預言書 第10話
官房長官「おい、聞いているのか! 開けろ! ここを開けろ! 聞こえないのか!」
課長「こっちは現職の総理大臣を人質に取っているんだぞ! おい、何をしている!」
阿久津「署長、どうしましょう? 怒ってますよ?」
署長「そりゃ、怒るでしょ? こんな所に閉じ込めているんだから。」
課長「おい! 聞こえないのか! おい!ボンクラ警察どもぉおおおおおおおおおおおお!」
阿久津「はい、聞こえていますけど・・・」
課長「早く、ここを開けろ!」
阿久津「そうですね、そうしたいんですが・・・」
官房長官「君では話にならない。・・・我々は、ほら、見たまえ。総理大臣を人質にとっているんだ。総理大臣がどうなってもいいと言うのかね?」
署長「阿久津君、警視総監が来るまでの辛抱だ。・・・ほら、時間稼ぎ、時間稼ぎ、」
阿久津「署長、そんなの無理がありますよ?向こうは人質を取っているんですよ?」
課長「お前達、総理大臣がどうなってもいいのか?」
総理大臣「ん゛ん゛」
阿久津「でも、今のところ、その人は自称総理大臣で、あなたも、自称官房長官。あなたに至っては、公務執行妨害ですよ? あと、小太りなオジサンがいましたよね?」
課長「小太りというのは、草間君の事かな?」
官房長官「君ぃ、少し、痩せた方がいいよ?健康診断で再検査にでもなったらまた医療費がかさむんだよ?誰がその税金を払うと思ってんの?」
草間「・・・申し訳ありません。体質なもので。」
課長「草間君、それは言い訳だよぉ?」
官房長官「まず、警察は、我々に、朝食を提供したまえ! 私は腹が減っている。朝食を提供したまえ!」
阿久津「・・・署長、メシを出せって言ってますよ?」
署長「えぇ?ご飯、食べたいの? なんで?」
阿久津「そりゃぁ、食べてないからじゃないんですか?」
署長「阿久津君、出してないの?」
阿久津「知りませんよ?僕、当番じゃないんですから。」
署長「困るよん、それぇ。また、私の所為になっちゃうじゃない?」
課長「おい、聞いているのか! 官房長官は朝食をご所望だ! 早く用意しろ!」
阿久津「お腹が減ってイライラしているんじゃないんですか?」
署長「・・・用意できるもんなんてないよぉ?」
阿久津「おい!お前達!」
課長「警察風情がぁ、何を生意気な!」
官房長官「まあ待ちたまえ、寺田君。」
阿久津「一応、聞いておく! お前達は何が食べたいんだ? 都合によっては用意できない場合もあるが、可能な限り、要望には応えたい!」
官房長官「私はとにかく腹が減っている。・・・朝食は、日本食だ!納豆と海苔。焼き鮭。それから、味噌汁。それと、コーヒーを希望だ。」
署長「それは牛丼屋に行った方がいいんじゃないんですか?」
官房長官「聞こえているぞ」
阿久津「僕は何も言っていない。・・・じゃ、その、牛丼屋で売っている定食でいいんだな?」
官房長官「牛丼屋とは言っていない。それらのメニューを網羅したものを出せと、要求している。いいか?こっちは現役の総理大臣を人質に取っているんだぞ?忘れるな?」
阿久津「忘れてはいないけど・・・・今から、牛丼屋に行くと、二十分はかかる!」
課長「デリバリーがあるだろ?デリバリーが?」
署長「デリバリー? なんだい、それは、私は夜のお仕事の人しかしらないよ?」
阿久津「今、持って来てくれるんですよ?ご存知ないんですか、署長」
署長「出前? 出前のこと?昔からあるじゃん? 梅さんでしょ?ピョン吉の。」
阿久津「今は宅配です。宅配サービス。出前だと、入れ物を返さなくちゃいけないじゃないですか?あれです、プラスチック容器で持って来てくれるんですよ。」
署長「えぇぇぇ、今、そうなってんの?」
課長「ごちゃごちゃ五月蠅い!早く、持って来い!」
阿久津「今、デリバリーで注文する! お金を用意して待ってろ!」
官房長官「おいおいおいおい! どうしてこっちが金を出すんだ! 警察が出すもんだろ!」
課長「お前達、あまりふざけていると、人質の保証はないぞ?」
阿久津「いやいやいやいや。公務員だぞこっちは。我々は皆さんの税金で運営されているんだ、あやしい人間のメシ代を税金で払う訳にはいかない!自分達で払え!」
官房長官「いい加減な事を言うな!」
課長「官房長官、これは事実です。仕方がありません。」
官房長官「どういう事だね、寺田君。」
課長「税金で運営されている以上、他者に、飲食を提供すると、賄賂と疑われてしまいます。仕方がありません。ここは、肉を切って骨を断つ。お金を用意しましょう。」
