預言書 第7話
阿久津「・・・本物?」
谷「本物とか、そういう次元じゃないと思うのだがね?」
阿久津「この人、本物の、現内閣府官房長官の谷光央?」
署長「阿久津君、呼び捨てはやめなさいよ、谷先生に向かって! 今回はご迷惑をおかけしました。謹んでお詫び申し上げます。まさか、現役の大先生、自らが起こしいただけるとは!光栄の極み!」
谷「あのねぇ、迷惑の極みなんだよ? 私を呼び出して、私、これでも、忙しい身の上なんだよ?」
阿久津「署長、この人、本物の本物なんですか?」
署長「本物の谷先生ですよ。私、テレビで見た事ありますもん。」
阿久津「え?テレビでだけですか?」
署長「そりゃぁ、そうでしょう!私みたいな一介の市民が、谷先生とお会いする機会なんてある訳ないでしょう?常識で考えてみなさいよ?」
谷「早くしてくれないかねぇ?」
阿久津「署長も僕も同じじゃないですか。・・・・とりあえず、あなた、谷議員としましょう。身分証明できるものを見せて下さい。」
谷「はぁ?」
阿久津「いや、だから。」
谷「あのねぇ、君ぃぃ、失礼じゃないのぉ? 私、現役の官房長官だよ? 毎日、テレビ、出てるでしょ? 日本で総理大臣の次に偉いんだよ?副総理もいるけど。」
署長「そうだよ、阿久津君。」
阿久津「偉い、偉くないの問題じゃなくて、あなた自身の身元を証明してもらわないと。偉いとかそういうのは、人間関係で相対的に変わるので、何の保証にもなりませんよ?」
谷「こいつは何を言っているんだ? 私を誰だと思っているんだ?」
阿久津「いや、だから、現時点では、自称、国会議員で官房長官の男ですよ。」
谷「自称だと?」
阿久津「自称ですよ。あなたしか、言ってないんだから。早く、身分を証明するものを見せて下さい。」
谷「君ぃ、私の顔を知らないのか?」
阿久津「ですからぁ、何度も言わせないで下さい。偉いとか、知ってるとか、そういう話じゃないんですよ。公的に認められた、身分を証明できるものがあって初めて、身元が分かるのであって、あなた、いいおじさんでしょ?外国人だってパスポートをすぐ出せる所に所持していますよ。警察がうるさいから。そうさせたのは政治の方ですけど。」
署長「日本人は、外国人に抵抗感があるからねぇ。おじさんは特にそうだよ。・・・・若い人を見習わなきゃ。」
阿久津「自称、谷議員。マイナンバーカード、運転免許証、保険証、パスポート、できれば顔写真がついている物が望ましいです。ご提示を。」
谷「・・・・・・・・・・・・ない」
署長「は? 谷先生! 自称谷先生!」
谷「自称言うな!」
署長「自称谷先生、だって、あんな大きな黒塗りの車で、警察署の真ん前に、横づけされたじゃないですか! 迷惑だったんですけど。」
阿久津「あれは迷惑でしたよね。」
谷「私は仕事柄、車は運転せん! もし事故でもおこしたら問題になるからだ! だから、そのようなものは持ってはいない!」
署長「自称、谷先生、マイナンバーカードは? マイナンバーカードはお持ちじゃないんですか? あれ、政府が政策で力を入れていたじゃないですか?普及率、上げるぞ!って、ポイントもくれたし。」
谷「持ってない! 申請もしていない!」
阿久津「ええええええぇぇええええええ! 政府で言っていたのにぃ?それは本末転倒ですよ?」
谷「必要ないもの、作ったって無駄だろ?」
署長「私、作りましたよ。妻に言われて。ポイントがつくから。ポイントの使い道、なくて困りましたけど。」
谷「無いものは無い! そうだ、これ、バッチ。議員バッチ。これは国会議員にならないと貰えないバッチだ。これで証明になるだろ?」
署長「自称谷先生。それは、国会議員の証明になるかも知れませんが、あなたが谷先生だという証拠にはならないんですよ。そのバッチが唯一無二のものなら、証明にもなりますが。」
阿久津「そもそもそのバッジだってイミテーションの可能性もありますからねぇ。国会議員のフリをしたなんて、重罪ですよ?」
谷「はぁぁぁああああああああああああああ?」
阿久津「あなた、自称、国会議員さん。身元不明の中年?いや高齢男性。警察署の前に、大型セダンを横付け。・・・・公務執行妨害で、逮捕です。」
谷「何、言ってんだ? 私は谷だぞ? 官房長官の谷だぞ?」
