車来るわよ。優里」
!?
いきなり呼び捨て!! これはもう友達なのでは!?
私は天にも昇りそうになるのを必死に抑えて
「はい、星花ちゃん!」と返事をすると星花ちゃんはピタッ! と足を止めた。
「あの、どうかしたんですか?」何か失礼な事でもしたかな……とおずおず聞いてみる。
「いえ、行きましょ」そう言って星花ちゃんは先に定期IDを改札口にかざして行く。私も後を続く。
ホームへ向かうと既に電車が来ていたようで私たちは足早に電車の中に乗り込む。中は横並びに座るタイプの電車で通勤通学の方々がまばらに座っていた。
出入り口に1番近い席が空いていたので
「星花ちゃん、座ってください。私、立ってますから」
席を勧めると星花ちゃんは私の手をくいっと引いて
「2人で座りましょう」と優しく言ってくれた。神か! 女神だ!!
「ありがとうございます」私は会釈しながら隣に座る。
ガタンガタンと揺れる電車の中で時折。星花ちゃんの肩と私の肩がトンと触れ合う。
「……」なんだ、この沈黙は。怒っているのだろうか。
チラッと星花ちゃんの方を見ると星花ちゃんは私のような猫背ではなく真っ直ぐ背筋を伸ばして向かい側の窓から見える風景を見ているようだった。
「優里は、この電車に乗るのは初めて?」
星花ちゃんは向かい窓から見える風景から視線を変えて、私を見る。
「えっと、前に転入手続きで乗りました……1回だけ」
たしか、あの時は……緊張しすぎて記憶がないんだ。ひたすら緊張して吐かないようにするのが精一杯だった。
これじゃあ話題終了だぁ……。
「そう、優里は覚えていないかもしれないけど私、貴女に助けられた事があったの……ええ、たしかに貴女よ。その星のように澄んだ髪色をよく覚えているもの」
星花ちゃんは中々に恥ずかしい事を言い出した。
「こうして電車で学校から帰っている時、具合が悪くてね……でも座れそうな席はなかったし諦めて壁にもたれかかっていたら貴女が折りたたみ式の優先席を下ろして一緒に座ってくれたの。覚えていないかしら」
……人違いじゃないでしょうか? それ。
ああ、でも確か具合悪そうにしていた子が帰りの電車にいたような?
私はぽかーん、としながら星花ちゃんの話を聞く。
「優里、本当にありがとう」
な、なんて眩しい笑顔っ! このままでは私だと勘違いさせたままなのも申し訳ないし……言うしかないっ!
「あの、それ私でしょうか」
上擦った声でだが、私は必死に言う。
「紺色のセーラー服を着ていて、同じ鞄を持っていたわよ」
確かに私、転入手続きするのに前の学校の制服を着ながら行った。つまり銀髪の制服を着ているのは
「私だ!」と大きな声が出て慌てて両手で口を覆って何度も頭を下げる。
「だからそう言っているじゃない」くすくすと星花ちゃんは笑う。
「でっですが〜あの私、緊張しすぎて記憶が全然ないんです……緊張しすぎて吐き気があったのは覚えているのですが〜」
「ねぇ」
すっ……と星花ちゃんが私の顔を覗き込む。
「な、なんでしょう」前髪をささっと視界を覆うように包む。
「どうして顔を隠すのか気になって」スッ……と暗くなった視界が急に明るくなり、星花ちゃんが微笑む。
「次で学校のある駅よ」
何でこの人は、私のよう暗くてじめじめした人にも優しくできるんだろう……凄い。
今までは誰も話しかけてくれる人なんて……あ、息を殺すどころか気配殺して周りの邪魔をしないように生きてきていたんだ。
「優里」私は名前を呼ばれて脳内会議を中断して慌てて星花ちゃんの後をついて行く。
「星花ちゃん、案内してくれてありがとうございます」私が一歩後ろを歩きながら伝えると星花ちゃんは振り返って
「困っている人を見てしまったら放っておけないでしょう」淡く、慣れていないのか恥ずかしそうに微笑んで言った。
星花ちゃん、本当に優しい……とじ〜んと心に広がっていく優しさを身に染みながら……染みながら……
「帰りたい」
いざ、学校の校舎を目にしたら怖くなりました。なので帰ります。〜完〜
「何をしているの? 行くわよ、優里。職員室は分かる?」
はっ! と脳内で勝手に終わらせていたのを星花ちゃんの声で取り消され、顔を何度か軽く叩いて
「私の戦いはこれから!」
「……何と戦うのよ」私が叩いた頬を撫でて軽く笑う星花ちゃん。
「おはようございます、生徒会長」
凛とした強く芯のある声が後ろからする。星花ちゃんは顔だけを声の方へ向けて
「おはよう、篠宮さん」
星花ちゃんの顔から感情が急になくなった。ような気がした。
人形のように作られた顔で作られた動作で答えているように見えて……淋しく感じる。
星花ちゃん、どうしたの?
