表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/40

三章① 発見

 ダンジョン探索を再開したが相変わらず指標となる目的地はない。安全地帯である噴水広場に戻れることを念頭に置いて未開の通路を埋めるように進むだけだ。

 四人の現状を考えれば水の補給と安全な休息が取れる場所から容易に離れるわけにもいかないので、新しい安全地帯を見つけるまではその周囲を徹底して探索する予定だ…………その範囲に状況を改善できる何かがなければ詰みになってしまうが、他に選択肢はない。


 隊列は昨日と少し変えて透が先頭、その後ろに春人で彩花に天音と後ろに続く。彩花が一番体力もなく足も遅いので、彼女を最後尾におくと知らない間にはぐれる可能性があると気づいたからだ。


「ところでさ」


 しばらく進んだところで天音が口を開く。


「なに?」

「荷物は置いてきた方が良かったんじゃないの?」


 天音の視線は春人の背負うリュックに向けられている。そこには食料と水と小物が入っているから重量としてはそれなりだ。しかりリュックとして背負うことを考えればつらいというような重量でもない…………それでも長く歩くことを考えればそれも大きな負担だし、化け物から逃げる時にだってその重さは確実に逃げるための速度を奪うだろう。貴重な食料を投げ捨てて逃げるわけにもいかない。


 つまるところ天音の意見は一理ある。回復の噴水がある場所は化け物が入ってこられない安全地帯であることはわかっているので荷物を荒らされる心配はない。基本的にはあの場所に戻る前提で探索すると決めているのだから、置いてきたって問題はなかったはずなのだ。


「戻れる保証がないからね」


 けれどそれに対する春人の返答は簡潔だった。戻るつもりではあるし戻れる可能性は高いとも思っている…………けれどこのダンジョンは不測の事態の塊であることもわかっている。ケルベロスに遭遇し落とし穴に落ちなくてはいけなかった時のように、噴水広場に戻れなくなる事態が発生する可能性は高い。そのリスクを考えればやはり置いていくわけにはいかないだろう。


「あ、そういえばふと思い出したんですけど」


 そこに彩花が割り込んで口を開く。


「あのおじさんってこの階にいるんでしょうか?」

「おじさんって誰よ」


 思い至らないのか天音が聞き返す。


「最初に落とし穴に落ちたおっさんの事だろ」


 それに前方警戒をしたまま透が答えた。


「あー、そういえばそんなのもいたわね」


 思い出しつつもどうでも良さそうに天音が呟く。共に居たのは僅かな時間。しかもその少しの間でも受けたのは悪印象に近い。その後にも衝撃的な出来事が色々あったから、彼女の記憶から抜け落ちていても無理はないだろう。


「確かに同じ落とし穴に落ちたんだからいてもおかしくはないね」


 色々あったせいで春人も忘れてはいたが天音ほど悪印象ではない。確かに態度は悪かったがいきなりこんな状況に置かれればあんなものではないかと思う。とは言え積極的に探そうとは思わない…………なにせそんな余裕がない。見つけてしまえば流石に声をかけるだろうが、見つけるためにこの階層をしらみつぶしにしようとは全く思わなかった。


「同じところに落ちてれば痕跡くらい残ってそうだがな。あれは落とし穴って言っても転移系の罠だったから跳ばされる先はランダムかもしれないぞ?」


 ゲームでもそういったトラップは多い。大抵は完全ランダムではなく複数のパターンに飛ばされる形ではあるが、それは何度も試してみることのできない今の状況ではあまり関係ない話だ。


「それに仮に同じ場所に落ちてたとしてもだ…………あの様子じゃ数秒後には別の罠に引っかかってるんじゃねえかな」


 冷めた口調で透は続けてそう言った。実際のところ四人が生き延びて探索できているのも罠を見抜くことのできる透がいたからだ。落とし穴以外に致死性の罠が存在しているのも確認しているから、罠を見抜けずにさらに踏んだとすればその結果は想像するまでもない。


