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騎士団長・オーディス

 真っ白なドレスに包まれたセレナは、美しい聖女として民衆の目に映ったようだ。

 花を配って歩く私たちを感嘆のため息が迎えている。


「まあ…!なんと美しいのかしら」「まるで天使みたいだ」「光の聖女様!!」


 あちこちから投げかけられる言葉の中には


「…あの隣のも聖女なんだって?随分地味だな」「なんでも、闇の聖女なんですって」「なんだそりゃあ。気味が悪い」


 そんな心無いことを言う人たちもいた。それらはすべて私に向けられたものである。


「お花をどうぞ!」

「光の聖女様!私にもください!」


(ああ、確かここで騎士団長のオーディスとセレナが出会うのだわ)


 この路地を曲がって、大通りを逸れたところに攻略対象であるオーディスがはずだ。

 セレナは人がたくさんいる大通りをわざと逸れて、敢えて路地を曲がった。


(こちらは人があまりいないのだから、わざわざ曲がるということは…)


「まあ!どうされたのですか?」

「っ!貴方達は…まさか聖女殿か?なぜここにいる?」


 そこには、ゲームの進行通り、騎士団長オーディスが蹲っていた。


「道を間違えて、大通りを逸れてしまったみたいです」

「大通りを間違えることなどあるか?」


 オーディスを狙うのなら、赤いドレスを着るべきであった。けれど、彼女は今日白いドレスを着ている。会話で挽回しようというのだろうか。セレナは蹲るオーディスと目線を同じにした。


「そんなことよりも…失礼ですが、お怪我をされているのですか?」

「君たちに関係ない。少し休憩していただけだ。俺は警護に戻る」

「でも…」

「うっっっ!!」


 立ちあがろうとしたオーディスは、再び蹲ってしまった。


「っっ!はあ、はあ…」

「どうされたのです!?」

「…昨日、王都の南方で大型の魔族が出没してな。その際に…。騒ぎになるといけないので秘密裏に処理した。そのうち、聖女である君たちにも通達が行くだろう…」

「…もしかして足が…」

「分かるのか?」

「立ち上がる時に庇っていらっしゃいましたから…」


 ズボンをたくし上げると、サラシで巻いている脹脛から血が滲んでいる。


(……!!)


 よく見れば、オーディスの足に悪魔が数匹取り憑いてその肉を屠ろうと何度も齧り付いている。


『おなか、すいた…』


 切ない声が耳について、塞ぎたくなる。二人には聞こえないらしい。オーディスは台詞通りに言った。


「…血が止まらないのだ」

「そんな……!まさか!」


 セレナは大げさに驚いて私を小突いた。

 闇の聖女である、私が悪魔の存在を指摘しなければ、セレナは浄化することができないからだろう。

 仕方がなく、私は足に纏わりつく悪魔を撫で、小声で「こちらにおいで」と言うと、サッとポケットにしまった。


「…ここに悪魔が…足に悪魔が憑いています」

「だから血が止まらないのね…!私は光の聖女・セレナです。貴方に憑いた悪魔を浄化します」


 すうと息を吸うセレナに光が集まり、左右に手を振ると、金粉のように光がこぼれ落ちた。

 オーディスは驚いたような顔でセレナを見つめている。


「…あっ…ああ!血が…止まっている!!」

「良かった…。そうだ、血のついたサラシは嫌でしょう?怪我に巻くならこのハンカチをお使いください」

「セレナ殿……」


 聖女にハンカチを巻かれているオーディスは、顔を真っ赤にしている。


「オーディス……。俺の名前はオーディスだ」

「オーディス様…素敵な名だわ。…よし、できた。お大事になさってください」


 立ち去ろうとする私たちを、「あの」と言って引き留める。


「また…会えますか?」

「ええ…いつでも」


 私は可憐な少女の顔をしているセレナをじっと見つめてから、オーディスに頭を垂れた。

 彼は私のことを見もしないけれど。


(つい連れてきてしまったけれど、どうしよう、この子達…)


 三匹の小悪魔達は、ポケットから私を見上げて、『みぃ』やら『ぴぃ』やら言って親を呼んでいるらしかった。

 けれど、どれだけ呼んでも親らしい個体は現れない。


 彼らは超音波のようなものでやり取りすることもある。これだけ呼んで来ないのなら、恐らく親は彼らを棄てたのか、あるいは死んでしまったのかもしれない。


 人間界では憑依しなければ物質を食べることができない彼らが、どうしてオーディスの足にしがみついていたのかわからない。あそこにしがみついて、どうしようとしていたのだろう。


(まさか、昨日現れた大型の魔族がこの子達の親…?)


 具現化し、人間にも見えるほどとなると凄まじい魔力量だったはずだ。それも大型だなんて。

 騎士団長といえど怪我は免れなかったのは頷ける。もしかしたら死人も出たのかもしれない。


 笑顔で花を配るセレナの横で、複雑な気持ちが膨らんだ。

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