篠宮さんと呼ばれた女子生徒は校則をきっちり守った制服に両肩から赤紫を帯びている黒髪が結われて垂れていた。
髪色よりも赤みを帯びた瞳が私の方へ向く。
「生徒会所属 2年3組、篠宮 咲子と申します。貴女のお名前を伺っても」
篠宮さんはキリッとした顔のまま私に聞いてくる。
え、なに!? 私なんでこんな敵意のようなものを向けられているんだ。
「……2年1組、藍川優里……です」
命を、じゃなくて勇気を振り絞って自己紹介する。
「篠宮さん、彼女は転入生なの。職員室へ案内してくるわ」
星花ちゃんが突然、私の手を握って正面の校門を潜っていく。潜ると星花ちゃんは私の手を離して隣を歩く。
潜って生徒玄関に入ると星花ちゃんの様子はずっと感情が希薄で人形のようで違和感があり
「おはようございます、生徒会長」
度々、星花ちゃんに挨拶してくる人は星花ちゃんを【生徒会長】と呼んでいた。
……どうして、星花ちゃんを生徒会長と呼ぶんだろう。
「此処では私は生徒会長であって青井星花という扱いではないの、此処が職員室よ」
私を校舎2階の職員室まで案内してくれると星花ちゃんは じゃあね と言って、いなくなろうとしたのを咄嗟に手を掴んで引き止める。
周りに誰もいないのを確認して、震えながら深呼吸を1回して
「ありがとうございます、星花ちゃん。私にとって星花ちゃんは星花ちゃんで初めての友達なので!」
そう答えると、星花ちゃんの瞳が揺れる。揺れて、私をじっと見た後に
「光栄だわ、またね」
少し長い瞬きをしてくるっと艶やかな黒髪を揺らしながら階段の方へ行ってしまった。
私は去っていく星花ちゃんを見送って、よしっと頷いて職員室に入る。
「では、教室へ向かいましょう」
担任の灰村先生から一通りの説明を受ける。
30代前半になるかならないかくらいの落ち着いたダークブラウンの髪を軽くウェーブさせ肩に流し、淡い色の口紅がよく似合う黒いパンツスーツの女性だった。
説明は簡潔に短く、わかりやすいもので緊張している私に優しく微笑みかけて
「何か困った事があれば遠慮なく相談してください」と言ってくれた。なんて優しい先生なんだ。
過去のトラウマも余りほじり返さないでいてくれたので助かる。
朝のHR前の予鈴がスピーカーから鳴り教室まで一緒に3階の教室へ向かう。
校舎は4階建ての至って普通の校舎……というわけではなく、H型で正面玄関から見て左側が移動教室(例:科学室や音楽室など)、右側が生徒が一般授業を受ける教室になっている。特にこれと言った大きな違いはなく、前にちょっとだけいた女子高も今回も女子高も問題が起きなければ平和に過ごせるだろう。
そう、問題さえ起こさなければ……。
教室に着き、中に入ると思った以上に静かでむしろ冷気すら感じる程緊張が全身にまとわりついた。
星花ちゃんはっ!? 私は30人いるかいないかの空間の中で唯一の友人である星花ちゃんを探す。見つけると彼女と目が合ったような気がしたが彼女はまたあの時の人形のような冷たい表情をしていて
「では藍川さん、自己紹介を」灰村先生に誘導されて自己紹介をする。
「……藍川優里です……よ、よろしくお願いします」
じっとクラスメイトになる人達の刺さるような視線を浴びながら私は学生鞄の肩紐を強く握って頭を下げる。
「では、藍川さんはそちらの席に着席してください」
私は頷いて窓際の1番後ろの席に着く。
はぁぁぁぁぁぁぁ……1番後ろの席、しかも隅っこなんて落ち着……っく!?
