ごめんね。ノストラダムス
起きた時は1994年で、あと5年だけと二度寝してしまったのが良くなかった。
ごめんね。ノストラダムスさん。
あの日あの時、世界を終わらせるのは確かに恐怖の大王である私の役目だったのに。
ええと、いつの間にか今は何年?。
下界では啄木鳥が木に穴を穿っていた。
明日が来るのをまるで信じて疑わない真っ直ぐなその音は森の奥深くにただ木霊する。
「恐怖の大王である自覚をしっかり持って世界を終わらせてきてください」
口酸っぱく言っていた先生の顔が思い浮かぶ。
気が重い。
好きでこんな事したい訳じゃないのに。
私がふと吐いた溜息は季節風となり、孤高に佇む下界のどこかの獅子の鬣をただ優しく揺らした。
今年こそか。
1999年に比べると随分終末感の足りない年度になってしまった。
今更に帳尻を合わせようにもどうしたって違和感は残る。
「15年前行動が基本じゃない?」
同期の大王の呆れた顔が目に浮かぶ。
うっさい。
中指をオホーツク海の底でそっと立てた。何万年もひっそり潜んでいる首長竜が私を見つけて不思議そうに首を傾げていた。
世界終わらせるのって本当に面倒臭い。
上の神達にお伺いを立てながら、遅れた言い訳を考えながら、思った。
私にしか出来ない訳じゃないから、私が終わらせなくても別の誰かが終わらせるだけ。
恐怖の大王ってすごく虚しい。こんなことに何の意味があるの?
いつかそんなことを一つ上の先輩に相談したら「世界終わらせることに意味なんか求めちゃダメだよ」って知った風に笑われた。まるで私が悪いみたいな言い方が少し腹が立ったし、とても寂しかった。
ふと見ると、下界のどこかの駅のホームの白線の内側で若い女性が私と同じ角度で俯いていた。
ごめんね。
終わらせるはずの世界の命にそんな感情を抱いた自分に少し可笑しみを感じた。
ごめんね。私あとちょっとだけ頑張ってみるね。だからあなたもあとちょっとだけ頑張ってみようよ。
私がこんな気持ちになったせいだろうか、その子は顔を上げてあと一歩だけ前に踏み出してしまった。
今日はほんの少し世界を終わらせることが出来た。
自分へのご褒美にオーロラを靡かせた。幾多の命が空を見上げる。
時々恐怖の大王をしていて良かったなと思う夜がある。
明日はやっぱり辞めたくなるんだろうなって、そんな小さな予感と今まさに死んだ一匹のミズクラゲを慈しみ胸に抱きながら私はまた眠りに落ちた。
「遊びに行こうよ!!」
顔も思い出せない神様からメッセージが届く。
「ごめん。まだ世界終わってなくて(・・;)」
その後も何通かメッセージが届いたが無視した。
世界を終わらせなくていい日くらい独りでずっと寝ていたい。




