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死ねば良いんだ

「どうしよう……」


 拾った小悪魔三匹は、魔力が低い悪魔までも視認できる人間が初めてだからなのか、震えてまともに話ができない。

 彼らは何度も魔界へ帰ろうとしているけれど、帰ったところで親はいないみたいだし、食べるものはあるのだろうか。

 一番背の高い悪魔はそれを理解しているからなのか、弟達が帰ろうとしているのを何度も引き留めている。


「…ごめんね、私が貴方達のことを見えるから怖がらせているみたいで…」

『がる……っ』

「そんなに怒らないで…私でよければ順番に憑いて頂戴。ほら、色んな食べ物を買ってきたわ?」


 花祭りでは屋台がたくさん並んだ。飴細工やクレープ、肉巻きなど、美味しそうなものばかりである。


『……ニンゲン、このこと魔王様に言わない?』

「あら、魔王様って怖い人なの?」

『んーん。見た目はちょっと怖いけど、僕たちには優しいよ』


 一番小さな悪魔が答えてくれたが、人間と会話をするなと言うことなのだろう、一番大きな悪魔がポカリと叩いた。


『痛い!うわん!!!にーにの馬鹿!!!』

『うるさい!!!悪魔のくせに泣くな!!!』


 私はこらこらと宥めた。叩かれた小悪魔の頭をそっと撫でると、当の本人はびくりと肩を跳ねさせている。


『ニンゲンのくせになんで触れるの?』

「なんでかしらね?考えたこともなかったけれど…」

『……うー』


 猫が頭を擦り付けるように、私の手のひらに頭や顔を擦っている。

 そんな様子を見てか、長男らしい小悪魔が私の前に立った。


『…僕たちはお腹が空いている。その食べ物は…毒が入っているのではないか?』

「まあ!」


 こんなにも幼い悪魔達が、一体どんなに酷い目にあったらそんな発想になるのかと思う。


『あのさ…』と今まで黙って見ていた真ん中の小悪魔が口を開いた。


『それを食べるにはこの人の体を借りるしかないんだよ?毒なんか入れるかな』


 思考停止したように長男と末っ子は真ん中の悪魔を見た。

 号令を鳴らしたように、二人はだらだらと涎を垂らして、私に飛びついた。


『ぼ、ぼく…僕から!!!!僕が一番だよ!!!』

『ずるいぞ!!!離れろ!!』


 真ん中は冷静に『いつもこうなんだ』と言って、たははと笑っている。


「ちょっと貴方達!!喧嘩しないで頂戴!!じゃんけんでもして順番を決めなさい!!」


 ぎゃん、と叱ったので、二人は萎縮した。





 結局、末っ子、長男、真ん中の順番で食べることになった。必ず三分こにすることとルールを貸したらきっちり三等分にしたので、とても偉いと思う。


『まだちょっと物足りないけど、まあ、仕方ないか…げふっ』

『にーに、お腹ぽっこりだよ』


 真ん中は少しもじもじしながら、私に憑依する。

 既に二回も満腹になっているはずだけれど、途端にぐうとお腹が空いた。

 遠慮がちに肉巻きを取る手が震えている。


「…っっ……おいし…美味しい…うぅーーーーっっ」


 私の感情とは全く別に、涙がポロポロとこぼれ落ちていく。

 残りをすっかり食べ終えると、真ん中の悪魔が私から離れた。同時に、すっかり満腹だったお腹も元に戻る。


『どうも、ありがとうございました。…ほら、二人もちゃんとお礼言って』

『ありがと…』『あーと!』


 兄弟悪魔達がぺこりと頭を下げるのを、微笑ましく見ながら、「気にしないで」と言った。


『ニンゲンは、どうして僕たちに優しくしてくれたの?』

「私の名前はニンゲンじゃなくて、ユーレンシアよ」

『ユーレンシアか。長い名前だなあ。ユーレンシアは僕たちが悪魔って知ってるんだよね?ニンゲンは悪魔って聞くとみんな逃げるか襲いかかってくるのに、変わってるね』

「貴方達だって生きるのにお腹が空くのは当たり前だもの。ニンゲンも悪魔も関係なく助け合えたら良いなって思うわ」


 三人はそれぞれを見合って複雑な表情を浮かべている。


「貴方達、お名前は?」

『そんなのないよ。みんなには、そいつとか、お前とか、おいとか呼ばれてるし』

「お父さんやお母さんは?」


 長男と真ん中は末っ子を気にすると、小声で『おい!』と言った。

 きっと両親の所在について、末っ子に言い聞かせていることがあるのだろう。思わず口を押さえた。


『とにかく、僕たちに自分の名前なんてない』

「あら!なら付けてもいい?」

『はあ?』

