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三章② 宝箱

「それで、だ」


 宝箱のあった行き止まりから四人は分かれ道に戻り、化け物が周囲にいないことを確認して透が口を開く。


「さっきも言ったが俺としてはあの宝箱は開けたいと思ってる」


 まず最初に透はそう告げた。


「罠かもしれないって私言ったわよね」

「言ったな」


 睨むような天音に透は頷く。


「だが罠であったとしても俺は開けたい」

「意味わかんないんだけど」


 馬鹿を見るように天音が透を見た。


「えっと、それはつまり罠はあるけど中には良い物が入ってるかもってことですか?」


 そこに彩花が口を開いて尋ねる。


「それもあるが…………そもそも罠であるかもしれないからって開けない余裕が俺たちにはあるかって話だな」

「あ」


 言われてみればその通りだと春人は気づく。


「確かにそんな余裕は僕たちにはないですね」


 現状で四人には足りている物のほうが少ない。宝箱に食料などが入っているとは思えないが、現状で安全を確保できるような何かが入っている可能性はある…………危険を承知でも狙いに行くしかないのだ。


「リスクに見合うものが入ってる保証はあるの?」

「可能性としては高い」


 自信を持って透は言い切る。


「それはさっきも言ってたこの場所がクリア前提だからってこと?」

「それもあるが…………この場合は罠の可能性があるからだな」

「意味が分からないんだけど」


 天音は眉を顰める。


「ちょっとした考え方の問題だ…………春人はわかるだろう?」

「まあ、なんとなくは」


 透の考え方は春人も理解してきている。


「なによ、わかんないの私だけってこと?」


 天音は顔をしかめるが、この場にはもう一人いたことを思い出す。


「彩香は、わかるの?」

「えっと…………私は」

「別に私に気を遣わなくもいいわよ」


 困ったような表情を浮かべる彩香に天音は表情を和らげる。


「それならせっかくだか彩香から説明してあげたら?」


 これはいい機会だと春人が提案する。自分が役に立てていないと気に病んでいる彼女だから、貢献できる機会は生かしてあげた方がいい。


「そうね、天音相手なら腹も立たないし…………お願いするわ」

「えっ、えっ!?」


 二人から振られて彩香は戸惑うが


「わ、わかりました!」


 少しして意を決したように頷く。


「それじゃあ説明しますね!」

「…………ええと、うん」


 急にやる気に満ちた視線にたじろぎつつも天音も頷く。


「あのね、あの宝箱を空けて罠で、その次も罠だったら天音ならどうする?」

「もう二度と宝箱には近寄らないわね」

「そうなっちゃうよね」


 それには彩香も同意する。


「でもそうなるとたくさん宝箱の罠をおいても最初の一つか二つにしかかからないってことになっちゃうよね」

「あー…………そういうこと」


 そこまで説明されてようやく天音も合点がいった。


「宝箱を開けさせる動機として当たりの箱が必要なわけね」

「うん」


 彩香は頷く。宝箱が罠だらけであれば空けなくなるのは当然の流れだ。だから開けさせたい側としては当たりの箱を、それもできるならハズレよりも多く設置しなければならない。基本的には当たりで時々罠くらいのほうが引っ掛かる可能性だって高いことだろう。


「他にもさっき私が言ったみたいに罠はあるけど中身は入ってるみたいな場合もあると思うの」

「…………なるほど、そうね」


 それはそれであえて罠に踏み込ませることができる。


「後はハズレが多くてものすごく大きな当たりがあるって場合もあるけど…………それだと当たりが出る前に諦められちゃうだろうから、可能性は低いかな」


 大量に探索者がいる様なダンジョンならそれでも成立するかもしれないが、そうでないなら罠しかない宝箱と見られるだけだろう。


「えっと、それでね今あげた例だと…………」

「罠があるかもしれないけど、中身が手に入る可能性のほうが大きいってことよね」


 ここまで説明されれば天音だってわかる。


「よく理解できたわ。彩香、ありがとう」

「う、うん」


 お礼を言われて彩香は嬉しそうにはにかむ。


「でも」


 しかしきつい声色で天音は透を見る。


「それを踏まえて私は開けるのは反対」

「なんでだ?」

「罠を引いた時のリスクがそれでも大きいから…………死ぬかもしれないわよね?」

「その可能性はもちろんあるが、怪我で済む可能性は高いと俺は踏んでいる」


 中には即死トラップもあるだろうが、そこまでやばい罠はそうないとここまでのダンジョンの傾向から透は判断している…………この場所はかなり良心的だ。


「怪我なら治せるものは持ってるだろ?」

「重傷で大丈夫かはまだわからないでしょ」


 回復の泉から水はペットボトルに移し替えたが、どのくらいの傷まで治せるかはまだわかっていない。そしてそれは試したら駄目だったで済む類ではないのだ。


「何が入ってるかわからない物のために賭けるリスクではないと私は思う」

「それを確かめるためにも俺は開けておくべきだと思うぞ」


 二人の意見はどちらも間違っていない。つまるところどれくらいのリスクを許容できるかであって二人はその範囲が違うというだけだ。明確な正解が存在しないのだからこの場合どちらかが納得できるまで議論を重ねるか…………第三者に判断を委ねるかだ。


「平行線だな、ここはリーダーに決めてもらおう」


 透が春人を見る。天音もそれに同意するように彼を見た…………天音も透の言い分を理解していないわけではない。ただ許容できるリスクじゃないと彼女は考えていて、ただそれを話し合いで解決する余裕が自分たちにないことも理解していた。


「わかりました」


 春人はそれを承諾する…………するしかない。決定権を持つ人間が優柔不断ではその内誰も従わなくなる。今こそ彼はリーダーとして二人の意見のどちらかを速やかに採用して見せる必要があった。


「僕は開けるべきだと思う…………透さんの言う通りまだなにが入っているかすら僕らは知らないんだ。まずそれを確認して…………有用じゃないと判断したなら天音の言い分通り宝箱は避けていく方針でもいいと思う」


 現状では宝箱の中身は未知数だ。果たしてそれは開けるリスクに釣り合っているのかいないのか、まず一つ開けてみてからそれを判断するべきだと春人は考える。


「わかったわ」


 納得したわけではないが、リーダーの決定なら仕方ないというように天音は鼻を鳴らす。理不尽な理由でもない以上ここで抗弁してはリーダーを選んだ意味がない。流石に透も空気を読んだのか自分の意見が通ったことを勝ち誇って天音をからかったりもしなかった。


「開けよう」


 もう一度告げて皆の顔を見回し、春人は宝箱のあった行き止まりへと足を向けた。


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