席に着くと前には見たこともない金髪の美女が此方を見て微笑んでいた。
「初めまして、私は篁 薔薇。仲良くしていただけると光栄だ、薔薇と呼んでほしい。私も優里と呼んでいいかな」
篁薔薇は、女子高校生にしては完成された美しいスタイルの持ち主であるのが座っていてわかった。長い月の光を吸ったような煌めく長い金髪をシニヨンヘアーと呼ばれる髪型でまとめよく似合う紅いリボンで結ばれていた。
この人も唐突な呼び捨て!? ここはレベルが高い人間の集まりなのかっ!?
「は、はい。よろしくお願いします、そ、薔薇さん」
なんて大人っぽい人なんだろう……星花ちゃんもそうだけどかっこよくて頼りに……
「あの、薔薇さん。せ……いと会長っていつもああいう感じなの?」
小声で星花ちゃんについて聞いてみる。
「嗚呼、麗しの生徒会長か。彼女は常にビスクドールのようでいて何を思い何を考えているのか分からないミステリアスな女性だよ」
ビスクドール、後に凄く美しい球体関節人形だとスマホで調べて知る。
「さて、授業が始まる。もしわからないことがあればなんでも聞いてくれ。優里」
そう言って薔薇さんは前を向いて、私も1限目の授業を確認して教科書とノートを開いて待機する。
授業内容は私が既に習っていた場所でよい復習になった。授業はとてもわかりやすく聞いていて飽きる感じはしなかった。
どちらかというと、休憩時間に色んな生徒から話を聞かれる方が疲れた。それだけじゃない、昼休みの休憩時間まで来たので正直、私の精神が持ちそうになかった。
前の学校って、結構頭いいところだよね/そんなことないよ、堅苦しくて私は気が詰まりそうだった
何で転校してきたの?/ちょっとした、事情でね……etc
「貴女たち、お昼の休憩時間くらい自由にさせてあげたらどうかしら」
書類を抱えた星花ちゃんが私の席の方に儚げな、憂いを帯びた瞳を向けて声をかけてきた。
星花ちゃんのお陰で集まっていた人達は ごめんね と悪気が全くないことは分かっていたので作り笑いで誤魔化して1人になってから一息吐く。
「モテているね、優里」
前の座席でサンドイッチを食べていた薔薇さんが苦笑していた。
「そう、かな……転校生がめずらしいだけだよ。そう言えばせ、生徒会長は?」
私はお礼を言い損ねたと思って周囲を見る。
「さぁ、理事長の手伝いか、生徒会室で雑務をしているかじゃないかな。
彼女は白河理事長の孫娘でね……溺愛されているというかなんとうのか期待されていてよく手伝いをしているんだ。」
理事長の孫娘で1年の後期から生徒会長をやっていて……凄い。私とは
「私たちとは住んでいる世界が違うよな」
薔薇さんの言葉に私は「あ」と言葉が漏れてしまった。
星花ちゃんってやっぱり、そうなのかな。
私が知っている普通の年頃の少女のように笑う星花ちゃんと、学校の中で作り物のような人形のような哀しげな星花ちゃん。
どっちが本当の星花ちゃんなんだろう。
星花ちゃんが教室に戻ってきたのを見つけた私は立ち上がって星花ちゃんの方へ駆け足で向かい話しかける。
「星花ちゃん、今っ時間ありますか?」
「優里……ごめんなさい、仕事があるの」
私の名前をぽそっと呟いた後、キリッとっした表情で私を突き放すように言う。
「じゃあ、放課後は!? おっお願い……お礼が、したいの」
私は咄嗟に星花ちゃんの手を掴んでなるべく声を抑えて、震えつつある喉から声を絞り出す。