「一番大きい貴方はイチ、真ん中の貴方はニイ、小さい貴方はサン!どう?」


 小悪魔達はそれぞれを『イチ!』『ニイ!』『サン!!』と呼び合ってけらけら笑っている。


「気に入った?決まりね!」

『あ……まずい!』

「どうしたの?」

『ニンゲンに名前を付けられると、名前を付けたニンゲンの使い魔になるんだ…僕たち悪魔は…』

「……はい?」

『良いか、例えばユーレンシアから離れるとするだろ。僕が見えなくなったら呼んでみろ』


 イチは窓をすり抜けて、教会の一本杉がある中庭あたりで見えなくなった。


「イチーー!!」


 呼ばれたイチは、私の目の前に突然現れる。

 ニイとサンは、ぽかんとその様子を見た。イチは机の上にふわりと降りると、膝と手をついた。


『浮かれた…やっちまった……』

「イ、イチ…??」

『くっそーーーー!!油断した!!!使い魔なんて、そもそもニンゲンが視認できるくらい魔力のある大人の悪魔がなるものなのに…!こんなガキんちょが使い魔になったなんて知られたら……』

「し、知られたら…?」

『魔王様、めっっっちゃ怒る……。多分ユーレンシアのこと殺しに来るかもしれない……』

「まあ!」


 ニイとサンは暫く呆けていたのが、イチがあんまり慌てて物騒なことを言うので、『そんな!』と大声を上げた。


『ユーレンシア死ぬの?死んで魔界に来るの?魔界に来たニンゲン、みんな泣いてるよ…?』

『いや、僕たちが悪い』


 なぜこうも、私が死ぬ話ばかりなのだろうと思うと、どこか冷静な自分がいた。


『ユーレンシア!死ぬかもしれないのに、怖くないのかよ!』

「怖くないわけじゃないけれど、魔王様は貴方達にとって怖い人じゃないんでしょう?自分以外の種族にとって恐ろしいのは当たり前のことだわ。貴方達を守らなければならないのだから」

『僕たちを守るため?』

「そうよ。…それから、私は絶対に死ぬわけにはいかない。魔王様がどれくらいお怒りになるか分からないけれど、当面は秘密にして欲しいわ」

『も、もし魔王様にバレちゃったら?』

「その時はちゃんと説明するしかないわね」


『でもでも!』と慌てるイチの頭を指で撫でる。


「…光の花嫁になりたい人がいるの。私が死ぬことによって、そのシナリオが進むことになるのよ。私の死は、そう言う意味を持つこと、魔王様にしっかり説明するわ」


 幼い二人は首を傾げて『なにそれ』と言っていたが、イチだけは違った。


『光?光って…神のこと?』

「そうよ」

『神の花嫁になりたいの?誰が?』

「光の聖女様よ」


 イチはガタガタと震え始めた。弟二人は『にーに、どうしたのにーに!』と言ってイチを揺さぶった。


『もともと悪魔とニンゲンは光が作ったんだ…。あれは……光は…何の感情も持っていないんだぞ?』

「どういうこと?」

『これ以上は…喋れない。天使に聞かれていたら、タダじゃ済まないからな』

「え、ちょっと!イチ!」


 三人は手を繋ぐと、現れた黒い線のようなものに吸い込まれていく。多分魔界の出入り口なのだろう。


『良いか!食べ物がある時以外は呼ぶなよな!』

「わ、わかった…え、もう帰っちゃうの?ま、待って!待っ…」


 私が手を伸ばしたと同時に、黒い線は煙のように消えてしまった。


(どうして騎士団長・オーディス様の足に取り憑いていたのか聞きそびれてしまった…)





 この時、背後で細く開く扉から大きな瞳が覗いていたことに私は全く気が付かなかった。


「へえ…?一人で何喋ってんのって感じだったけど、悪魔が何体かいたのかしらねぇ」


 よっと立ち上がると、セレナはくるりんと回って、白いドレスをひらめかせる。


「おかしいと思ったのよねえ、やけに食べ物ばかり屋台で買うんだもの、こっちが恥ずかしかったわ」


 タッタッと爪先でステップを踏みながら、教会の中を無表情で覗き込む天使を一瞥した。


「く、くくく、なるほど…。だからユーレンシアは教えたくなかったんだあ」


 腕を伸ばすと、数体の天使が纏わりついてくる。悪魔と違って、視認しやすい天使。凡人にはきらきらと光る金粉に見えるらしい。

 天使は陶器で作られた人形のように、どこを見ているのかも分からぬ顔を近づけてくる。


「ふふ…。私、今とても機嫌が良いの。もっと触って良いのよ。ふふ、ふふふふ。…なぁんだ、ユーレンシアが死ねば良いんだ」

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