「あ、う…………そうですね」


 冷たい現実に彩花が気落ちした声で呟く…………彩花とて別にあの中年男に何か特別な思いがあるわけではないだろう。ふと思い出して話題になればと口にした程度の事だったはずなのに、思いのほかドライなみんなの反応にショックを受けてしまっていた。


「あー、まあ見かけたら助けよう」


 フォローを入れるように春人が口を開く。さすがに窮地を見かけて見捨てるほど皆薄情ではない…………はずだ。


「さすがにその場合は後味悪いからな」

「…………私だって見捨てろとは言わないわよ」

「そ、そうですよね!」


 透と天音の返答に少し元気を取り戻したように彩花が頷く…………もっとも透も天音も恐らくそんな状況に遭遇することはないのだろうと確信してのフォローではありそうだが。


「と、ストップ」


 不意に透が曲がり角で皆を制止する。


「罠ですか?」

「いや違う…………行き止まりだ」


 角の向こうを見たまま透が答えた。


「…………?」


 それに春人が首を傾げる。行き止まりならすぐに未知を戻るべきだ。幸い戻ってすぐに別の分かれ道があったはずだ。ここで時間をかければかけるほど、化け物がやって来て行き止まりへと追い詰められる危険性がある。


「行き止まりならとっとと戻ればいいじゃない」


 春人と同じことを考えたのか天音が言う。


「ま、そうなんだが…………ちょっと見てくれ」


 透が皆を手招きする。


「なによって…………なに?」

「あー、これは…………」

「…………宝箱、ですよね」


 三人で角の向こうに視線をやり、最後に見た彩花が的確にそこにあるものを述べる。行き止まりの通路のその奥、そこに宝箱としか呼びようのない箱が鎮座していた。遠目に見る限り全て金属製で装飾も派手であり、ちょっとランクの高い宝箱という雰囲気である。


「どう思う?」

「…………宝箱ですよね」


 春人は透にもう一度同じ言葉を繰り返した。それくらいいきなり現れたそれに対して考える頭が働かなかったのだ。ゲーム的だと透は繰り返し口にしていたが、こんな所までゲームっぽいのかよと頭の中で突っ込みを入れていた。


「普通に考えたら罠なんじゃないの?」


 そんな春人をよそに疑わしげな視線で天音が宝箱を睨みつける。まともに考えればこんなダンジョンの通路の一角に宝を単品で置いておく理由がない。最深部なり安全な場所に宝物庫を作ってまとめて置いておくのが正しいのだから。


「普通なら、な」


 しかしそれは普通の場合だ…………このダンジョンは普通ではない。


「だが前にも話した通りこのダンジョンがクリアされるために作られているなら話が変わってくる」


 回復の噴水と同じように、クリアの手助けのために配置されている可能性があるからだ。


「だからこそ罠って可能性もあるんじゃないの?」


 天音も透の言い分は理解しているが、このダンジョンはクリアされるためであって簡単にクリアさせるようなものではない。だから怪物や様々な罠が配置されているのだろうし、手助けと見せかけた罠があったっておかしくはない。


「お前さんの言い分は一理あるが…………俺はそのリスクがあっても開けたいと思う」

「なんでよ」

「それは…………あー、何にせよいったん戻らないか?」


 途中で言葉を止めて透は天音だけでなく春人たちへも視線を向ける。


「なんでよ」

「話をするにしてもここで長々というわけにはいかないだろ」

「…………そうね」


 それは天音にも同意できる話だった。四人は今行き止まりの通路にいるのだ。ここに化け物がやってくれば待っているのは確実なゲームオーバーだ。宝箱をどうするか話すにしても一旦逃げ場のある場所に移るべきだろう。


「じゃあ、ちょっと戻りましょう」


 リーダーである春人が決定して皆を促す。


 足早に四人は通路の分かれ道まで戻った。


 お読み頂きありがとうございます。

 励みになりますのでご評価、ブックマーク、感想等を頂けるとありがたいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