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黒のドレス

 こつ、こつ、こつ、とヒールの足音が響く。


 教会で神に祈る私に、「ちょっと」と声がかかった。

 聖女が祈りの最中にある時、声をかけるのはタブーであるにもかかわらず、だ。


「ちょっと、ユーレンシア。もう夕方よ?光の絵を描いて持ってきてと言ったじゃない」

「……セレナ。何度も言うけれど、光の詳細なキャラクターデザインは存在しないわ」

「嘘。ただの光とどうやって結ばれるのよ。触れることもできないじゃない」

「そんなことを言われても、困ってしまうわ」


 盛大なため息をついたセレナは私の両肩を掴んだ。


「協力すると言ったじゃない!」


(…言ってないわね)


 肩をゆさゆさと揺さぶる手の力は、かなりのものである。


「そんなに私が光と結ばれるのが嫌なの!?」

「貴方は…!セレナはシュナイド王太子と結ばれたいのじゃないの!?」

「…はあ?なにそれ」


 馬鹿にしたように鼻で笑っている。


「シュナイドなんて、何度攻略したと思っているのよ」

「あのね、この世界は確かにゲームの世界かもしれない。けれど、みんなその中でそれを知らずに生きている人たちだわ!それに王太子殿下を呼び捨てなんて…」

「誰も聞いていないんだから良いじゃない。確かにヴィジュアルは綺麗だけど、正統派過ぎて飽きたのよ」

「ならなぜ青いドレスを?」

「あら、ちゃんと見てたのね。なあに?ユーレンシアはシュナイド推しなの?ああ、だから昨日城でゲームとは違う行動を平気で取ったんだぁ」

「ゲームゲームって……!彼らにとってここは現実世界だわ!?転生してきた、私たちにとっても、ね。不測の事態だって起こるし、いつもシナリオ通りに進むとは限らないのよ」

「なにムキになってんの?見ていて恥ずかしいわ。私はただ、出来る限り好感度を上げておかないと、光の花嫁になれなかった時、聖女として誰とも添い遂げず教会に仕える未来しか残っていないからキープしてるだけよ」


 セレナと話していると、頭がくらくらする。プレイヤーとしてゲームをしている感覚となんら違わないのだろう。自分の命としてこの世界に生きているにも関わらず、だ。


「で、次のイベントは花祭りよね。二人の聖女を街の人に紹介して花を配るんでしょう?ねえ、ドレスは何を着れば良いの?」


(…ここで嘘をつくべきなのだろうか)


 きっと、光の花嫁になる為に、私の死が絡むことを言ってはいけない気がする。なぜなら、セレナはこの世界をゲームとしか捉えていないからである。


(この子の為に命を落とすなんて、冗談じゃないわ)


 今の会話で、人の命を酷く軽く考えているのが垣間見えた。


 私は逡巡の末、セレナの問いに答えた。


「……黒の…黒のドレスを着続けるのよ、どのイベントでも、必ず」


 セレナは私の目を見つめている。じっと、身じろぎもせず覗き込んでいる。


「ペリア公爵令嬢の結婚式や、他の男性とのデートでも?」

「ええ。だから、他の男性陣からの好感度はダダ下がりよ。…それでも、やるの?」

「………白ね」

「え?」

「白のドレスを着続ける、でしょう」


 大きな瞳に見つめられて、私は答えることができない。私の肩を掴んだまま、セレナは歪んだ笑顔で「やっぱり」と言った。


「ユーレンシアったら分かりやすいのね。嘘をついてはいけないわ」

「…セレナ」

「思い切り素敵な白いドレスを着ていきましょう!」


 スキップで去っていくセレナはくるりと踵を返して


「また教えてちょうだいね!」


 と言うと、鼻歌混じりに去って行った。


(…これで、良かったのだろうか)


 黒のドレスを着続けるというのは本当である。きっとセレナは私のことを疑い始めていると思った。だから敢えて本当のことを言ったのだ。思惑通り、セレナは私が嘘をついていると思ったらしい。


(これできっと、大丈夫、よね?)


 黒のドレスが引き金となって、ユーレンシアの死が近くのだ。

 私は本当のことを言ったのだ。なのに、勝手に疑って反対の行動を取ったのはセレナである。


(つまり、私が嘘をつくと思っているから、よね)


 私は「りん」という女性の人間性が恐ろしくて堪らなくなった。

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