阿久津「だから、その、証明できるものがないんだから、あなたは谷官房長官を名乗る、自称谷さん。警察の業務妨害で逮捕です、逮捕。」
署長「私、信じてたのに。・・・・言われてみれば、このおじさん。顔が違うような気がする。テレビで見た時、もっと顔が大きかったもん。」
阿久津「そうでしょ?」
谷「ふざけんなぁああああ! テレビはワイドだから顔が真伸びすんのぉおおおお!」
署長「そんな、訳ないでしょう?」
阿久津「逮捕です、逮捕。二十二時三分、逮捕!」
皇「で、その、なんとか、なんなんだよ?」
瀬能「固有名詞を出して下さい、固有名詞を。」
皇「お前、それに命、狙われてんだろ?」
火野「リーダーよ、リーダー。ROMとも言われてる。」
皇「・・・・・ROM?」
火野「リード・オンリー・マン。どっちも意味合いは、宇宙の全歴史を読める人間って事らしいんだけど。」
瀬能「へぇ。読むことしか出来ないんですね。」
皇「ああ、そこだよな。読むことしか出来ないんじゃ、大した事ないだろ?」
火野「あんた達ねぇ、これまで散々見てきたでしょ? 過去も未来も、全部、見えるのよ?」
瀬能「読めるんだったら、改変して欲しいですけど。ほら、タイムパラドックスものの一番の見せ場じゃないですか!歴史を変える!それで酷い目にあう!」
皇「・・・まぁ、酷い目にあわないと話が盛り上がらないからなぁ。」
火野「あのねぇ、歴史は既に、キッチリ、決まってるの。未来は全部、決まってるの。改変なんて不可能なのよ。」
瀬能「そこが納得いかないんですよ。私は私の考えで持って、動いているつもりですが、それすら、全部、決まっているっていうのが解せないです。じゃあ、私が、ここで、フォークを投げます!」
皇・火野「ちょ、やめろ!」
瀬能「?」
火野「なに、不思議そうな顔してんのよ? 頭、おかしいの? メイドさんにもお客さんにも迷惑かけるでしょ?」
皇「言いたい事はわかる。」
瀬能「止められました。・・・・私、本気でフォークを投げるつもりでしたが、結果、止められました。これも、宇宙のシナリオの通りだったという事ですか? そんな馬鹿な?」
火野「この世界に、イレギュラーは存在しない。宇宙の終わりまで、ぜんぶ、未来は決まっている。あんたがフォークを投げられなかったのも、決まっていた事。」
瀬能「御影。あなた、完全に『預言書』に感化されましたね。・・・・怖い、怖い。」
皇「全部、当たる、預言を目の当たりにしたらそうなるよな。命も狙われているんじゃ、な。」
火野「別に私はこんなもん、信じている訳じゃないわ。今は生き残る為に利用しているだけ。」
皇「その割に、私等、緊張感ないよなぁ。メイド喫茶でお茶してるし。・・・・・それにしても、メイドさんのパンツって、見えそうで見えないよな。上手い事、できてるよなぁ。感心するぜ。」
瀬能「あれは、パニエとアンスコ、おまけにタイツ履きですから、完全防備ですよ。反対に脱ぐのが大変だし、蒸れる。蒸れ蒸れです。」
火野「私の敵は日本政府だけじゃないの。・・・・・世界中にROMがいて、そいつ等も『預言書』を狙ってる。」
皇「幻魔大戦みたいだな。世界超能力戦争か?」
瀬能「日本人ってお尻がペッタンコなんで、基本、スカートが似合わないんですよ。スカートの丸みを出すのに、パニエとかアンスコで形を作っているんです。」
火野「胸だって、パット入れ入れよ。」
皇「お前等詳しいな。」
瀬能「じゃあ、アベンジャーズみたいな奴等が、御影の命を狙っているという事ですか?」
皇「お前、詰んだな。」
火野「詰んだとか言わないでよ。だから協力しなさいよ、私の為に。」
瀬能「正直、私達、関係ないし。恩恵も受けていないし。・・・・もっと、私に得な事があれば手伝いますよ。」
皇「私、思ったんだけどさ、三人で動くより、お前、一人で動いた方が、見つかりにくいんじゃないのか? 三人は目立つだろ?」
火野「・・・でもほら、何かと便利じゃない?三人の方が」
瀬能「そうですか?一人の方が動きやすいと思いますけど。」
皇「グループで活動するのはな、別々の任務をすることで、人数の理を活かしたり、特性を活かしたりするんだ。なんでもかんでも三人一緒にいたら時間の無駄だぞ?」