「……放課後、資料作業があるの。教室で、手伝ってくれるかしら」
なんで、こんなに人をどきりとさせる瞳をしているんだろう、星花ちゃんは……。
「う、うん」
私は頷いて星花ちゃんの手を離すと「またね」と小さく呟いて教室から出ていく星花ちゃん。私は自分の席に戻る。
「君は生徒会長が好きなのかい?」
「薔薇さん、何読んでるの」
聞かなかったことにして薔薇さんが読んでいる文庫本について聞く。
「おや、私の質問には答えてくれないのかい? 仔猫ちゃん」
「ふぁ!?」
薔薇さんは手慣れた仕草で私の頬に触れ、撫でる。
「耳まで赤くなっているじゃないか。可愛いね」
「そ、薔薇さん」
「薔薇、で構わないよ。優里」
満足そうに私から手を離して薔薇は悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「ちなみに私が読んでいる本は海外の本だ、映画にもなっている。ホラーは好きかな」
ホホホホホホッホラー!?
私は慌てて首をブンブンブンと横に振ると薔薇は楽しそうに笑って
「君は本当に飽きない子だな、優里」
「そ、薔薇が意地悪なんだよ!?」
私が言うと薔薇が驚いて笑みを浮かべる。
「嬉しいよ、優里。私は正直見た目が女子高校生ではないだろう?」
足の爪先からすぅ……と視線を薔薇の顔に上げていくが、確かに言われた通り彼女の見た目は女子高校生には見えない。黒いスーツを纏えば女子大生どころか社会人、いや女社長と言われても納得出来る程大人の外見を持っている。
「だからかな……友達の作り方がイマイチ解らない。
それに大体距離を置かれてしまう。家柄もあるのだろう。
だが、優里は同じ目線で同じ女子高校生として接してくれる。」
薔薇のお家は日本家屋の大きな家で篁財閥という、所謂お金持ちの家らしく白河女学園にも寄付金を入れる程で彼女本人、自分の恵まれた環境には感謝しているが一般家庭というものに憧れているらしい。
「わぁ、検索したらすぐ……ん?」
「どうした。優里」
スマホで検索していると何故か薔薇の名前が出てきた。
私はスマホを机に置いて、薔薇にも見えるようにする。
ポチッとその名前を押して検索結果を見ると沢山の薔薇の写真が出てきた。
大人っぽい衣装から地雷系? と呼ばれる可愛らしい化粧と衣装を着こなした薔薇が沢山出てくる。
「ああ、それはモデルをやっているんだ。」
「え、働いてるの?」
「ああ、私は親の稼いでいるお金ではなく自身で稼いだお金で自分を甘やかしたいのだ。成績が上位で有ればアルバイトの許可は出るからね」
かっ、かっけぇ〜。
私なんてバイトしたら接客業なんて【お客様を不快にした】とか【接客が通夜のようだ】とかクレームの嵐で即、クビ確定になるだろうなぁ。
「薔薇ってかっこいいね」
私が自然と笑みが溢れて言うと、薔薇の大きな瞳が揺れて年相応とは思えない微笑みを浮かべる。
「おや、私は今誘われているのかな」
「せっかく褒めたのに……」
わかったことがある。薔薇は結構? いや、かなり人を揶揄うのが好きなようだ。
「優里が可愛いんだ」
薔薇が私の頭を撫でる。名前に相応しいバラの甘い香りがふわりとこちらに漂ってくる。
薔薇、話してみたら全然、怖くないし大人っぽい見た目や堂々とした口調なだけであって年相応の女の子なのかも?
