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三章③ 中身

 念の為にもう一度周囲の確認をしてから春人達は宝箱の元へと向かった。通路に誰か見張りに残すことも考えたが、何かあった時にはぐれる危険の方が大きい。当初からの方針通り現状は一蓮托生いちれんたくしょうで行くしかないのだ。


「今更だけど鍵かかってたりしないのかな」

「そういやその可能性もあったな」


 ゲームなどでは鍵付きの宝箱は定番だ。その場合は宝箱用の鍵がどこかに落ちていたり盗賊など鍵開けの技能を持った仲間が必要になる。徘徊はいかいしている怪物たちが凶悪なことを考えると宝箱を空ける難易度も高い可能性はあるだろう。


「そんなの試してみればわかるでしょ」


 急かすように天音が口を挟む。開かなければさっさと撤退でいいのだ。行き止まりにいる時間は短い方がいい。


「鍵穴っぽいものはついてないな」


 改めて宝箱の外観を確認して透が言う。宝箱は人が入れそうなくらいのサイズだが鍵穴のようなくぼみはついてなかった。仕掛けのような飾りもなく、シンプルに開け閉めができるだけの箱に見える。


「じゃあ、開けるけど」


 宝箱に手をかけ、確認するように春人は三人を見る。開ける決定を下した当人としてその役割は自分がすると春人は主張した。三人はそれに反対はしなかったが代わりにと一つの提案をしていた。


「本当に離れてなくていいの?」


 春人の最後の確認に透は肩をすくめ、天音は憮然とした表情で見返し、彩花も怯えを隠せないながらも退く意思はなくこくこくと頷く。一蓮托生といってもそれは不要なリスクじゃないのかと春人は思うのだけど、三人が傍に控えていることに安心するのも確かだった。


「開けるよ」


 声をかけて箱に手をかける。金属製なだけにずっしりとした抵抗。それでも持ち上げることは問題なさそうで、春人は腕に力を込めて蓋を持ち上げた。そのまま少し開いて手を止めるが何か起こる気配はない…………意を決して蓋を反対側へ放るように勢いよく開ける。


「開いたわね」


 箱の向こうまで蓋の開かれた宝箱に天音が告げる。


「とりあえず、罠はなかったみたいだな」

「…………そうですね」


 春人はほっと一息を吐く。


「で、中には何が入ってたの?」

「…………これから見るよ」


 少なくとも開いたその時点で見えるような大きなものは入っていないようだった。せっかくなので四人で近寄って他の上から覗き見る。


「短剣、ですね」


 覗き込んだまま彩花がぽつりとつぶやく。その箱の大きさに似つかない小さな短剣らしきものが宝箱の底に鎮座していた。


「短剣だな」


 透が繰り返す。刃渡りは十五センチくらい。作り自体はシンプルで飾りも少なく、持ち手の先に付いた宝石らしきものが唯一の装飾だろうか。それを収める鞘も黒く染めた皮製でなんというか地味な印象だ。


「これが命の危険に見合う物なの?」


 呆れるような天音の声。刃物であれば包丁もあるし春人もナイフを持っている。長剣などであれば化け物に対する備えになるかもしれないが短剣ではどうしようもない…………まあ、仮に長剣であったとしてもあの化け物達に勝てるとは天音も思わないが。


「えっとまあ、ないよりはマシなんじゃないかな」


 ナイフにせよ包丁にせよ使えば損耗そんもうするものだ。手入れの道具があれば別だろうがさすがに春人もそこまでは用意していない。だから予備になる物が手に入ったと考えれば無駄ではないだろう…………まあ、リスクに見合うかと言われれば天音の言う通りだけど。


「箱は無駄にでかいのにな」


 そこに入っているのは短剣一本と無駄なスペースだ。やれやれと肩をすくめてから透は手を突っ込んで短剣を取り出す。そのまま試しに鞘から引き抜いてみるが刀身も何の変哲もなくただの金属の刃にしか見えない。


「とりあえず戻るか」

「そうですね」


 春人は同意する。いつまでも行き止まりで留まって居るのは危険だ。天音も彩花もそれには同意してとりあえず分かれ道まで戻ることになった。


「次の宝箱は開けるのは反対だからね」

「でもほら、罠はなかったし」

「次元は限らないでしょう?」


 春人と天音がそんなやりとりをして歩き始めたその横で、透が消えた…………正確には恐ろしい速さで他の三人を置き去りにしたのだ。


「え?」


 ぽかんとする三人が事態を理解する前に大きな音が響く…………何が起こったのか見てみればまるで漫画のように透が通路の先の壁面へと張り付いていた。


「透さん!?」


 慌てて春人が駆けだす。漫画ならギャグで済むかもしれないがこれは現実だ。一瞬であれだけの距離を移動するような速度で壁にぶち当たればどうなるかは想像に難くない。何が起こったかを理解するより前にまず彼を助けなければと走った。


「どうなってるのよ!?」

「わからないっ!?」


 それに追いすがって来た天音に叫んで返す。本当にわからない。わかるのは壁に張り付くような状態だった透が床へと倒れこんだという状況の変化だけだった。


「わっ、これ大丈夫なの!?」


 駆け寄って目にしたのは壁から剥がれるように床へと倒れ込み、その顔面を陥没させた透の姿だった。血が溢れ出し真っ赤に染まったその顔からは意識があるかどうかも読み取れない。


「わからない」


 悲鳴のような天音の言葉に同じ返答をしながら春人は手早くリュックを下ろし、その中から回復の水を入れたペットボトルを取り出す。


 バシャッ


 そしてそれを迷うことなく透の顔へとぶっかけた。これで治ってくれるなら良し、治らないならどうすればいいのかそれこそわからない。しかし幸いというかまるで逆再生のように透の顔面は修復されていく。ほんの数秒と経たないうちに彼の顔は元通りになった。


「…………すごいわね」


 それを見て思わずといったように天音が呟く。


「でも意識が戻ってない」


 修復された透の目は閉じられたままだ。


「全身打ってるみたいだし体にもかけた方がいいんじゃない?」

「確かにそうだ」


 春人はもう一本ペットボトルを取り出してそれを今度は透の全身にかける。当然服は水浸しになるが今はそれを考慮できる状態じゃなかった。


「冷てえっ!?」


 するとしばらくして透は跳ね起きた。


「うわ、なんでびしょぬれなんだよ!?」


 そして状況がわからずぐっしょりと濡れた自分の服を摘まむ。


「…………元気になったわね」


 そんな彼を冷静に天音が見やる。


「えっと、大丈夫ですか?」


 事情をどれくらい把握しているかの確認もかねて春人は透へ尋ねる。


「…………あー、大丈夫だ。概ね何が起こったかも理解してる」


 それで少し冷静になったのか透はそう返答した。


「だ、大丈夫ですかー!」


 そこに遅れて彩香がやってくる。それで天音と二人慌てて走って彼女を置き去りにしてしまっていたことに春人は気づく…………手を掴んでおくべきだった。


「とりあえず、戻りながら話そう」

「わかりました」


 春人は頷く。


 回復の水も使ってしまったし、今は安全地帯まで戻るべきだろ。


 お読み頂きありがとうございます。

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