第6幕 データの活用
生徒と教授が舞台袖から出てくる。
生徒「あ、これ続くんですね」
教授「細々ではあるが、算数数学の普及に貢献できるように活動していくそうだ」
生徒「僕は面白いと思いますが、苦手な人はとことん嫌がりますからね。高校の文理選択で『数学が好きなら理系、嫌いなら文系』って風潮がありますからね」
教授「苦手を克服とまではいかないが、少しでも楽しいと思ってもらえるような話をしてつもりだ。時に君、数学は得意かね?」
生徒「まぁ今の専攻してますし、高校の時は学年一位ってわけじゃなかったですが、それなりの成績でしたよ」
教授「なるほどなるほど。では話を1つ。A君は10人クラスの中の1人だ。ある日数学のテストで彼はクラスで2位になった」
AからJまでの仮面を被った10人が舞台下に現れる。Aは2位のプラカードを掲げる。
生徒「まぁ10人中2位ならかなり良いんじゃないですか? 1位にならなくて悔しいですね。僕もその経験ありますよ」
教授「なるほど」
生徒「僕の時もいました。こいつには勝てないなって奴が」
教授「では彼らの点数をみてみよう」
Aがプラカードを回転させると同時に他の9人がプラカードを掲げる。
2、2、2、2、2、2、2、2、0、10
生徒「いやいやいやいや、先に言ってくださいよ!」
教授「どうしたんだ?」
生徒「こんな問題の出し方卑怯ですよ! というか偏り過ぎでしょ!」
教授「だが10人中2位であることに違いはないだろう?」
生徒「た、確かにそうですが、限度ってものがあるでしょ!」
教授「しかし現実にありえないとは言えないだろう。君のミスは『クラスで2位という事実を、高得点をとった』と勘違いしたことだ」
プラカードが回転する。
2位、2位、2位、2位、2位、2位、2位、2位、10位、1位。
教授「因みに平均を求めると2.6になる。2位のくせに平均より低い」
生徒「じゃあ順位って意味なくないですか? 平均だけ出せば良いじゃないですか」
教授「それも落とし穴だ。ある高校の卒業生の5年後の平均年収は1億円だった」
生徒「みんな1億円稼いでるなんて、、、いや待ってください。これは裏がありますね」
新しいAからJの10人が出てくる。
生徒「1人ずつ1億円稼いだら当然平均は1億円になります」
1人ずつに1億円が配られる。
「でもAだけで10億円稼いで、あとの9人は家に引きこもっていても平均は1億円になりますよね?」
Aが無理矢理他の9人からお金を奪っていく。
教授「その通りだ。さっき話していた順位という見方は、中央値という考えであり、データを大きさ順に並べて順位を比べるものだ」
生徒「でも2位だとしても、好成績を残したとは限らない」
教授「そして平均値は合算した数を均等に分けるものだ。これはデータの良し悪しによく用いられるし、気持ち的にわかりやすいものだが、外れ値、つまり特別変異的に並外れた値の影響を回避できない」
生徒「結構平均とかよく聞きますが、そんな落とし穴があったんですね。これから気をつけます」
教授「平均値や中央値などの代表値には長所と短所がある。それぞれを独立して見るのではなく、複合的に読み取る力が必要だ。箱ひげ図という処理の仕方があるので調べてみるといい」
生徒「箱ひげですか? 初めて聞きました」
教授「新たに加わったものだから知らない人もいるだろう。だが箱ひげ図を習うのは中3だ。つまり連立方程式と同じ一般教養として扱われる」
生徒「目先の情報だけでなく、しっかりと多面的に情報を読み取る必要があるんですね」
教授「時には人間の直感すら怪しい時がある。君はマラソン大会で4位の人を抜いた。さて君は今何位だ?」
教授「3位と思ったのなら、直感が悪さしたのかもしれんな」