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転生したのは…

「嘘でしょう!!?ユーレンシアって…まさか、キャラクターデザインの芦名恭子なの!!?」



 私は最大の失敗を犯した。


 ただの脇役である闇の聖女・ユーレンシアに転生した私が、このゲームのキャラクターデザインを担当した芦名恭子であることを、こともあろうか主人公である光の聖女、セレナに暴露してしまったのだから。


 そう、セレナもまた、転生者なのだ。





✳︎ ✳︎ ✳︎





 リーチ・ザ・スカイ、それは主人公である光の聖女、セレナになりきって進んでいく、所謂乙女ゲームだ。

 ゲームのファンだと言う目の前のセレナは、転生前の名前を「りん」と名乗った。

 彼女は、意中の相手との未来を進むために私から情報を聞き出そうと企んだ。

 キャラクターデザイナーとはいえ、どの分岐を踏めばどのようなストーリーに進むかというのはある程度知っているからだ。


 当たり前だと思う。


 けれど、セレナが結ばれたい相手は……


「私、光の花嫁になりたいの!貴方ならどうすれば良いか知っているでしょう?同じ転生者で、しかもユーレンシアがあの芦名恭子なんて、きっとこれも運命だわ!!勿論協力してくれるでしょう!!?」


 セレナは私の手をがっしりと掴んで言った。私は言葉に詰まってしまう。


 光とはすなわちこの世界の神のことで、セレナが光の花嫁になるためには、闇の聖女・ユーレンシアである、私の死が必須条件だったからである。





✳︎ ✳︎ ✳︎





 私がこの世界に転生した理由は分からない。転生したキッカケも覚えていない。

 ただいつものようにパソコンの画面に張り付いて遅くまで残業していたら、急に後頭部に鋭い痛みが走って、気がついたら私はこの世界にいたのだ。


 転生前、光の聖女を映えさせる存在であるユーレンシアを、とにかく地味にして欲しいという要求があり、一番苦心した思い出がある。

 彼女の容姿については、目立たないけれど品のある女性にデザインした。私自身とても気に入っているキャラクターの一人である。今自分がその令嬢に転生しているだなんて、なんだか妙な感じである。


「ユーレンシア、何を見ているの?早く行きましょう?」


 私が転生者であると自覚したのは、五歳になった時である。

 人の肩に乗って囁く、人には見えないはずの悪魔が見えた。初めは何だろうと目を凝らし、次第に指を刺すようになり、そして…


「あの人の肩に乗っているのは、なあに?悪いものなの?」


 人々はユーレンシアである、私のことを気味悪がった。仕方がない、私が指を指した人達は例外なく狂ったり人を刺したりした。


「ちょっと、リベルタ伯爵の一人娘よ」「なんだか気味が悪いわ」「こっちを見たわ!目があったら呪われるって本当!?」


 ユーレンシアの両親である、リベルタ伯爵と夫人が良い人たちであったのは幸いだった。


「可愛い我が娘よ、きっとお前には神に導かれし使命があるに違いない」


 私はその時思い出したのだ。この世界がゲームであり、自分自身がデザインしたキャラクターに転生したのではないだろうか、と。

 ユーレンシアが成長し、ゲームの中のユーレンシアの容貌に近づいて行く度、その疑念は確信となっていった。


「ユーレンシア、一体…何を…何をやっているんだ?」


 ユーレンシアの姿で十三歳に成長した私は、人に囁く悪魔は人を狂わそうとしているわけではなく、彼らが常に腹を空かせているということに気がついて、ならば私に憑依してもらい、お腹いっぱい食べてあげようとしたことがある。


 父や母に止められるまで、私は鶏の生肉を飲めもしないワインで流し込んでいた。

 これが決定的な出来事となり、心配した両親に教会に連れて行かれたわけである。


(ユーレンシアにはこんな過去があったのね…)


 実を言えば、初めて知ることも多かった。こんなに温かい愛情をかけて育ててくれる両親がいたからこそ、ユーレンシアは控えめながら優しい女性に育ったのだろう。時折、芦名恭子であった自分自身を忘れそうになる。そんな時は本当のユーレンシアが行動している気がした。


 教会に預けられた私は、セレナと出会い、ゲームの世界がどんどん進行していく。

 二人が十七歳になった時、神の信託によりユーレンシアは世界の秩序を保つ闇の聖女となり、セレナは神に愛されし光の聖女となった。

 神の信託を告げる神官と、荘厳な雰囲気に包まれた教会で祈りを捧げる令嬢が二人。ゲームのオープニングで使われたシーンとそっくりだった。


(なんて儚げなんだろう)


 セレナに抱いた印象だった。主人公になりきって進むという演出上、セレナの造形はあまり作り込まれていない。

「天使のように可愛らしい」「守ってあげたくなる」という男性陣の台詞が頻繁に出てくる。

 セレナはその台詞通り、いやそれ以上に愛らしい女性だった。


「私には天使が見えるけれど、ユーレンシアは悪魔が見えるのでしょう?それってとっても辛くない?」

「そんなことないわ、みんな誤解しているだけで、悪魔は…」


 ゲームでは、ユーレンシアが悪魔がいることをプレイヤーに指摘して、戦闘シーンが発動する。


(プレイヤーが悪魔を浄化すると、コインが貰えてステータスが上がる仕組みだけれど…こちらの世界ではどうなのかしら?)


 もしゲームと同じように悪魔が祓われるなら、フェアじゃない気がした。何だか私の知らないこの世界の理がありそうで…

 セレナは可憐な口を大きく開けている。


「まあ!貴方まさか教会に仕える身でありながら…悪魔と通じているの!?」

「え……」

「仕方がないから黙っていてあげる。いい?余計なこと、言わない方が良いわ」

「セレナ……」

「貴方は光の聖女である、私の言うことを聞いていれば良いの。分かった?」


(あれ?こんな台詞、あったっけ?まあ、でも私も必ずゲームと同じ言動をしている訳じゃないし、そんなものなのかな)


 セレナは輝く金髪を揺らしながら、鼻歌混じりに窓を開けた。


(このイベントの後は確か…お城に招かれるのだったわ)


 セレナの聖女としての力が持て囃され、うまくいけば王太子との婚約のきっかけになるイベントである。


(難しくはないけれど、人気が高いシュナイド王子……)


「ねえ、明日はお城に行くでしょう!?どんなドレスを着ていこうかしら!」

「そう、ね……」


 私は主人公・セレナに花を持たせる脇役、闇の聖女・ユーレンシア・リベルタである。

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