薔薇と雑談していると緊張していた1日はあっという間に経ってしまい放課後になった。
「藍川さん、放課後暇?」
クラスメイトに話しかけられて私は驚く。
「あ、えと、あの」私が吃っていると星花ちゃんが来て
「ごめんなさい、彼女はこの後私が先約を取っているの」と一言言うと納得してクラスメイト達は帰って行った。
「優里、帰る前に連絡先を交換しておかないか? 時間は取らせぬ」
そう言って薔薇はSNSのQRコードをスマホの画面に表示させてスッと私に見せてきた。
「う、うん。嬉しい。ありがと! 薔薇!」
私はQRコードを読み込んで友達追加する。
「では、また明日。ああ、生徒会長、私の席を使ってくれて構わないよ」そう言って薔薇は颯爽と教室を出ていく。後ろ姿すら麗しい、170cmくらいあるのかな。
「星花ちゃん、お待たせ」
私はスマホをスカートのポケットをしまって星花ちゃんの方を見る。
「星花ちゃん?」
誰も居なくなった教室の換気をするのか、星花ちゃんは窓を少し開けて
「いえ、なんでもないわ。書類の数を合っているか二重確認をお願いするわ」
星花ちゃんは薔薇の椅子に座って私の机に書類を置く。
「え、それだけで良いの?」
数は10いくかいかないかくらいの薄い冊子になった書類を数えて欲しいという内容だった。
「校舎案内は事前にされているのでしょう? あとは……息抜きをしたかったの」
誰も居なくなった教室で星花ちゃんは「ふぅ……」とため息を吐いて
「今日、1日学校にいて私を見てどう思った?」唐突な星花ちゃんの質問に私は自然と目を伏せてしまった。
「優里?」
「星花ちゃん、どうしてあんな……哀しそうな顔をしていたの?」
「哀しそう?」星花ちゃんの顔が驚いて瞳が揺らいだのを私は見逃すことなんて出来なかった。
「だって、電車の時と違って人形みたいに感情を抑えているみたいでなんだか寂しそうに……」
星花ちゃんは、つぅ……と一筋の涙を流した。
「うぇっ!? なっ!」私は立ち上がって星花ちゃんの近くに行きポケットに入れていたハンカチを取り出して星花ちゃんの溢れる涙を震える手で拭う。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ……あのなんかイキって変な事言ってごめんなさい」
「違うの……嬉しいの」星花ちゃんは朝と同じような優しい笑みを浮かべて
「嬉しい?」私は ? と頭に浮かべて固まる。
「私をちゃんと見てくれる人がいるんだって……知れて嬉しいの」
星花ちゃんはスッと立ち上がって、私の手を握って立ち上がらせ優しく抱きしめてきた。
ふぉっ!? なんじゃこりゃっ!!
温かくて柔らかい、それに薔薇と違う……甘いけどスッキリしたようなふんわりとした優しい香りが漂ってくる。
なんだろう……どうやって対処したら良いのか解らない。でも、辛いなら苦しいならその痛みを分けてほしいと思うことくらい出来る。
グスグス泣いている星花ちゃんを抱きしめ返して背中を摩る。
「星花ちゃん、大丈夫。私なんかで良ければっ……え……」
星花ちゃんの潤んだ瞳と、涙で濡れた睫毛、赤く染められた頬……こんな事言うと失礼だけどとても綺麗で思わず見惚れてしまった。
「星花ちゃっ」
!?
突然、何の前触れも無くキスをされた。
少し湿った星花ちゃんの唇が私の唇と重なりあって互いの熱が混じり合う。腰が抜けて膝から崩れ落ちると星花ちゃんは私の事を支えてくれる。
息が辛くなり始めた途端、ゆっくりと唇が離れて熱い息が交差する。
「ご、ごめんなさい」
膝から崩れ落ち、床に座り込む私を見て星花ちゃんは慌てて距離を取る。
「……せ、星花ちゃん?」
星花ちゃんを見上げると耳まで真っ赤にしてさっきとは違う潤んで色っぽい艶やかな瞳で私を見ていた。
藍川優里、16歳……初めて出来た友達が出来た日に、その友達にキスされました。