官房長官「賄賂だと? 寺田君、何を言っているんだ!」
阿久津「いいか!一人、八百円だ、八百円、用意しておけ!後で徴収する!」
課長「ふざけるな!高いぞ!警察がぼったくる気か!」
官房長官「なんでもいい、払うから、早く、メシを用意しろ! 寺田君、私の分は君が立て替えてくれ。」
課長「官房長官、私、お金を持ち合わせおりません。」
官房長官「なんだと!」
課長「草間君。私と官房長官は現金を持ち合わせていない、君が立て替えるんだ。」
草間「え? 待って下さい、私、そんなに持っていませんよ。」
官房長官「幾ら持っているんだ?」
草間「・・・三千円です。」
課長「払えるじゃないか。出したまえよ。」
草間「いやいやいや、困ります。私、これで生活しているんで。」
官房長官「後から払うから。今は出しなさいよ? 官房機密費っていうのがあってね、君に、幾らでもあげるから。ほら、1億でも2億でも。」
草間「いや、でも、そんな先の話、分からないじゃないですか。口約束ですし。あの、このお金、大切なお金なんです。なけなしの金なんです、出せませんよ。」
課長「草間君、これは課長命令だよ? 出しなさいぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
草間「は? 課長、それは職権乱用なのでは?」
官房長官「出しなさいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいい!」
署長「なんか凄い揉めてるけど。」
阿久津「知りませんよ。」
警視総監「それで、状況は?」
署長「警視総監、お待ちしておりました!待ってました、待ってました!」
警視総監「それで?」
署長「あの、あちらなんですが。留置場に、立てこもっております。総理大臣を人質にして。」
警視総監「そう。」
署長「あの、警視総監」
警視総監「なんですか?」
署長「・・・こちらの方は?」
姑「あ、どうも。はじめまして。厚子さんの義理母です。よろしくお願いします。」
警視総監「お義母さん、口を出さないって約束でしょ?」
姑「あらやだ、何も言ってないじゃない?ねぇ?」
警視総監「いいから、お義母さんはこっちに来ていて下さい。邪魔ですから。」
姑「すぐこの嫁は、人を邪魔者扱いするぅ!」
警視総監「していません。」
姑「あ、どうも。厚子の義理の母です。よろしくお願いします。」
官房長官「あ、どうも。はじめまして。」
課長「あ、こんにちは。」
姑「これ、よかったら、召し上がって下さい。・・・もらった、みかん。どうぞ。」
草間「・・・あ、どうも。」
総理大臣「ん゛ん゛ ん゛ん゛ん゛」
姑「あらやだ、この人、縛られてる! あなた、大丈夫?大丈夫よね?」
警視総監「お義母さん、無暗に変な人と話さない!」
官房長官「警視総監! 私は変な人ではないぞ!」
姑「うちの嫁が申し訳ありません。ご気分を損ねてしまったようで。・・・嫁に変わって、私が謝らさせていただきます。」
官房長官「・・・お義母さん。」
警視総監「お義母さん、その人、・・・・誘拐犯なのよ!あぶないから!」
姑「あらやだ!」
官房長官「お義母さん、私は断じて、誘拐犯などではありませんよ!」
警視総監「自称、官房長官! あなた方の要求はなに?」
官房長官「自称ではない! 本物の官房長官だ!」
警視総監「似たようなもんでしょ!」
課長「まったく違う!」
阿久津「あの官房長官、あの人達は、あの縛られている自称、総理大臣を人質に、自分達の解放を要求しています。」
警視総監「・・・仲間割れ?」
総理大臣「ん゛ん゛ん!」
警視総監「そもそも、あなたが、あんな訳の分からない連中を牢屋に入れたのが問題なんでしょ? 責任取りなさいよ!」
阿久津「僕がですか?」
姑「怖い、怖い、怖い、嫁ねぇ」
阿久津「署長、なんとか言って下さい、助けて下さい!」
署長「仕方がない。阿久津君。諦めるんだ。」
阿久津「署長~」
署長「警視総監、でも考え方によっては、既に、牢屋に確保している事になります。」
警視総監「事件が始まる前に、逮捕していた、と言う事?」
署長「ええ。おっしゃる通りです。これも、全て、警視総監のお手柄。」
警視総監「まぁ、考え方によっては、もう牢屋の中だもんね。これ以上、騒ぐ必要もないわ。」
官房長官「お前達は何を言っているんだ! ここには、現職の総理がいるんだぞ! 総理がどうなってもいいのか! 早くメシを持って来い!焼き魚と納豆と、味噌汁!他、だ!」
