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大型魔族

「憑依したまま、乗っ取る…?」


 心臓がどくどくと音を立てている。湧き起こる様な胸騒ぎに、呼吸が荒くなる。


 常人には小悪魔は見えず、大人の悪魔ならば見える。てっきり魔力量の差なのだとばかり思っていたが、それはつまり…


『普通のニンゲンが見ている大型の魔族というのは、憑依した人間の器を超えてしまった奴らだ』

「っっっ…」

『平たく言えば食い破って…』


 私がサッと表情を曇らせると、ニイが『おい!』と言ってサンの耳を塞いだ。


『…なんだよ、事実だろ』

「……ねえ、なら、貴方たちもそんな危険を犯してまで人に憑依しているってこと?」

『ユーレンシアは大丈夫じゃんか』

「でも…」

『でももなにもねぇよ。おれたちのようなガキは…そうでもしないと飢えて死ぬだけだ』

「イチ……」

『さて、お前ら。そろそろ帰るぞ』


 大義そうに立ち上がった小悪魔達は、数日前のことを、さっきと言う割に少し背が高くなっていて、時間の流れ方がどう違うのかよくわからなくなる。

 イチに言わせれば『ニンゲン様は、一日、一時間、一分、一秒だろ?そんな簡単な物じゃない。もっと複雑で入り組んでいる』とかなんとか。


「もう、帰ってしまうの?」

『…時間の流れ方が違うここに長くはいられないからな』

「そっか……呼び出して、ごめん」


 鋭い瞳で私を見たイチは、ニイとサンを黒い線にぐいぐいと押し込んだ。


『さっきの話、気にしているのか?』

「だって…もし私のせいで貴方達が魔界に戻れず、憑依したままなんてことになったら…そんなリスクも知らず、ごめんなさい」

『…変なニンゲンだな、ユーレンシアは』

「へ、変…?変って何よ、失礼ね」

『……ばぁーか』

「ばっ!なっ!!」

『はあ…。まあ、ふかふかが手に入ったらまた呼べよ』

「えっ…う、うん」


 イチが黒い線に消えると、煙が上がって、やがて線も消えた。


 私は今まで闇の聖女の存在意義を疑問に思っていた。けれど、もしかしたら光の聖女が人間を救う者だとしたら、闇の聖女は魔族を救う者なのかもしれないと思い始めた。



 私に与えられた十分すぎる部屋の窓から、王城を見る。


(セレナはどうしているのかしら)


 隣の部屋にいるはずだが、気配すら消しているのかと思うほどに静かだ。

 ゲームでは、毎日何かしらのイベントがあり、その度に人間に憑依する悪魔を祓っていたはずだ。

 ヒロインが不在のイベントばかりで、物語は進むのだろうか。


(ううん。例えゲームの中でも、ここは現実だわ)


 爪のささくれや、手の甲の血管や、陽に透ける産毛や、そう言ったもの全てに気付かされる。みんな生きた人間である。確かに現実の世界であると。


(…確か、明日は建国祭ね)


 このままゲーム通り進行するなら、リューエンという東の国から来た舞踏家と知り合うはずだ。身分を隠して訪れた隣国の王太子であるリューエンもまた、セレナの攻略対象である。


(ならば…セレナが部屋から出てくるのは明日…だろうか)


 キャラクターデザインをした時、最も衣装デザインに拘ったのが彼だ。和装と洋装をミックスさせたようなデザインと、切長の瞳は、武人を彷彿とさせファンも多い。

 騎士団長オーディスも強いが、明日行われる親善試合では必ずリューエンが勝つ。

 聖女が勝者に祝福を送る手前、セレナも観戦することになるが、果たしてどちらを応援するのだろうか。


(…って…なんで私が気まずいのよ…)


 ばかばかしいと思い直して、午後の祈りのために部屋を出た。

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