瀬能「じゃ、私は自宅で待機しています。留守を守っていますから、どうぞ、後は二人に任せます!」
火野「あんたねぇええええ!」
皇「あ、私も、自宅で、情報収集を行ってるわ。安心しろ、骨はいつでも拾ってやる!」
火野「ちょっとぉぉぉぉぉおぉおお!瑠思亜までぇえええええええ!」
瀬能「御影はとっとと、その『預言書』の本物を取ってきて、燃やすなり何なり、早くして下さいよ!」
火野「簡単に出来たら、苦労はないわよ!」
瀬能「はいはい」
火野「ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいい!」
瀬能「痛い、痛い、痛い! やめてぇええ、やめてぇえええええ」
火野「ふん! まぁいいわ。 まぁ、確かに、一人で動いた方が楽な場合もある。私もわざわざ危険を冒して警察署に突入する必要ある?って思ったもの。」
皇「・・・お前、不思議に思わなかったのか?」
火野「不思議とかそう言うんじゃなくて、そういう指示だから、指示に従ったの。あんた達と合流するもんだと思うじゃない?」
瀬能「きっと意味がある事なんでしょう?その『預言書』的には。『預言書』の始末に、御影だけじゃなくて、私と瑠思亜が必要になると。」
皇「まぁ、なんでもいいけどさ。」
瀬能「とりあえあず、ここのお会計、お願いします。私、無一文なんで。」
火野「はぁぁぁあああああああ?」
皇「あ、私も金、持ってないからな。」
火野「はぁぁああああああああああああああ?」
瀬能「だって、着の身着のまま警察署を脱走したんですよ?お金なんて持っている訳ないじゃないですか?」
皇「お前、幾ら持ってんだよ? 全世界規模の逃走犯なんだから、それ相応に持ってるんだろ?」
火野「まぁ、持ってるわよ。・・・・・一円玉で2万枚。」
皇「お前、迷惑だぞ?このご時世、硬貨で、しかも一円玉?」
瀬能「2万枚って、2万円じゃないですか?」
火野「仕方がないでしょ?逃走資金に用意してあったのがコレだったんだから。」
瀬能「なんか大事そうに、釣りの保冷バック持ってると思ったんですよ?それ一円玉ですか?」
火野「・・・そうよ。」
皇「ああ、もう、メイドさん呼べよ、時間がかかるから、会計するぞ? お前、謝れよ?いいな」
火野「だからなんで私が謝るのよ、その前に、あんた達、お金、持ってないじゃない!まず、私に感謝しなさいよ!」
瀬能「お金に関しては感謝しますが、お店にとっては大迷惑ですよね。反省した方がいいですよ?」
火野「お前が言うな!お前が!」
101号室「ついに、日本で動きが出たようだ。」
職員「本当ですか、長官」
101号室「ああ、確かだ。それは、聞くだけ野暮というものか、冗談のどちらかだ。」
職員「失礼しました。・・・ROM特有のギャグですものね。」
101号室「そういう事だ。リーダーである私に、本当か?と聞くのは、キスをしてから、キスをしていいか、聞くようなものだからな。ははははははは はははははははははははは」
職員「長官、その例え話は分かりづらいですが。」
101号室「失敬、失敬、それで、日本でリーダーを巡る事件が発生している。」
職員「確か、日本には現在、ROMはいないと思いましたが?」
101号室「・・・それが、以前亡くなったROMが残した、未来への『預言書』。それを日本政府が嗅ぎつけ、手に入れようとしている。」
職員「預言書?」
101号室「そうだ、『預言書』だ。」
職員「また面倒な物を残したものですね。そのROMは。」
101号室「確かに、君の言いたい事はわかる。只でさえ、我々ROMは世界中でその存在を狙われている。・・・未来が見えるというのは、神の力、そのものだからだ。だから我々”世界ROM救済機構”を編成し、独自に、世界中のROMを保護、救済、育成、ひいては平和活動に勤しんでいるのだ。今回、『預言書』を巡って、日本のみならず、アメリカ、中国、ロシア、フランス、イギリス、各国の情報機関がそれを手に入れる為、水面下で、武力衝突が起こる。」
職員「大変な事じゃないですか!戦争じゃないですか!・・・第三次世界大戦じゃないですか!」
101号室「そうだ。各国の思惑は同じ。未来を手に入れること。神の力を手に入れること。我々、世界ROM救済機構は、直ちに、『預言書』を抹消しなければならない。争いの種は、早めに、消すに限る。」