課長「我々は我慢の限界だ! 草間君、君、なに、みかんなんか食ってんだ?」
草間「いや、あの、おばあちゃんにもらったので。」
姑「あんた達も、みかん、食べるかい?」
課長「いただけるんですか?」
姑「はいよ、みかん。そっちの人も食べるかい?はいよ、みかん。」
官房長官「ありがとうございます。・・・ああ、お義母さんは、警視総監よりよっぽども優しい!」
警視総監「官房長官はダマされているのよ!」
姑「やだやだ、うちの嫁は。すぐ人を悪く言う。」
課長「お義母さんは悪くないですよ。ほんと、いい人だと思います。」
官房長官「私も、そう思いますよ。これからも頑張って下さい、嫁に負けないで。」
姑「ありがとねぇ。」
警視総監「お義母さんは危ないから、こっちに来てって言ってるでしょ?」
配達員(男)「あのぉ、ウーバーです。イーツです。・・・ご注文の、牛丼、お持ちしたんですが?」
警視総監「誰?あの、外国人?」
阿久津「あ、自称官房長官が牛丼セットを食べたいって言っていたので、注文しておいたんです。もちろん自腹で。」
警視総監「自腹ね。よし。」
配達員(男)「どうしたらいいでしょう?」
阿久津「あ、ありがとうございます。・・・あの、向こうに、牢屋があるんですけど?」
配達員(男)「牢屋?」
阿久津「ええ。・・・案内します。こちらです。どうぞ。」
配達員(男)「ウーバーです。ご注文の牛丼をお持ちしました。」
官房長官「待ってたよ!待ってたよ!・・・こっち、こっち」
阿久津「じゃあ、開けますね。どうぞ。」
配達員(男)「えっと、皆さん、全員、同じものでよろしかったでしょうか?同じ、セットになってますけど。焼き魚の鮭。納豆。海苔。あと、味噌汁。ええっと、三人前。」
総理大臣「!」
官房長官「占部総理。あなたの分を頼むと思っていましたか?・・・頼むわけないでしょ?」
草間「・・・・官房長官、それ、全部、私の立て替えです。」
課長「草間君、いつか、返すって言ってるじゃないか!君も小さい男だねぇ。」
官房長官「!」
配達員(男)「どうされました?」
官房長官「ご飯がないよ!ご飯が! ご飯がないよ! 君、ご飯がないよ!」
配達員(男)「え? いや、まってください。間違ってないですよ? 注文通りですよ?」
官房長官「どうなってんの?寺田君!」
課長「草間君、君、これ、どうなってんの?」
草間「私、知りませんよ! あ! 警察!そこの、警察官!」
阿久津「? ・・・僕ですか?」
草間「あんた、ご飯を注文し忘れただろう?」
阿久津「は? 何いってんの? 聞いてないですよ?ご飯? あなた方、ご飯って言いました?言ってないですよね?私、言われた通り、注文したんですから。」
官房長官「君ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいい! ご飯なんて言わなくても付けるのが当然でしょ!なに、やってんのぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
阿久津「え?」
官房長官「え、じゃないよ! 君、警察官、クビだよ、クビ! こんなんで警察やっていけると思ってんの?官房長官権限でクビ!ご飯を注文しなかったからクビぃぃぃぃぃっぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
課長「君ねぇ、官房長官がお怒りになるのもごもっともだよ。ご飯がなけりゃ、食べられないよ!」
阿久津「ああ、あの、自称の皆さん。自分の当たり前を人に押し付けるのはやめて下さい! ご飯が食べたいなら、ご飯を食べるって、最初に、言えばいいじゃないですか!ああああああ?」
官房長官「開き直りかね?君、開き直り?」
配達員(女)「あのぉ、こちらに、牛丼を注文された方、いらっしゃいますか?」
署長「また、注文したの?」
阿久津「知りませんよ?」
官房長官「君、重複注文したの? 困るよぉ?」
草間「困るのは私ですよ?お金もっていませんよ?」
阿久津「いや、ええぇ? 僕、注文していませんよ?」
配達員(女)「いや、だって、ここに、牛丼のセットを持ってくるように、注文が入ったので。・・・困ります。」
警視総監「阿久津刑事、責任を取って、君が払え!」
阿久津「ええええええ?嫌ですよ!」
署長「阿久津君。諦めろ。」
