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興奮

「ユーレンシア、まさか…貴方も転生者なの?」


 恐ろしいほどに美しい夕陽が、セレナの髪の毛を輝かせている。


「転生者…?何のことかしら?」

「私、この世界を知っているの。前世でプレイしたゲームにそっくりだわ」

「前世って……」

「なぁんだ、違うの」

「そんな…物語の読みすぎじゃない?」

「…私はただ、私と同じ境遇なら、どんなに救われるかと思っただけ。ユーレンシアもそうなのかなって思ったんだけど、違ったのね」

「え……」


 私も考えたことがあった。自分と同じくこちらの世界に転生した人はいるのだろうか、と。いるなら話してみたいと。

 セレナは俯き、爪をいじっている。


「こんな話しても信じてもらえないわよね。…私、以前の名前を江木りんっていうの。よくこの名前で揶揄われたのよ。前世ではすごく嫌だったけれど…こんな話、誰にも通じないの。寂しくて」


 ふふ、と笑う「りん」は、もしかしたら私と同じように人生の途中でこちらに来てしまったのではないだろうか。

 私は、ぽつりと呟く。


「えぎ…りん……エリンギってこと?」

「え?」

「ふ、ふふっ…ごめんなさい、とてもユニークだわ」


 セレナは大きな瞳で私を見つめた。この世界ではキノコを食べる習慣がそれほどない為、キノコの名前なんて知らない人がほとんどだからだ。


「ユーレンシア…あなた、やっぱり…」

「私は芦名恭子。貴方の寂しい気持ち、とてもよく分か……」

「あしな…きょうこ…?」


 一瞬時間が止まる。セレナは「ん?」と首を傾げて呟いた。


「嘘でしょう!!?ユーレンシアって…まさか、キャラクターデザインの芦名恭子なの!!?」

「えっ…」


 私の手を取ると、両手で握手をしてぶんぶんと勢いよく振った。腕がちぎれそうなほど強い力だ。


「私、随分やりこんだのよ!どのキャラクターもとっても素敵で…!」

「あの、えっと…」

「ああ!ユーレンシアが芦名恭子だなんて!!!夢みたいだわ!!貴方がいれば、百人力ね!」


 興奮気味のセレナを目の前に、ぽかんと口を開けることしかできない。

 目を輝かせたセレナは言った。


「私、私ね、光の花嫁になりたいの!貴方ならどうすれば良いか知っているでしょう?同じ転生者で、しかもユーレンシアがあの芦名恭子なんて、きっとこれも運命だわ!!勿論協力してくれるでしょう!!?」


 ああ、私は最大の過ちを犯してしまったのだと、重たく自覚した。


(光の…花嫁ですって!?)


「よく聞いて、セレナ。光とは即ちこの世界の神だわ?」

「そんなの知ってるわよ!どれだけやりこんだと思っているの?」

「で、でも、光は本当にただの光なのよ?」

「…それは嘘ね。本当は結ばれた後のエンディングで光の顔が顕になると踏んでいるの」

「そんな演出ないわよ!?」

「あら、図星?」

「ちがっ…」

「良いわ、明日本当の光の顔をちゃちゃっと描いてみてちょうだいよ」


 私は若干引き気味に「ちゃちゃっとって…」と言ったが、興奮しているセレナには私の意図は伝わっていないようだ。


「じゃあ、明日描いて私の部屋に持ってきてよ。宜しくね」


 がたん、と馬車が止まって扉が開いた。教会の中庭に降り立ったセレナは思い切り伸びをしている。


「ちょっと!」


 私は声を上げたが、彼女は構わず行ってしまった。


(光を攻略したいですって!?)


 ならばなぜ、今日青いドレスを着て行ったのだ。彼女はこのゲームをやりこんでいたと言っていた。それならば、今日の言動はどれも王太子と結ばれたいがためのものだと、今なら分かる。


(ゲームの中とはいえ、物質世界。ここの世界の人たちはちゃんと生きているわ。どこまでゲーム通りに進むのか、わからないけれど…)


 馬車から降り、沈んでいく夕陽を見つめた。そして、私は恐ろしいことを思い出す。


 セレナが光の花嫁になる為には、ユーレンシアの死が必須条件である、ということだった。

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