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【軌跡】蝋燭の火を吹き消して

こんにちは、海月凪砂です。

この度は本作をご覧いただき、誠にありがとうございます。

拙い文章ではありますが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。


今作ははぐれものたちが集う家の住人のひとり、愛羽。

他人との関わりを好まないキューピッドの昔話です。


どうぞ最後までお付き合いください。

天界も人間界と似たり寄ったりだ。

 死者が天国で暮らすための役所に一部の天使が勤めていて、死神は話の通じない人間に呆れて、キューピットは悪魔に囁かれ想いを寄せあっている成人と未成年の人間と、彼らに囁いた悪魔に対して文句を言っている。

 愛羽に関してはこの通りではない。文句を言い合えるような関係の仲間をキューピット内で作っていないからだ。


「今日の対象がさ〜もうずっと、仏様か仏様かって言ってきて、マジで話進まなくてさぁ」

「あら……」

「いや、死神なんですよ〜死神です。って言ってるのに、仏様がお迎えに来てくださったのか。って。もうそんなにいうなら、いいよ仏で。って気持ちにもなるけど、冥界についた時に騙されただなんだってなったらダルいじゃん」

「ダルいね」

「だから、仏様じゃなくてごめんなさいね〜死神なんですよ〜ってずっとやってたら時間切れ」

「明日も行かなきゃなんだ?」

「そうなんだよ〜」


 左のツインテールを撫でながら、死神の咲里は露骨に嫌そうな顔をする。そうすると死神専用の通信機器が音を立てる。渋々といった感じで咲里は応答する。


「はい。はいそうです。え?予定3日後じゃなかったでしたっけ?……はい。えー……わかりました、行きます」

「お仕事?」

「そう。行かなきゃっぽい。こっちには愛羽とおやつを食べる予定があるっていうのに……」

「おやつならいつでも食べれるから」

「だって愛羽、またしばらく帰ってきてなくない?」


 渋い顔をするのは愛羽の番になった。愛羽には文句を言い合えるような関係のキューピットは居ない。友達と呼べるような関係性のキューピットもいない。排除されているわけでも虐められているわけでもなく、愛羽が望んで距離をとっている。

 他人と話すことは難しい。聞くだけじゃダメ。話すだけじゃダメ。気をつかい過ぎてもダメで使わな過ぎもダメ。

 そういう繊細さで進んでいく他人との関係は人間もキューピットも似たり寄ったりだ。

 愛羽はそういう繊細さは苦手だ。人の心に矢を放つだけの繊細と器用さはあるが、弓を握っていない時は人間の心さえも見えないのだ。レシピを見ていちいち分量を計らないと気が済まない質なのに心は曖昧で困る。


 咲里に軽く手を振って別れる。人間みたいに笑えていただろうか。


 堕天使の轟木一期に拾われた日もこうやって人間には見えないようにして、人間界の道を1人で歩いていた。いわゆるスランプの時期だった。

 

 キューピッドは弓を持つことによって恋心が可視化され、それに向かって先端が金の矢か鉛の矢を放つ。それなりの技術が必要だ。そもそもキューピッドは男子だったのだが人口増加によるキューピッド不足で愛羽のような女子のキューピッドも誕生した。


 その時期は金の矢も鉛の矢も悉く外していた。しばらくの間誰の恋心も成就できず、忘却させることもできず、終いには狙っていた人間の恋心を別のキューピッドに横取りされた。なにからなにまでうまくいかず遂に照準が定まる前に矢を放つようになった。きっと人間で言うところのイップスだとわかったが神が行く病院なんて無い。それは今までに愛羽と同じような状況になった人はいないと言っているようなもので、より孤独を促した。

 他にキューピッドはいるという意味では代わりはいるのに、いまだに続くキューピッド不足では休むことすら十分にできない。いつ元に戻るのだろう。明日から仕事はどうなるのだろう。周りにはどう言い訳すればいいのだろう。まともに築いてこなかった関係値じゃ相談なんてできやしない。


「ねぇ」

「……」

「ねぇ、ちょっと。そこのキューピッドさん」

「……あ、私?」


 振り向くとそこにいたのは天使、いや堕天使だった。翼のほとんどが黒に染まっている。


「大丈夫?」

「大丈夫です」

「そんなに神力乱れてる神も珍しいけど」


 今までほぼ常に凪いでいた神力は予想以上に乱れていた。未熟なキューピッドではないので乱れたからといって周りにどうこうということはないものの、堕天使からは強風に揺らされる木々のような神力が見えていた。