配達員(女)「いいですか、失礼しますよ? ええっと、じゃあ、焼き鮭。海苔。納豆。味噌汁。これの三人前です。」
官房長官「また、ご飯が無いぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
課長「君、ふざけんの?」
阿久津「ふざけてませんよ? だから、何度も言いますけど、ご飯が食べたいなら最初からご飯と言ってくれと、何度も言っているでしょうが!」
草間「私、三人分しか立て替えませんからね。そっちの三人分は本当に、知りませんからね。」
阿久津「食べるんだから、そっちで、立て替えて下さいよ!」
姑「ほら、みかん、食べなさい」
ガチャン
配達員(男)「ふははははははははははははははははははははははははははははは ふははははははははははははははははははははははははは」
警視総監「どうしたの?」
配達員(男)「まだ気が付かないのか? 日本の警察も、大したことがないな。」
署長「何を言っているぅ! ウーバーの配達員が!」
配達員(男)「私は飲食の配達員などではない。殺し屋だ。」
官房長官「殺し屋ゃゃゃゃゃゃぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!」
阿久津「殺し屋?」
配達員(男)「ああ、そうだ。」
署長「見るからに、掘りが深くて、白人だから、日本人には見えなかったけども。デカイし。」
警視総監「外国人労働者は沢山いるから、不思議じゃないけど。」
配達員(男)「総理大臣と官房長官と接触する為に、わざわざ、ウーバーの配達員に成り済まして警察に潜入したのだ。」
阿久津「はぁぁぁああ!」
草間「何の為に!」
配達員(男)「ああ、もちろん、君達が探している『預言書』の為だよ。」
課長「『預言書』だとぉおおおおおおおおおおおお!」
官房長官「何故漏れている!『預言書』の情報は機密だったハズだ! 寺田くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうううん!」
課長「草間君、どういう事だね、説明しないかぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁあああああああ!」
草間「情報が漏れるなんてあり得ない。貴様! まさか!」
配達員(男)「ああ、そうだ。お前が思っている通りだ。私はROMだ。」
阿久津「ROM?」
警視総監「なによ、ROMって?それに預言書?」
署長「あのぉ、自称の官房長官と総理大臣が、その預言書がなんたらって揉めてました。」
配達員(男)「『預言書』を手に入れるには、日本のスパイ組織に接触するのが、一番の方法だからな。勝手に『預言書』が手に入る寸法だ。」
官房長官「くそぉ」
配達員(女)「そうはいかないわぁああああああああああ!」
配達員(男)「誰だ、貴様! 只の配達員ではないな!」
配達員(女)「私も只の配達員じゃない。・・・・私は、世界ROM救済機構のエージェント、タンスジよ!」
課長「タンスジ!」
官房長官「世界ROM救済機構!」
配達員(男)「お前が世界ROM救済機構のエージェントか。ふははははははははははは、面白い。俺は、ROMの殺し屋、マーチバンドさ。」
警視総監「マーチバンド?」
タンスジ「私は、『預言書』を日本政府にも、そして、殺し屋、お前にも渡さない!」
マーチバンド「ふははははははははははははは エージェント如きが何が出来る!笑わせるな!」
官房長官「くそ、『預言書』を狙っている連中が他にいるとは、寺田君!」
課長「草間君、何をやっているんだ!」
草間「えぇぇぇえ?」
姑「厚子さん、この不始末、どうしてくれるのかしら?」
警視総監「私、関係ありませんから。時間になったら、子供の迎えに行きますから。」
署長「そんな事、言わないで下さいよ、警視総監!」
阿久津「・・・・・警視総監と署長と僕以外は、みんな、牢屋の中だから、ま、大して状況は変わっていないんじゃないんですか?」
総理大臣「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛んんんんん!」
官房長官「そんな事より、君ぃぃぃぃぃぃぃぃ、お茶がないと、食事が出来ないじゃないかぁぁぁあああああああああああああああああ!」
草間「僕はお金、払いませんよ?あくまで立て替えるだけですからね。」
※本作品は全編会話劇です。ご了承下さい。