アグス・ティニア
アグス・ティニア
熊友大学の学生タケシはマッチングアプリで出会った女性と「アメリカ」という名前のカフェにいた。
「アメリカ」という名前から店の雰囲気や料理がアメリカぽいのかなと入店する前は思っていたが、名前とアメリカは関係なかった。単にこのカフェのオーナーがアメリカが好きでカフェの名前に採用したらしい。店のメニュー表の裏にそう書いてあった。
マッチングアプリで出会った女性はアグス・ティニアという名前で、日本に長く住んでいる海外の方だ。アプリ上のプロフィールから海外の方ということは知っていたのでタケシは会ったときびっくりはしなかった。
「私日本に来てから長いですけど、日本っていいですよね。安全で」
彼女はアールグレイが入ったマグカップを持ちながら言った。確かに日本は安全である。危ない事件も多く起こるが、海外に比べると少ないのではないだろうか。
日本では席を立つために場所取りとして物を置きっぱなしにするが、その行為は日本だから出来るものである。海外で同じようなことを行なったら、戻ってきたときに荷物は無くなっている。
「私ししとうが好きなんです」
彼女はそう言った。ししとうが好きと聞いても何も言い返せなかった。そーなんですねとしかタケシは言えなかった。別に彼女の好きなものに興味がないわけではない。ししとうという食べ物に興味がないのである。
「遣唐使って894年に廃止されたんですよ。知ってましたか」
彼女はそう言った。タケシはそれを知っていたが、返し方が分からなかった。知ってますよ、菅原道真がねとか言えば良かったのかもしれない。もしくは知らないふりをすればよかったのか。
「タケシさん、さっきから私の話に全然興味ないですよね。聞いてることは分かってるんですけど返しが雑だったり、頷きだけだったり。そういうのすぐばれますよ」
「聞いてるし興味があることに対しては興味があったけど、どう返していいかわからなかったんだよ。アグスさんのことはプロフィールをみたから、書いてることは頭に入ってる。そこから質問すればよかったかもしれないけど、何質問していいかも分からなくてさ。あまり異性の方と話すの慣れてないんだよね」
「異性の人と慣れていないのに、なぜ私のような外国の方と話そうと思ったのか不思議です」
「それは日本人の女子に苦手意識があるからで、かといって・・・」
「なら私がタケシさんだけに秘密を教えます。これはびっくりしますよ。絶対興味がわいて質問できるはずです。もしかしたら嘘ついてると思われて呆れられるかもしれませんが、それでも言いますね」
彼女が秘密を打ち明けている間タケシは彼女の髪の毛を見ていた。とげとげした髪の毛を見ていた。その後タケシは目を見ていた。とても嘘をついているようには見えない純粋そうなきれいな目をしていた。
アグスティニア、アルゼンチンで見つかった恐竜の名前。そう、彼女は恐竜だった。