「ちょっと、調子が良くなくて」

「キューピッド仲間は一緒じゃないの?」

「……はい」

「ふぅん。うちおいで」


 聞いておいて別にどうでもいいみたいな反応をしてから堕天使は自宅に誘った。


「役職的に堕天使さんと一緒にいるのはちょっと……」

「真面目だねぇ。問題さえ起こさなきゃお上だって見てません知りませんでくるのに。それに悪魔もいるよ」

「余計まずいんですが」

「別に取って食おうなんて思ってないよ。私はただ人間界で人間っぽく生きてるだけだし、悪魔も面倒なことなんて起こしたくないだろうし。それはキューピッドとしても同じでしょ」


 キューピッドは頷きと首を傾げるのとの間のような動作をした。軽々肯定するわけには流石にいかなかった。それを見た堕天使はおかしそうに笑う。


「まぁ気が向いたらおいで。上手いこといってない人外集めたシェアハウスする気でいるから。まっすぐいって最初の交差点を右に曲がって進んだ突き当たりにあるから」


 じゃあねキューピッドさん。と背を向ける堕天使の翼を見て、なんとなく、ただなんとなく居ても立っても居られなくなった。


「堕天使さん!」

「……ん?」

「今からお邪魔してもいいですか」

「そうこなくちゃ。私は轟木一期。よろしく」


 差し出された右手を恐る恐る握り返す。握り心地は、思ったより温かいまるで人間のような手だった。




  ******



 

「愛羽」

「あれ、鈴橙ちゃんと琴音ちゃん。おでかけ?」

「ううん。愛羽のこと迎えにきた!」


 座敷わらしの琴音はニコニコと九尾の鈴橙と繋いでいた手を離し、愛羽と手を繋ぐ。琴音の手は一期よりもちもちしている。


「今日はご機嫌ね」

「今日は素敵な日だからな!」

「ふぅん?」


 琴音は大抵ご機嫌だし、鈴橙のほうを見ても我関せずといった感じなので日常といえば日常なのだが、それはそれとして今日は特にご機嫌だ。


「ケーキでも買っていく?」

「ううん」

「ん〜?」


 琴音は愛羽と繋いだ手を無駄に振り、鈴橙は2人の半歩先を歩く。

 シェアハウスにつき3人揃ってただいまの挨拶をする。靴を脱ぐために足元をふと見ると置かれてる靴がいつも多い事に気がつく。


「ん?咲里ちゃん、もう帰ってきてる?旭ちゃんの靴もあるし……」

「お琴、手洗いに行くぞ」


 ご機嫌に笑う琴音を鈴橙が洗面台に促し愛羽は玄関に置いていかれる。2人の後を追い愛羽も手を洗いリビングに向かう。


「お!愛羽、お誕生日おめでとう!」


 轟木の言葉を追いかけるように咲里、鈴橙、琴音、轟木、それに悪魔の朱来、吸血鬼の桐谷旭からもおめでとうの言葉と拍手が投げかけられる。


「ねぇ〜愛羽〜!旭、クラッカー買ってこなかったんだよ!」

「いや、クラッカーやるところまではいいんだけど、片付け虚しいじゃん。好きじゃないんだよ」


 愛羽に一番に駆け寄ってきた朱来が桐谷に向かってわたわた走っていくのを呆然と見ていると咲里が近づいてくる。


「咲里ちゃん、お仕事は……?」

「流石に大事な友達の誕生日に時間外労働なんてしてらんないよ。断ってきた」

「私すっかり忘れてた」

「ね。忘れてるなって思ってた。帰ってきてもらうためにおやつ食べるなんて嘘の約束してごめんね」


 愛羽は首を横に振る。ここに集まっている7人のうち6人は誕生日らしい誕生日はない。いつの間にか存在していたのが5人、暦なんて知らなかった元狐が1人。己含め6人に誕生日を授けたのは琴音だった。ただの気まぐれか、愛情か、今となっては意図はわからない。


「さぁ、お誕生日席に座りな?」


 轟木に促され椅子に座るとホールケーキが出される。6人も椅子に座る。蝋燭を突き立てる。火はつけないままおめでとうの歌が始まる。死神は鎌を振ってその風で命の灯火を消すので、蝋燭の火を吹き消すのは好まない。なので、おめでとうの歌の後で蝋燭に火をつけるというのが恒例になっている。

 るんるんなおめでとうの歌が一通り終わり、ライターを渡された。わーっと拍手が響く。切って来るねと轟木と朱来が台所に向かいその後ろを鈴橙と琴音がついていく。その隙に一本火のついた蝋燭をケーキから抜く。そして、火を吹き消した。ちらりと目線を上げると桐谷と咲里と目が合った。桐谷は仕方ないなぁとでもいうように目を逸らしたが、咲里とはしばらく見つめ合ったままだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

皆さまからの感想や応援が、今後の創作の大きな励みになります。

もし楽しんでいただけたなら、とても嬉しいです。


曖昧な心に祝福を。

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