職員「本当に面倒な物を残しましたね。世界を戦争に導く、火種を残すなんて。」
101号室「各国の政府情報機関だけじゃない。金で働くROMエージェントも、参戦する。」
職員「まさか!」
101号室「そうだ。ROM同士の戦いになる。・・・血を流す事は避けられない。」
職員「長官、大丈夫なんですか!」
101号室「私に、それを聞いて、どうするのかね? ははははははははははははははははははははは 君は、私に抱かれてから、シャワーを浴びるのかね? ははははははははははははははははは ははははははははははははははははは」
職員「・・・そういう人もいますから、何とも、言えませんが。」
アルバトロス「なんだと? 『預言書』?」
男C「ああ。そうだ。お前はそれを手に入れろ。」
アルバトロス「確認だが、そんなものが、本当に必要なものなのか? 俺には理解できないが。」
男C「お前は我々に質問するな。お前はこちらの指示に従っていればいい。お前はノラのROMだからな。」
アルバトロス「フリーのROMと言ってくれ。俺は金さえ頂ければ、何でも、やってやる。金次第だがな。」
男C「金はいつもの口座に振り込んでおく。前金をだ。後は、成功報酬だ。」
アルバトロス「言っておくが、金次第じゃ、受けないぜ?」
男C「なんだと?」
アルバトロス「当然だ。・・・今回の獲物はROM関係だろう? 敵がROMならば、予知合戦だ。向こうもこっちの動きを見ているし、こっちも向こうの様子を見て動く。常に命のやり取りをしているのと同じ、いつもと同じ金じゃ安くて堪らない。3倍だ、3倍出せ、いいな。」
男C「お前、我々にそんな事を言っていいのか?」
アルバトロス「じゃあ、交渉決裂だ。死ね」
男C「な・・・・・」
アルバトロス「馬鹿な奴等だ。リーダーを敵に回すからだ。ギャハハハハハハハハハハハハハッハ ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
男D「アルバトロス、金は5倍出す。どうだ、受けてくれないか?」
アルバトロス「・・・・・フン。喰えない奴らだ。まだ他の奴がいたのか。」
男D「当然だ。ROMを相手にしているんだ。保険に保険をかけていなければこちらも命がいくらあっても足りないくらいだ。」
アルバトロス「まぁ、分かった。いつもの5倍で、請け負うとしよう。」
男D「場所は日本だ。」
アルバトロス「地球の反対側か。いいだろう。」
谷「君達、仕事増やしてどうするの?」
草間・寺田「官房長官、申し訳ありません。」
谷「結局、今日はここで寝るしかないか」
寺田「官房長官も、捕まるとは思っていませんでしたよ?」
草間「課長!」
谷「君もだよ? なんで、政務官の身元保証に私が来なけりゃいけなかったんだよ?」
寺田「いや、身元保証を、信じてくれないので、あの警察官」
草間「私も、クビにするって言ったんですけど。」
谷「君、そんな事、言ったの?」
草間「警視総監に言えば、クビに出来るじゃないですか?」
寺田「草間君。それ、脅迫だよ? 懲戒免職だよ?」
谷「君達、私文書偽造で、懲戒免職とか、あの刑事、言ってたよ?」
草間・寺田「は?」
草間「おかしいですよ? 官房長官、あの刑事、どうにかして下さい!」
寺田「どうにもならないでしょ、草間君。あまり官房長官にご無理な事をいうな」
谷「君もな」
寺田「向こうは、職務を遂行しているだけだし。・・・・無下には出来ないし。」
草間「課長、そんな事、言っても、私達は、こうやって被害を受けているんですよ。何が私文書偽造ですか? 今、国家の危機なんですよ!」
谷「我々が危機だがね。」
草間「違法逮捕ですよ!」
谷「総理大臣か、副総理大臣、呼ぶか」
101号室「エージェントのタンスジを呼べ」
職員「了解しました」
タンスジ「呼びましたか?長官」
101号室「重要事案が発生した。君が適任だ。」
タンスジ「『預言書』とか、なんとか、」
101号室「そうだ。我々は直ちに、その『預言書』を回収し、破棄するのだ。頼んだぞ、タンスジ。」
タンスジ「わかったわ、長官。日本人の私なら、不自然に思われないものね。」
※本作品は全編会話劇です。ご了承下さい。